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精霊神殿の愛し子たち  作者: あると
水蓮の巫女姫
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そして彼女の兄は語る

激昂する東香国の王太子をなだめながら、招待客で地の精霊の愛し子と公表されている河北(かほく)国の王子が呆れた様子を隠そうともせずに華南国の国王に神の愛し子のあり方を語り始めた。


「水の精霊王の愛し子の外見と加護は特徴的だからこそ、あまり存在を公にはしません。特に他国には。ですが、王族ならどのような存在かは知っているべき事のはずなんですがね。私のようにただの地の精霊の愛し子ですら、子に恵まれるまでは婚姻の争いなどが起きぬように公表しませんでしたしね。まぁ、愛し子がいれば精霊の力が満ちて調和のとれた自然環境に恵まれますから噂にはなりますけれど、東香国は公表されているだけで3人もの水の愛し子がおりますからね。まさか、神の愛し子が存在しているとは…本当に、奇跡の様なお美しさですね」


そう感嘆の声をあげ、花蓮姫を賞賛しながらも河北国の王子は話を続けた。



「しかし、嫁入りの際に聞いていなくても一目で水の華巫女と分かるはずでしょう?ここに招待された王族はみんなすぐに気付きましたよ。王族なら愛し子への精霊の執着と精霊王ごとに外見や加護に特徴が表れることを教わったでしょうに。あの最も知られている昔語と共に…」


そういって彼は精霊王の愛し子に関する伝説の一つを語りだした。精霊の愛し子を害す恐ろしさを伝える為に、殆どの国で共通して伝えられている昔話を…。




遠い遠い昔の話。


ある大国の王女が自国にある、地の精霊神殿の神官長を努めていた若く美しい青年に恋をした。


だが青年は精霊を愛し、神官である己を捨てはしなかった。


何をしても自分を選ばず、精霊にばかり愛を語る青年に、いつしか王女の愛は憎しみに変わった。


王女は青年に永久の眠りの毒を盛り、二度と青年の(まなこ)が開くことはなかった。


王女はやっと青年が自分の物になったと喜んだ。


だが、王女は知らなかった。


青年が愛していた精霊とは地の精霊王だったということを…。


愛する青年を奪われた地の精霊王の怒りは激しく、眠る青年を神殿に連れ戻り、それを追う王女の間に大きな深い裂け目をつくった。


そして青年を失った深い嘆きによって裂け目には、精霊王の涙が溜まり大河となった。


王女はもう2度と青年が眠る神殿に近づくことは出来なかった。


王女の血が全て絶えるまで精霊王の怒りは解けず、王女の国は長い間、実り無き不毛な大地となった。




 これが河北(かほく)国と西河(さいが)国を分断する地涙川(ちるいがわ)の成り立ちを伝える昔話である。神官の青年は公表されていなかったが地の精霊王の愛し子だった。愛し子を害された地の精霊王は怒り狂い地割れをおこし、その国を分断してしまった。精霊が愛し子を害されて怒り狂う話は数多いが、最も被害が大きかったこの話が教訓としてよく語られる。


 地の精霊王の加護は髪と目の色が黒色に変化するのだが、多くは無くても愛し子以外にも存在する色合いなので、あまり知られていなかった。愛し子に知らずに不敬を行わないためにも精霊王の加護がどのように外見や環境に変化が現れるかを学ぶのは王族の義務の一つでもあるのだが…精霊の力を軽視してきたこの国ではそういったことをただの昔話だと嗤う者が殆どで、精霊神殿も廃れてしまった有様だった。


 特殊な外見をしていれば、精霊王の愛し子かを疑えというのが他国の王族や貴族達が幼い頃から教わることだった。なぜ、よりによって一番分かりやすい水の華巫女に気付かないんだと周囲は白い目で華南国の関係者を見た。何しろ詳しい変化の状態は公表されていなくとも水の精霊王の昔話では水の華巫女は白き美しき美姫とどんな話でもそのように表現されているのに…。


 後宮の現状をまったく知らなかった者達は姫の兄の激怒の理由も分からずに呆然とし、冷遇の事実に気付いていたものたちは精霊王の怒りに怯え、真っ青になって今にも倒れそうだった。そんな華南国の人々を尻目に東香国の王太子は宴の会場にいるすべての人々に告げた。

 

 公にされていなかった加護の詳しい内容を。これ以上、花蓮姫への侮辱がなされぬ為に…。


「神の愛し子は外見の変化があることは知られているが、水の華巫女はその中でも特に外見が特徴的だ。水の精霊王の加護が与えられたと同時に髪は白く目は濃さの違う色違いの青い瞳に変わるんだ。妹は加護を与えられた10歳になるまでは母と同じ茶の髪に緑の瞳だった。地の精霊王の愛し子と違って水の華巫女は彼女達以外にその色を持つものはいない。そして、他の愛し子と違って精霊王の力を行使出来る量が桁外れに多いからか、彼女達にはある制限がある。水の精霊王の加護は処女を失った時にその血筋を守る守護に変わるんだ。そして、力の行使も微々たるものになるが、加護を失う代わりにその巫女の産んだ子達には水の祝福が与えられるからこそ、彼女たちは殆どが神殿で一生を過ごすか、水の華巫女だったということを明らかにせずに嫁ぐ。水の華巫女にとってその色合いは処女性の証だ。なにしろ処女を奪った相手の色に染まるんだからな。この白い髪も青い瞳もな。だからこそ、婚姻して1年経ったはずなのに華巫女の特徴そのままの妹の姿が何を示しているかなんてわかりきったことだ。」




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