8:残り少ない時間
「あのさ…」
「ん?」
よく晴れた昼下がり。
テーブルの上にある、フワフワでトロトロとしていて、作りたてのオムライスの前で私は座りながら腕を組む。
「料理のレパートリーないの?」
「なんでだよ?」
モラノは、何も気にしていないかのようにオムライスを口に運ぶ。
ふわりと良い香りが私の食欲を誘うが、今はそれに負けてる場合では無い。
「冷めるぞ?」
私の考えが全く理解出来ないのか、スプーンで私のオムライスを指す。
「……なんでさ…料理作って?って言うと毎回オムライスなの!?」
「いや、前聞いたらオムライスって言ってたから、オムライスが好きなのかと」
彼はバカなのだろうか。
食欲の限界が来たのでオムライスにスプーンを指す。
一すくいすると、フワフワの黄色い卵と赤と緑の混じった暖かいご飯。
口に運ぶと卵の味と隠し味に使ったミルクの滑らかさが、口に広がる。
「いやさ…美味しいけどさ。
やっぱりさ、……オムライスばっかりもさ…飽きるしさ…他の物も …欲しい…かなって」
「食べながら文句言うなよ」
「うぐっ…」
オムライスをお互いに完食すると、台所に持って行き、スポンジに洗剤をかける。
「はぁ…やれやれ」
「何が好きなんだよ?」
いつの間にか隣に立っていた。
「えー…うーん…。お茶漬け」
「ごめん。お嬢様の考えがわからねぇ」
「高級なものより、普通の方が美味しいんだよ?」
「……へー」
洗い物が終わり、リビングに行きのんびり座るとインターホンが鳴った。
モラノが確認すると、どうやらスーツを来た男性がいた。
多分警察らしいので、私は一応クローゼットに隠れることにした。
それを確認すると、モラノは玄関へ歩いた。
「はい?」
部屋から出て来たのはまだ若い男だった。
こいつが、茂倮野賢一か。
「モラノさんですね。警察ですが、事情聴取を行っているので質問に答えて下さい」
モラノは、不快そうに眉毛をよせた。
大抵の人は好奇心から行く人が多いのだが、中には面倒くさい事に巻き込まれなくなくて、嫌がる人がいる。
その一人だろう。
「二週間前の火曜日の午前二時前。どこに居ましたか?」
「二週間前?……うーん。あまり覚えてませんが……起きてて、燃えるゴミを回収してましたね」
「なんで、その時間に?」
「その日は、確か…親戚の家に行ってて夜に帰って来たんですよ。ゴミを朝やるのは嫌だったので、いつも夜のうちにまとめちゃうんです」
俺は手帳に情報をメモした。
「ふーん…。
神島家長女誘拐事件知ってますか?」
「あぁ。知ってますよ。ニュース見るたび、そればっかりですよね。
まぁ……こんな事いいたくないですけど…。二週間も帰って来なかったら流石に…」
後半の方からドンドン声が小さくなった。
それは、確かに俺も思う。
そもそも、この事件を担当するより個人的に連続殺人をはやく何とかしなくては、と思っている。
四日前だって、一人の男が行方不明になったからな。
まぁ、担当になったからには文句言えねぇしさっさと、終わらせたい所だ。
「ここ最近変わった事とか、不審な人とか見ましたか?」
「うーん……。いや…見てないですね」
「そうですか。ありがとうございました」
俺はぺこりとお辞儀をして、玄関から離れた。
モラノは、それを見届けるとバタンと扉を閉めた。
周りに人がいないことを確認すると、携帯から電話をかけた。
『もしもし?』
「おぉ。ネーノ」
『なんですか…?』
不機嫌そうな声が聞こえる。
「モラノって奴だが…。あいつは、どうも黒のような気がするんだ」
『ほぉ…』
俺の言葉にネーノの声は真剣味た物になった。
『じゃあ、周辺人物を調べましょうか』
「あぁ。よろしく。俺は、ちょっとあいつの動きを見てみるよ」
ピッとネーノの返事を聞かずに切ると、俺はアパートを出た。
「ただ…。あいつは、人攫いの線は薄いな…。何か、他の事…か?」
殺人と言う二文字が頭に浮かぶ。
が、それを振り払うように頭を振った。
警察が帰ってから俺はクローゼットのドアを開けた。
手には汗でしっとりと濡れている。
「終わり?」
「終わった」
「そう!」
元気よく、ガキは飛び出して行く。
能天気で逆に羨ましい。
「どうだった?」
「どうって…事情聴取されたんだよ…。夜中の二時前とか普通覚えてねーよ」
「あははは…」
ガキの苦笑いが聞こえる。
俺は、少しだけ焦りを感じている。
俺の所に事情聴取がくるって事は、犯人像の目星でもついてるか…それか、いや…まさかな。
「ねー。今日も作ってよー。
今日は、オムライス以外がい…」
「夕飯作りはお前の仕事だろ」
「いひゃい!わひゃったひゃら!(いたい!わかったから!)」
両頬を引っ張るとすぐに降参をした。
離すと、頬を両手で撫でている。
「好きなの作って良いから」
「本当!?」
どう見ても、本当にガキにしか見えない笑顔を浮かべて、ウキウキと喜んでいる。
俺はまた一つため息をつく。




