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9:本当の気持ち

時刻は午後五時。

モラノはアヒャと外に居るから、とても暇だ。


「あーあー。何かないかなー」


冷蔵庫を開けて、面白いものが無いかと見ていると、上の段の方に缶ジュースが二、三本置いてあった。


「リンゴジュースかー。

たまには、良いかな」


全ての缶ジュースを取り出し、リビングに持って行った。

テーブルに残りの二本を置き、リンゴジュースのプルタブを開ける。


「ん…美味しい!」


一気に飲み干したため、缶ジュースの中身は空っぽになった。




人の流れに押されないように俺はドシドシと歩いた。

横をかける抜けるように二人の女性が通りすぎる。

そちらに目をむけると、一人は灰色の帽子を深く被っていたが、隙間から茶色の髪の毛が除く。

人間とのハーフか。

特に気にすることも無く、俺はキョロキョロと辺りを見渡すと、カフェのそばのレンガの壁に寄りかかっている人がいた。


「よぉ。モラノ」


俺が手を挙げて近寄るとモラノは、人を観察する目から一変、変な物を見る目に変わった。


「おせぇよ」


「アヒャヒャ。わりーわりー」


俺の態度に呆れたようにモラノは肩をすくめた。

今日は、これまでの情報という肩書きで、酒を飲みに来た。

家で一人で飲むのも良いが、たまには誰かと飲みたい時がある。

モラノはギリギリ未成年だが。

十九歳なので、軽いサワー程度を二杯程度飲んでやめている。

俺は手に持っているビニール袋をモラノに渡す。


「は?何?」


「俺さー。年だからよろしくー」


「あ、おい!お前まだ、二十四だろ!」


後ろで叫んでいるモラノを置いて俺はモラノの家へと向かう。

俺の返答が期待できないのを予測して、モラノは渋々とついてきた。





「おじゃましますーっとな」


部屋の中からは、誰の声も聞こえなくて人の気配がしない。

モラノを見ると、肩をすくめて見せるだけだった。

ビール瓶の入っているビニールを廊下の隅に置くとモラノは部屋に入っていった。


「あっ!!このガキ!!」


部屋の奥からモラノの叫ぶ声が聞こえる。

何事かと、近づいて見るとそこにはぐでんぐでんに酔っ払ったしぃかがそこには居た。

顔を真っ赤にさせ、サワーが入っている缶を三本程、飲んだようだ。



「くそぅ…。俺の酒が…。

おい、アヒャ。自販機で買ってくるからこいつが無駄な事しないように見ておいてくれ」


「ヒャー!」


敬礼のポーズをすると、うんざりとした目を向けてくる。

のれよなー。

モラノは、大きな音を立てて扉を閉めて飛び出して行った。

しぃかの隣に胡座をかいて座ると、しぃかが、俺の右膝あたりに顎を乗せてきた。

自分の娘のようだ。いないけど。


「どうした?」


「アヒャー聞いてくらはいよー。

モラノってねー。酷いんでふよー。

わらしが、オムライスっていうとー。オムライスしか、作らないんでふよー?」


呂律の回らない言葉で俺に愚痴り始める。

オムライスしか作らないのか…。

バリエーションすくねぇな。


「でもねー。わらしね。モラノの事嫌いじゃあないれふよ」


「ん?」


しぃかは、俺の顔を見た。

俺もしぃかの顔を見て、互いに目を合わせた。


「好きだよー。でもねー。でもね。

その気持ちは、伝えられにゃいの。

伝えたりゃねー。きっと…きっとモラノは……

わらしの事…嫌いになるから」


俯き気味に言う。

俺はしぃかの好きがただの好きじゃない事に気付いた。

……そりゃそうか。

一緒に住んでたら気付く事もあるもんな。

俺は何も答えられぬまま、しぃかの頭を撫でる。

それに気持ち良さそうに尻尾をゆらゆらと揺らすと寝てしまった。

軽い体を持ち上げて、隣の床に寝かすと、モラノが帰ってきた。


「やれやれ。ただいま」


「おかえり。しぃか寝ちまったぞ?」


「まぁ、良いだろ。

寝かせとけ」


モラノは、いつもの冷めた口調で言うとテーブルの前に座った。

そこに、サワーを一本のせると、プルタブを開ける。

何かに気付いた様にモラノは、顔をあげた。


「あれ?アヒャ、ビール飲まねぇのか?」


そう言われて、俺がビール瓶とコップに触れてないのに気付いた。


「ヒャー…。しぃかの愚痴聞いてたら飲むの忘れてた」


「愚痴ぃ?」


俺はコップにビールを注ぎ、喉を潤すかの様に飲む。


「オムライス。どうにかしろってさ」


「あぁ、それ、こないだ言われた。

別にレパートリーがすくねぇわけじゃねぇんだけどな…」


口を尖らせながら、不満そうに言う。


「なぁ。重大な話だ、よく聞け」


モラノの耳がピクンと動く。

俺はコップをテーブルに置いた。


「お前は、犯人候補の一人に入っている。それも…殺人の方のな」


「……最悪だな」


「殺人する時、多少アリバイ作んねぇと危ないぞ?」


「……もう少し、方法を変えてみるさ」


サワーを飲むと、ため息をついた。

その時、むくりとしぃかが起き上がった。

まだ、寝起きだからか酔ってるからか目が虚ろだ。

その状態で近くにいるモラノに抱きついた。


「ちょ…。おい…ガキ。お前もう寝ろよ。酔ってんだろ?」


呆れたように、しぃかに言う。

しぃかは、顔をあげてモラノを見た。


「モラノー」


そう言うと、モラノにキスをした。

その後すぐに口を離すと、またしぃかは眠りについた。


「……」


モラノは、放心したような顔をした後無言のまま布団にしぃかを置き、布団をかけた。

そうして、戻ってくると何語も無いかのようにサワーを飲み始めた。


「お…い。モラノ?」


「……ガキも誰かと間違えたんだろ。酔っ払って殺人者にキスなんてしねぇよ」


その顔は、どこか冷めたような顔だった。


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