リムフォードとの邂逅
リムフォードには大した手続きもなく入れた。
生まれて初めて訪れた大きな街に、イリオスのテンションは最高潮になる。
「すごい! 建物大きい! 人多い!」
「おい、ちゃんと前見て歩け」
ディーンの注意にイリオスは分かってると言うが……注意が少し遅かった。
「あっ」
イリオスの手が通りすがりの荷車に当たる。積まれていた袋がバサバサと音を立てて崩れた。
「何やってるんだ、バカ! すみません!」
ディーンが咄嗟に謝る。イリオスとコミティスは慌てて散らばった袋を拾い始める。
一方で、荷車を引いていた軽装の冒険者は「ははは」と笑う。
「元気が良いね。壊れ物は入ってないから気にしないで。でも……ちゃんと前は見るようにね?」
「すみません……」
イリオスはしょぼんと言う。
やがて荷物を積み直したところで、冒険者はイリオスたちの姿を見て言う。
「ところで……君たちは冒険者になるため、この街に来たのかな?」
「そんなところです」
ディーンが言うと、それならと冒険者は曲がり角を指す。
「冒険者ギルドは、そこの角を右に曲がって、三つ目の角を右だよ」
穏やかな口調で言う冒険者に、ディーンが代表してお礼を言う。
「はい。ありがとうございます」
「良いんだよ。じゃあ、気をつけて行くんだよ」
軽装の冒険者は荷車を引きながら去っていった。
冒険者ギルドは他よりもずっと大きな建物だった。屋内稽古場なども完備されているらしい。
新入り冒険者が提出した書類を、禿頭の受付が確認する。
「イリオス。剣士。年齢、十五歳。種族はスルピナ」
「はいっ」
イリオスが元気良く返事をする。
スルピナというのはこの世界でもっともありふれている、いわゆるホモ・サピエンスに似たヒト族である。
「ディーン。魔法剣士。年齢、十五歳。同じくスルピナ」
「はい」
「コミティス。弓使い。年齢、十五歳。同じくスルピナ」
「はい」
個人の確認はこれで終わり。次はチームとしての確認だ。
「チーム名は『アルモニア』。リーダーはイリオスで間違いないな?」
「はいっ!」
これにも元気良く答えるイリオス。ディーンとコミティスは目を合わせると、やれやれと笑った。
「チームの人数は、三人で良いんだな? 探索の人数は五人くらいが良いっていうのが常識なんだが……」
「そうなの?」
イリオスが聞き返すと禿頭の受付は「ああ」と頷く。
「まあ、少人数チームもいないわけじゃない。困ったらその時に考えれば良いさ。相談にはいつでも乗るからな」
そう言うと禿頭の受付は魔道具に書類を通す。
そして一枚のカードを差し出す。
「終わったぞ。こいつが、チームの証明書だ。失くすんじゃないぞ。こいつがないと、チームの活動実績を記録できないからな」
差し出されたカードはイリオスが取ろうとして……その前にディーンが素早く回収した。
「ああ、そうだ。連絡先は、どこだ?」
ディーンがチーム証明書をしまっていると、禿頭の受付が聞いてくる。
「連絡先?」
イリオスとディーンが揃って首をかしげる。
何の意味か分かっていない二人に代わってコミティスがその意図を汲む。
「つまりは、どこの宿屋にいるかということですか?」
「ああ。そうだ」
「それが……まだどこの宿を取るか決めていなくて」
コミティスの返答に禿頭の受付は「そりゃ大変だな」と言う。
「だとしたら、アーインの宿屋にすると良い。あそこの女将さんは好い人だから、あんたたちにも合いそうだ」
禿頭の受付はそう言うと、地図を取り出してアーインの宿屋の場所を教えてくれる。
「ご丁寧にありがとうございます」
コミティスがお礼を言う。
「構わんさ。じゃあ、連絡先はひとまずアーインの宿屋にしておくからな。滞在先を変えるなら、また報告に来てくれ」
「はい」
ひとまず三人は紹介された宿屋に向かうことにする。
教えられた宿屋に着くと、そこには少し気難しそうな亭主がいる。
「……いらっしゃい。初めて見る顔だな」
見た目通り無愛想に対応する亭主。
「こちらはアーインの宿屋で間違いありませんか?」
「ああ」
しかしコミティスが話しかけると応対はちゃんとしてくれる。
「とりあえず十泊で。二人部屋と一人部屋をお願いします」
「ああ。うちのサービスについては確認したか?」
それについては店先の看板にしっかり書いてあった。
「はい。朝晩の食事付きですよね?」
「ああ」
亭主はコミティスが差し出したお金を受け取ると、代わりに鍵を二本差し出す。
「助かったよ」
鍵を渡されたディーンがコミティスに言う。
「すげーな、コミティス。どうしてあんなにスラスラ言えるんだ?」
イリオスが問いかけるとコミティスは当たり前のような顔で言う。
「あなたのお母さんに大体の流れは聞いていたから」
「へー。親父はそんなこと教えてくれなかったけど」
「それはイリオスが聞こうとしないからだよ」
軽口を叩いた後、廊下の分かれ目で男子二人とコミティスは一度別れる。
「じゃあ、また後でな」
「うん」
宿屋の廊下を進み、目的の部屋を見つけたイリオスとディーン。
部屋の鍵をディーンが開けるなり、イリオスが部屋に飛び込んだ。
「あ、おい!」
イリオスは部屋の窓を勢い良く開けた。
ここから始まるんだ!
イリオスの胸に熱いものがこみ上げてくる。
父親から聞いた冒険譚が頭の中に次々と浮かび上がる。
ディーンはその様子を見て静かに口元を緩ませた。
「イリオス、先に荷物を整理しよう」
「はーい」
イリオスはご機嫌で窓から身を離した。




