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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
りゅうおうのおしごと
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消えた竜王とカタツムリ


カタツムリに俊敏な動きができるなんて誰が予想できる?


それでも全ては必然だ。現実は、非常に希有なバランスで成り立っている。


VAF内においても、俺たちの常識からかけはなれた事象は基本的に起こらない。


桜は燃えるように散り急ぎ、美少女は殺人鬼を模倣し、竜王は何にもまして強く、カタツムリの歩みは遅い、はずだった。


俺は摂理を覆すべくエチカとの再会を邪魔したカタツムリの行方を探していた。


「カタツムリぃ? 何ですかそれ」


俺の依頼を聞いた情報屋は素っ頓狂なリアクションを返してきた。霧深い埠頭でようやく見つけた情報屋はトレンチコートを着たネズミの姿をしている。


「やけに素早いカタツムリを探している。リョクメイ国の近辺に出没情報はないか」


「あの辺りは実装されて間もないから情報は少ないですよ。てっきり行方不明の竜王の情報を求められると思ってたんですがね」


今、VAFで持ちきりなのが、行方不明の竜王の話題だ。


竜王は一ヶ月前に彗星のごとく出現した高ランカーだ。竜王のハンドルネームに違わず、強力な竜の姿をしているらしい。


ただ強いだけのプレイヤーなら消えただけで話題になるはずがない。ある特徴的な行動をしていたため、耳目を集める結果になった。


竜王は不正を働いたプレイヤーを粛正して回っていた。不正といっても、あきらかなルール違反ではなく、弱いものを踏みにじるようなPKプレイヤキラーや、一部ギルドの富の独占など、運営の手が届かないグレーゾーンを見つけては叩いていった。


人々は竜王を正義の味方とか、おせっかいだと騒いだが、誰もその真意を知る者はいなかった。


俺は竜王が、運営の用意したBOTだと漠然と思っていた。大方、抑止力の役目を果たして消えたのだろう。


そう考えるのには理由がある。VAFのイベントでは終了時に、自分の評価が数値化される。評価にはいくつかの指標が組み合わせられ、相対的な自分の強さと弱さが分かる仕組みになっている。


俺のスコアはだいたい二千前後。これは全プレイヤーの中で下位の部類に入る。それは結果として受け入れる他ないにしても竜王の数値が明らかに異常だった。


三回前のイベントで竜王のスコアは六千万を超えた。二位に六倍差をつけてのフィニッシュだ。二位のプレイヤーは数百人規模のギルドの長だった。竜王が誰かと組んでいたという情報はなく、不正をしたのではないかと疑われた。その後、有志が調査したがシロだと判明したらしい。


不正をしていないからこそ、竜王の存在が疑わしくなるわけだ。


もちろん数値だけで厳密なプレイヤーの価値を計れるか疑問だが、数値の印象は絶大な威力をもたらしている。


竜王が現れて以降、目に見えて不正は減り、VAFは若干窮屈になった。誰が一番特をするかというと、プレイヤーをコントロールしたい運営側だろう。


竜王がボットではなく、自分の正義を押しつけるいけすかない奴だと考える者は依然存在する。


自分のために正義を行う奴などいない。人は他者のために正義を行うべきだ。


俺は竜王をBOTだと決めつけていたつもりだったが、その実、血肉の通ったプレイヤーだと信じたい相反する心理も同時に持っている。


竜王は俺に似ているのだ。力の所在をどこに求めていいか迷っているのだろう。贅沢な悩みだが、これが力を持つ者に課せられた責務なのだろうな。


くだらないシンパシーはこのくらいでよそう。今、俺が考えるべきことはエチカの出奔とカタツムリの関係だ。


カタツムリはエチカに近づくなと警告した。つまり、エチカと何らかの関係があるのは間違いない。


その点を踏まえて、いくつかの可能性が考えられる。



① どこかのギルドがエチカを無理矢理加入させている。カタツムリはその一味。ギルド構成員以外の接触を禁じているから俺を妨害した。カルトみたいな話だが、ないことはない。希少な能力を持ったプレイヤーを囲う話はよく聞かれる。ただ、特攻一辺倒のエチカにその価値があるかは疑問だ。可能性としては薄いか。


② エチカが意図的に俺を避けている。


カタツムリは用心棒のような存在でエチカを守った。ビジネスライクな関係。


エチカが俺を避ける動機がわからない。これまで良好な関係を築けていたと思っていたのは俺の錯覚だったのか?



③エチカはそもそも逃げ隠れしていない。


一番考えたくない可能性だが、俺の早とちりということもありうる。


音信不通になったからといって、エチカに問題が生じたとは言い切れない。


単に俺とゲームするが面倒になっただけとも考えられる。それならそれで構わないが、一言もないのは寂しいし、安否の確認はしたい。こうなると俺はエチカにとって無自覚なストーカーに成り下がっている。


最悪の可能性にあっても、カタツムリの存在がネックになる。俺を相手にしていないのなら、脅しのような真似をする必要もないし、気軽に会話できるはずだ。


堂々巡りになっているようだが、どれも推測の域は出ない。


やはり求めるべきは正確な情報だ。エチカに真意を問いただすには今の俺の力だけでは足りない。


カタツムリとエチカの情報が入ったら連絡をくれるように頼み、俺は自分の冒険に戻った。


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