北ルート
次の日、コウスケ達は何事も無く朝イチで東の港街・ボルタを発った。
出発してから程なくして
「でも、考えてみたら面倒よね?来た道を戻って首都まで戻るなんて」
この先の道程を思い、エルネがウンザリした様子で隣に座るコウスケに言った。
この先は既に通った道。
そこにはこれまでの様に、ワクワクもドキドキも無い。
エルネの言いたい事も少しは分かると言うものだ。
しかし、それを聞いたコウスケは
「俺がそんな時間の無駄な使い方すると思うか?」
そう言った。
「無駄も何も、首都まで戻らないと北のルートに乗れないでしょ?それとも何?間にある森を突っ切って真っ直ぐ目的地に向かうとか?」
来た道を戻る。とのエルネの言葉を、時間の無駄。と言うコウスケ。
他にどんな方法が有るのか?と不思議に思うエルネ。
エルネが言った様に、首都を経由せず直線的に次の目的地に向かう事も出来なくは無い。
同じ大陸の中、当然地面は繋がっている。
極端な話、例え道が無くても真っ直ぐに突き進めば目的地に着く事だろう。
しかし、それは難しい。
理由はエルネが言った通りだ。
北ルートと東ルートの間には、実にこの大陸の6分の1程を占める広大な森が広がっている。
森は鬱蒼と繁り、当然馬車等走れる道も無い。
この事を知っているなら、エルネの様に首都まで戻り、そこから北へと向かうと考えるのは普通だ。
コウスケの言っている意味が分からないエルネは、そのまま馬車を走らせる。
すると、コウスケは背もたれに預けていた体を起こし、横から体を乗り出し後方を確認する。
何をしているのか?と怪しむエルネを無視し、今度はその場で立ち上がると、額に手を当てて遠くまで前方を確認する。
「ちょっと!何やってんのよっ!危ないじゃないっ!」
エルネにそう叱られるコウスケだったが、座る気配は無い。
そしてコウスケは御者席で立ったまま
「よしっ!周りには誰も居ないな!エルネ馬車を止めろ」
そうエルネに声を掛けた。
「どうしてよ?お昼はまだ先よ?」
コウスケの意図が理解出来ないエルネはそう言うが、言われた通りに馬車を止める。
コウスケが次にとったのは
「お~い!ロイドっ!ちょっと降りてくれ」
ロイドを降ろす事だった。
こうして休憩でも無いのに馬車を降りた三人。
「何なのっ、コウスケ?説明してよっ!」
エルネはお冠だったが、ロイドは然して気にした様子も無い。
そんな二人を無視して、コウスケは馬車そして魔導馬をボックスに仕舞う。
それを見たエルネは
「え?嘘っ?ホントに森を突っ切るのッ?」
徒歩で森を越えると勘違いする。
それを聞いたコウスケは苦笑いしながら
「んな訳ねぇだろ?」
そう言って二人に近づく。
二人に触れられる程の距離まで近づいた所で、暫し目を閉じた。
二人が黙ってそれを眺めていると、閉じていた目を開けたコウスケは
「俺が転移使えるの、忘れてねぇか?」
そう言って、エルネとロイドの肩に手を掛けるコウスケ。
その瞬間、その場から三人の姿は消えた。
~~
首都近く、コウスケがこの世界に降り立った森の出口。
そこに三人の姿があった。
「ちょっとっ!やるならやるって言ってよね!この前も言ったじゃないっ!」
突然の転移にエルネはご立腹の様だったが、ロイドは
「・・・ここはどの辺りだ?」
周りを見渡した後で、そう聞くのみだった。
「ここはもう首都の直ぐ側だ!ほらっ、あそこに道があるだろ?あの道を向こうに進めばもう首都さ!」
いきなり街道沿いに出現し、そこを誰かに見られるのを避けたかったコウスケは、街道から少し離れたこの森の出口を選んだのだった。
この場所は、コウスケが森から脱出出来た思い出深い場所で、イメージがし易かったのだろう。
しばらく騒いでいたエルネが大人しくなるのを待って、三人は街道まで歩く。
それ程掛からずに街道まで出ると、辺りを確認したコウスケが馬車一式をボックスから出した。
ムスっとした顔で馬車を首都へと向けて走らせていたエルネ。
しかし、それにも疲れたのか、呆れた様な諦めた様な顔をして
「全く、行きは三月、帰りは一瞬ってどんな旅よ?」
そう洩らした。
「早いに越した事はねぇだろ?第一初めての場所は、ちゃんと時間掛けて行くんだから。これもちゃんとした旅だよ」
深く背もたれに体を預けながらそう言うコウスケ。
「これでいいのかしら・・・」
そう呟き、何だかモヤモヤとするエルネだった。
そんなエルネだったが、しばらく御者席でコウスケと取り留めの無い話をしている内に、そんな思いも消え、首都の城壁へと辿り着いていた。
「どうするの、コウスケ?まだお昼にもなってないけど、今日はここまで?」
首都へと着いたので、ここで一泊。と思っていたエルネはそうコウスケに聞く。
しかし
「いや。このまま城壁を回って北の城門に向かってくれ。そのまま北へ進む」
「寄ってかないの?折角戻って来たのに?」
寄ると思っていたエルネは思わずそう聞く。
「あぁ。いつでも戻れる事が分かったからな。さっきの実験で!」
「・・・実験?」
引っ掛かる単語に、思わずその言葉を繰り返すエルネ。
「・・・」
マズいと思ったのか、口を噤むコウスケ。
「コウスケ?」
「はいっ!・・・い、いやその、ちょ、長距離の転移はした事が無くて・・・良い機会だし試してみようかと・・・」
エルネの言外の圧力に負けたコウスケは、そう説明する。
「つまり成功するかは分からなかった。って事?」
「・・・仰る通りで」
どう答えるか暫し迷ったコウスケだったが、頭に浮かんだどの答えも恐ろしい未来にしか繋がっていないと瞬時に悟り、正直に白状した。
白状したコウスケは、あらゆる衝撃に耐える為、身を固くして待っていたが返ってきたのは
「・・・そう。まぁいいわ!早く進めるしねっ!」
との事だった。
待っている間、身体強化の魔法は必要かどうか迷っていたコウスケは、このエルネの言葉に拍子抜けすると共に、漠然と、しかし強大な恐怖を感じた。
一体、何がエルネの怒りを抑えたのだろうか?と。
こうして、北ルートへと乗ったコウスケ達。
目指すは、首都から二つ目の街。
学術都市・マギエンティア




