世界のこと、家族のこと
第二の人生が始まって一年が過ぎた。
あれから何度か悲しくて大泣きしてしまった。その度に、何をしても泣きやまない俺を抱えた母親を困らせてしまった。
本当に、すまないと思っている。
とは言え近頃はようやく現実を受け入れることができるようになった。
元来俺は、何十何百と振られても挫けないポジティブな性格なのだ。
泣くのだってそんなに多くない。2、3日に一回くらいだ。
何にせよ俺は気持ちを切り替えて、この世界で生きていく為に情報収集をすることにした。いくつか集めた情報をまとめておこうと思う。
一つ、俺のこと。
名前はウィリアム・スカーレット。
スカーレット家次男。1歳(+27歳)。
見た目は赤子、頭脳はオタク。名探偵ではござらぬぞ。
愛する彼女を庇って凶刃に倒れたにもかかわらず、他の男にNTRされてしまった哀れボーイ。気づけば赤ん坊になっちゃってましたとさ。
わけわかんねぇだろ?俺もサッパリです。せめて最期の記憶くらい消しといて欲しかったですぞ……
イカンイカン、ネガキャンしてる場合じゃない。次行こう次。
一つ、世界のこと。
まずこの世界は地球じゃなかった。
理由はいくつかあるけど、まず言葉が違う。
もしかしたら地球を調べたら似たような言葉があるのかもしれないけど、少なくとも俺の知る主要な言語のどれにも当てはまらなかった。
赤ん坊だったし、周りもその言葉しか使わなかったからこそ一年くらいで覚えられたけど、日本にいた頃じゃまず覚えられなかっただろう。
あと、文明レベルは中世に近いようだが、地球と同じ進みではないと思うので、地球の中世と比べて妙に進んでいたり遅れていたりするところがあるかもしれない。その辺は要調査だな。
というのも、その原因の一つが「魔法」の存在だ。
そう、この世界には魔法があった。ここが地球ではないと言える最大の理由。
そしてこの世界にはどうやら魔物も住んでいるらしい。
いわゆるファンタジー世界である。
まぁ魔物というのは主に人を苦しめる存在らしいので、あんまり喜ばしい物ではないが、それでもオタク心をくすぐる魔法と魔物の存在には、どうしてもワクワクさせられてしまう。だって、男の子だもん。
一つ、魔法のこと。
魔法は実際に何度か目にすることが出来た。
大人がごにょごにょと何かつぶやいたと思ったら、コップに水が溜まったり指先にマッチ程度の火が灯ったりしたのだ。
極めつけはある場所を訪れた時、切り傷や打ち身の痛みに耐える少年を見つけた母が、少年の頭に手を置いて呪文を唱えたのだ。
するとどうだ、打ち身で青くなった肌は健康的な色を取り戻し、数あった裂傷はものの見事に消え去っていた。
ただ攻撃魔法みたいな派手なものを目にすることはなかった。
言うなれば、生活を少々便利にする程度。
でも安心した。日常的に攻撃魔法が飛び交うような世界だったら、俺はもう十年くらいおしめが取れなかったかもしれない……
この辺も引き続き調査案件だ。
一つ、国と家のこと。
母親が貴族的な格好をしていたのでもしやと思ったが、ウチはなかなかに裕福な家であるらしい。
ヴァンダル勇王国、モリエール辺境公が臣、スカーレット伯爵家。というのがウチの立ち位置だ。
ヴァンダル勇王国というのがまずこの世界でかなりの大国になるらしく、辺境公と冠するモリエール公爵領も近隣の小国より広い領地と力を持っているようだ。
スカーレット家はモリエール辺境公の部下の中でも重臣の重臣、警備軍事面の要職を担う家だった。
貴族の事はよくわからないが、イメージ的にヴァンダル勇王国を日本に置き換えると、王都が東京で国王が総理大臣、辺境公が大阪府知事あたりで、ウチの父が大阪府警の本部長って感じだろうか?
やっべぇ、急に自分の立場が怖くなってきた。将来官僚コースじゃん。セレブの仲間入りじゃん。西の名探偵じゃん?
しかし、普通貴族の部下って陪臣ってことになるから、明確に貴族位があるわけじゃないと思うんだけど…でもウチって伯爵家なんだよな?
そもそも辺境に公爵ってのも聞いたことがない。公国ってことでもないみたいだし…訳が分からないよ…
でもまぁ、何にせよいいところのお坊ちゃんに生まれてしまったわけだ。
一つ、家族のこと。
スカーレット家の家族構成は俺から見て、父、母、兄、俺の四人である。
今後増えるかもしれないけど今のところ四人家族だ。
父ジョセフ・スカーレットは三十五歳。先代が急逝し家督を継いだらしいが……家長としては若い方ではないだろうか。
ただ威風で言えば堂々、威厳で言えばそこらのおっさん貴族よりよほど凄みがある。
岩から掘り出した武人像のような人で、太い骨格に筋骨隆々、二メートルに届こうかという恵まれた体格をしている。
明らかにゴリゴリのパワーファイターだ。孫のトリッキーさより何をするだァー!のあの人に似たパワータイプ。
仕事人間だからだろうか、俺の記憶がはっきりしてからこっち、笑いかけられたり抱き上げられたりすることは無かった。
無骨な人と言う感じである。
母エフィーリア・モーベット・スカーレットは二十三歳。
息子の俺から見ても美人だ。淡い茶髪のストレートヘア、透き通る白磁のような肌、大きな胸、とても子どもを産んだとは思えない整ったボディライン。
多分独身だったら縁談はひっきりなしだろう、それくらいの美人だ。
温和で使用人への人当たりもよく、正直父と並ぶと美女と野獣である。
ちなみにモーベットとは母の旧姓らしい。この世界では嫁入り、あるいは婿入りした場合はミドルネームに旧姓を名乗るようだ。
兄のジャクソン・スカーレットは今年で十一歳。十歳も歳の離れた兄である。
なんでも兄は前妻の子らしい。
まだ十一歳ながら父によく似てがっしりとした体つきで、このまま行けば父のようなゴリマッチョ間違いなしである。
兄は父と違いたまに顔を見せに来た。と言ってもベッドを覗き込んでくるだけで、あまりどうすればいいのかは分かってないようだ。
安心しろ、俺もよく分からん。
むしろ兄は俺よりも母に会いに来ていた節がある。
父似の武人然とした兄ではあるがまだまだ十一歳、母性が恋しかったのだろう。
何より美人だしな。ちなみに前妻は鬼籍らしい。
大物貴族の本家としてはかなり心許ない布陣のような気がする。
なにせ貴族ってのは家を守ることを第一に考える節がある。
でもってこの世界は医学レベルが低く、魔物がいて貴族が軍事力を持つ程度に危険…家族、特に子供が少ないことは、何かあったら即血が絶えることになるからだ。
上司の辺境公様は嫁三人に子供が五人いるんだとか。
それでも少ないみたいだが、リアルお家騒動とかもあるだろうから、その辺はバランスかな?
今のところわかるのはこんなところかなぁ。
何にせよ、身体が赤ん坊じゃ行動範囲も狭すぎて調べ物は厳しい…




