七:今もまだ残る血
街中にある、何の変哲も無い小さなカフェ。
そこに私は走る。
時間は午後一時四十分を指す。
十分の遅刻だ。
あと五分もしたらきっと帰ってしまうだろう。
カランカラン
ベルを鳴らしながらドアを開けた。
「……お一人様ですか?」
「連れが先に居ます」
「そうですか」
私は店員から離れてキョロキョロと辺りを見渡した。
私に気づいたのか相手から手を振る。
私も手を振りかえしてそのテーブルに近寄る。
「ゴメンねー。遅くなっちゃって」
「いいのいいのー。気にしないでよ」
私はガナーの目の前の席に座る。
黒い大きな瞳がクリクリとしていて、とても可愛い。
ガナーは、オレンジ色の毛の耳を撫でた。
「ヅーちゃん。最近どーお?」
「へっ?最近って?」
「ふふふー。隠しても無駄よー?
隼人君この間から小学校でしょー?」
「ちょ!何で知って!」
ガナーは、コーヒーを、一口飲んだ。
「フーンさんが、言ってたのをネーノが聞いて私に教えてくれたのよ」
クスクスとガナーは、笑う。
……あいつめ…。
フーンへの怒りが顔に出たのかガナーが、苦笑いをした。
「ちょっと、ちょっと。そんな顔しないでよー。だいたい何で言わなかったの?大事な事じゃない。
もしかして…私に嫌な思いしないように、とか思ってる?」
「う…」
図星だったため、私は返事が出来ず目を泳がせた。
ガナーは、大きくため息を吐くと笑った。
「やめてよー。私がそんなんで妬まないし、しかも嫌な思いするわけないじゃない」
「で…でもさ」
「まぁまぁ。だいたい私がこんな体になったのも自業自得だもん…。
ね?」
ガナーは、自嘲気味に自分のお腹を触った。
二人の会話が途切れると、なんとなく周りの視線や話し声が気になってしまう。
「ちょっと見てよあれー」
「うわー。さいっあく」
「あれ、人間じゃね?」
「きゃはははは!無い無い。だって…ねぇ?」
その会話は、耳を塞ぎたくなるようなものだった。
確かに私は茶色の髪の毛が生えていて、肌色の肌をしている。
けれど、みんなと同じような耳が生えている。
……認めたくはないけれど、私には人間の血が混じっている。
「……ねぇ。ヅーちゃん。帰ろっか」
「っえ?……あ、うん」
ガナーの後ろに隠れるように、私は歩いた。
私は髪の毛が、あまり見えないように帽子を深く被り、周りをあまり見ないようにした。
見なくてもだいたい、みんなの視線が集まるのが分かる。
何もかも分からないまま、ガナーについて歩いた。
気付くと人通りの少ない公園に来ていた。
ガナーは、前に居るため表情が見えない。
もしかしたら、怒っているかもしれない。
「……ガナー…ごめ…」
「ヅーちゃん。こんど、家族で私のお家においでよ」
「っえ?」
振り向いたガナーは、何も気にしていないような笑顔だった。
その笑顔につられて、私も自然と口角があがる。
「ヅーちゃん一家と私の家族でで飲もう!
隼人君も連れてきて!」
「…うん。行くね」
時計は午後三時を示している。
そろそろ隼人も帰ってくる時間だ。
家に帰ろう。