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あの桜はまだ燃えているか  作者: 濱野乱
あの桜はまだ燃えているか 承前
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獣行く細道 其の四


「ハァ、ハァ、大事な戦いに臨む際はこれを着て戦え……、黒衣の看護婦を着れば、俺のスキルをレベル2まで使うことができるだろう。お前の晴れ姿を見れないのが残念でならない。検討を祈る。うっ……!」





エチカはかつての相棒からの贈り物を嫌々受け取ったが、使ってみるとその利便性の虜になった。


「ヒャッハー! 爆死爆死!」


爆発に巻き込まれるのも構わず、エチカは至近距離で爆弾を炸裂させた。


花菱は鬼道丸の肩に乗り、上空に逃れた。鬼道丸の足の裏には反重力クラフトのエンチャント(冒険者専用の護符)を取り付けているので空を飛ぶ事ができる。


「人の好意を無碍にするとは良い度胸じゃねえか。覚悟はできてんだろうな」


エチカは煙越しに、花菱を見上げた。誰であろうと情けをかけられるのは許せない。対等ではないと言われているのに等しいからだ。エチカは花菱と対等な関係を続けたい。たとえ敵味方に分かれたとしても、決着はつけなければならない。信条の問題だ。金銭は関係ない、多分。


鬼道丸が腕を伸ばし、急降下してきた。迎撃しても、直接花菱には響かない。あの人形は真正面から挑んでも破壊できそうにないし、爆薬を節約するためにも戦いを選ぶ必要がある。


エチカは鬼道丸から距離を取るために走った。鬼道丸も空から攻撃する手段がないのか地上に降りた。ホバリングしつつ、行く手を遮るように回り込んできた時には、エチカも腹を決めた。


ストローを口にくわえ、シャボン玉を膨らませる。シャボン玉も当然爆弾であり、破裂すると小規模な爆発が起こる。至近距離で爆発すれば人間の手足を吹き飛ばすくらいの威力が期待できた。


とはいえ相手は血の通わぬ人形。爆発では傷一つつけられず、牽制に使えるかも怪しかった。


低レベルのスキルで相手をできるほど甘い相手ではない。エチカにできるのは時間を稼ぐことぐらいだ。


「三分、いや二分で結構。足止めを頼みます」


エチカは突撃間際、ジゼルの決死の思いを受け取った。命と金の無駄遣いが嫌いなエチカはその気持ちをごく自然に汲んだ。


とはいえ、エチカの足の包帯は血が滲み、傷口が開いている。長くは持たない。


鬼道丸の素手での攻撃をかいくぐり、シャボン玉の弾幕で凌ぐ。慣れない戦いに神経をすり減らしながら、ひたすら時間の経過を待った。


「弱えくせにあたしの前に立ってんじゃねえぞ、コラ!」


爆発をすり抜けた鬼道丸の腕が、エチカの注射器をわし掴みにし、揺さぶった。離せばいいものを、エチカは注射器にしがみつくように抱えてあらがう。引っ張り合いに耐えられなくなった注射器にヒビが入り、中から黄色い液体が溢れだした。同時にマグネシウムが燃焼する時のような短い発火が起きた。注射器は液体火薬を入れるための容器だったのである。それがなくなっては爆弾は使えない。


「わかったろ? お前じゃ無理だ。諦めて金を返しな」


花菱は借金の取り立てに終始することで、面目を保とうとしていた。


再三の勧告も、エチカは頑として受け付けない。


「花ちゃん、命張ってる最中にそいつは野暮だよ」


「盗人猛々しいとはこのことだな。あたし以外にも被害者がいる。ユイもお前に金借りてるって言ってたぞ」


「まあまあ。後ろ見てみ」


目を離した隙に何が飛んでくるかわからない。花菱はエチカに目を据えたままだ。すっかり逆上して視野が狭くなっている。


「絶対後悔するよ。あたし知ーらない。おーい、蜘蛛女! 花ちゃん死んだら懸賞金分けてねー」


エチカは意味深なことを言った後、ためらうことなく橋の欄干を飛び越え、フェードアウトした。


鬼道丸に追わせようとしたが、さびついたように動きが鈍くなっている。一メートルも移動させただけで完全に動きが止まった。糸が玉になり間接の隙間を埋めている。


「うぜえ」


エチカにかかりきりでジゼルの存在を忘れかけていた。ジゼルの糸は短い間だけなら鬼道丸の動きを封じ込められる。エチカと連動して攻めなかったのはミーシャと同じ轍を踏むのを避けるためだろう。


ジゼルの憤怒の気を取り込むように肥大した糸の塊が、宙をさまよっている。亡くした肉体を探すかのようにうろうろしていた。


花菱は悠長に構えるのに飽きて、ジゼルに直接働きかけようと近寄った。相変わらず、糸の塊は不規則な運動を繰り返している。その周りで火花が散っていた。


(爆破スキルはエチカのものだったはず。なのにまだ残り火が……)


鬼道丸の体が発破され、炎上した。もげた首が花菱の足下に転がってくる。


もみ合うようにしながら巨大化した糸玉が火を吹き、落下してきた。隕石のように膨れ上がったエネルギーの塊を、花菱は呆然と見つめるしかなかった。

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