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精霊神殿の愛し子たち  作者: あると
水蓮の巫女姫
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そして王は気付いた

そして、河北国の王子が東香国の王太子の話を引き継いだ。


「華巫女の特徴そのままの花蓮姫が純潔を守っているということは明らかです。愛妾に子どもがいる貴方が不能だとも思えませんしね。その血筋に大いなる祝福が与えられるのなら、精霊の愛し子の生まれる確立が高いですし、水に恵まれた環境になるはずです。だからこそ、水の少ないこの国に花蓮姫の子が王となれば水の祝福は絶対でしたのに、馬鹿な選択をしましたね」


 呆れたような目で王子に見られたが、華南の国王はもう何も言えなかった。本来なら国王である自分の方が上位ではあるが、彼は精霊の愛し子であることから王族以上の地位にあるからだ。そして、花蓮姫が神の愛し子ということは彼女がこの場の誰よりも上位だった。恵みをもたらしたであろう彼女を失う事実を今更ながらに痛感させられた華南国国王だった。


「華巫女は与える影響が強すぎる為に、神殿で一生を終えることが多い。そんな存在である妹の嫁入りを許したというのに…我らとて許したくは無かった。だが、この子がまだ加護を与えられる前に貴公に婚姻の約束を結ばされてしまってな。精霊王の御前で結ばれた誓いは簡単に破棄できぬ。華南国の先王に破棄を申し出たが、渡りに船と言わんばかりに許されなかった…。断ってくれてもよかったのだが、18になったら嫁ぐと時間稼ぎするのが精一杯だった」


東香国の王太子は苦渋に満ちた顔でそう語った。


「婚約など…あの森の泉で会ったのが花蓮姫だったのか?」


 知りたくも無かった真実だった。

華南国国王は口元を扇で隠したまま大人しく隣に立っていた姫にそう問いかけた。


「ええ、小さいときは母様と同じ茶色の髪に緑の瞳だったもの。あんなに愛を請うて勝手に誓約まで結んだくせに髪と目の色が違うだけで分からなかったわね。貴方が私を妻に出来なければ死ぬと誓約をしてしまったのよ。私が愛し子に相応しいか観察していた精霊王の前での貴方の言葉は、子どもの戯言ではなく神の前での正式な誓いとなってしまった。私が貴方に嫁がなかったら水の精霊王は貴方を殺す気だった。仮にも大国の後継者を殺させる訳にはいかない。だからこそ、愛妾がいるってわかっていても貴方に嫁ぐ必要があった。でももう大丈夫。純潔を失わなくてもこの妻の披露を終わらせたのだから、誓いは果たされたわ」


 微笑みながらそう語って、彼女は優雅に王から離れ兄である東香国の王太子に近づいていった。


「そうだな、貴公の自業自得だとしても命の危険を知っていて無視することは出来なかった。だからこそ、妹を嫁入りさせたんだ。だが、もういいだろう。花蓮、用意をして国に帰るぞ。これほどまでに侮辱されたんだ離縁も当然だろう」


 そう嗤って王太子は花蓮姫の手を取ってその場から立ち去ろうとした。この場の主役は間違いなく東香国の兄妹だった。そんな彼らを引き止められる者はいなかった。王でさえも蒼白な顔で立ちすくむだけだった。兄の手を取りながらも、彼女は王に国のあり方を変えるように告げた。


「用意は出来ています。咲たちが荷物を持って後宮の門にいるはずです。そうそう、華南の国王様、

あなた方は精霊の力を軽視しすぎているわ。いくら先々代の王が精霊嫌いだったからといって限度があるし、彼らは自分達の存在を信じぬ者に加護など与えないわ。属性ごとの神殿を作ってちゃんと祀りなさい。精霊達は気ままだけれど自分達を愛してくれるものには優しいのよ」


「本当に行ってしまうのか?私は…」


 優しく微笑む彼女をすがる様な目で見つめる王に、花蓮姫はため息を一つついてから聞き分けの無い弟を諭すように語りかけた。


「その先は聞きたくありません。私はこの一年ちゃんと貴方達を見ました。私の色が変わったとしても彼女と間違えるなんてありえない。全く性格が違うもの。よく考えて、貴方が本当に愛していたのは誰か。彼女を想ったきっかけは確かに人違いからだったかもしれないけれど、それだけで皆の反対を押し切ってまで彼女と共にいたの?」


「きっかけ…」


「私にも他に愛する方がいるわ。だからこそ、思うの。貴方の私に対する感情は…」


「もういい、私もわかった。すまなかった、私のせいで君は思う相手に嫁げなかったんだな。しかも、そんな女性に対して私の対応はありえないものだった。本当に申し訳なかった。東香国には正式に使者を送る。今回の事は全て私に責任がある。勝手な言い分だと理解しているが、精霊王の怒りは全て私一人に向けて頂けないだろうか?」


 憑き物が落ちたように、真摯に東香国の兄妹に謝る華南の国王だった。そんな彼にやれやれというような表情を隠そうともせずに彼女は告げた。


「精霊王のお怒りは私がなだめておくから大丈夫よ。私だって、あの方に後味の悪い思いはさせたくないの。誓いには厳しい方だけれど、愛に溢れたお優しい方なの。あなた方が精霊を愛し、間違った行動をしなければきっと精霊の愛し子がこの地にも生まれるわ。精霊は愛が大好きなんですもの」


 本当に嬉しそうに微笑んで彼女はそう語った。


「でも、私は妹への侮辱は忘れないよ。華南国の誠意がきちんと伝わらない限り我々は一切の貿易を拒絶する。それが東香国の判断だ」


 嬉しげな妹とは反対に王太子は厳しい顔で華南の国王に告げた。


「分かっている。すぐに謝罪の場を設ける。責任を誰かに押し付けたりもしない。全て私の責任だ」


 恋に浮かれた自分を反省しつつ彼は王としての自分を取り戻した。


「了承した。その潔さに免じてひとつ教えよう」


「なにをだ?」


 不思議そうに首をかしげながら王は笑う東香国の王太子を見つめた。


「君にはもう後継者が生まれている。正妃がいなくても後継者に信頼される後見人がつけば問題ないんだよ。精霊神殿の神官長とかね。そうそう、わが国では水の神官が増えすぎていてね、彼らを受け入れてくれる神殿が無いものかと…」


 人の悪い笑みで王太子は年下の王に今後の助言をしたのだった。


「そうか…、ありがとう。貴方達には本当に感謝してもしきれない。すぐに神殿を整える」


「あっうちの国も地の属性の神官が多すぎちゃって。あまり、属性が偏るのもよくありませんしね」


 河北国の王子も東香国の王太子の尻馬に乗ってちゃっかりと自国の影響が強い神官長を送り込もうとしていた…。華南国の精霊嫌いは他国の悩みの種でもあったからだ。しかも風の愛し子に先々代の王がこっ酷く振られたからという理由だったために、他国が人の恋路だし、精霊の話をすれば機嫌が悪くなるぐらいだしなと口出しを躊躇っている内に、精霊を軽視する国になっていた。だからこそ、今回の事は精霊神殿の力を強めるためにもちょうど良かった。精霊神殿が栄えれば精霊の力も強まり、世界の環境が良いものになると考えられていたからだ。












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