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危険な実験。の成果

翌朝、いつも通り出発の準備を終えた一行は、これまたいつも通り出発した。


定位置に陣取ったコウスケの隣では、エルネが


「今日はモリモリ進むぞぉ~!」


と気合いを入れていた。


余程馬車を操るのが好きと見えるエルネ。


昨日、文句を言っていたのも進めた距離が短かったからでは無い。


馬車を操っている時間が短かったからだ。


エルネの気合いの言葉を聞いたコウスケは、そう理解した。


(闇属性魔法に幻を見せるって魔法あったなぁ・・・アレで馬車を操ってる幻でも見せとけば大人しくなるかもな?)


等と失礼な事を考えさせる程に。


ともあれ三人は、東ルートの終点。東の港街ボルタへと続く道を進む。



この日の午後。昼休憩の後にコウスケは久しぶりに荷台へと籠った。


荷台を魔改造した事でロイドと同時に使える様になり、コウスケも早速何やら始める様だ。


これから数日、コウスケ一行の馬車には御者席にエルネが一人。と言う日が続いた。


たまにエルネがコウスケの様子を覗いたり、話し掛けたり、或は煮詰まったロイドが気分転換に御者席に出てくる事もあったが、コウスケが半日以上、前に座る事は無かった。


そんなある日。昼休憩が終わりしばらく経った頃だった。


「フゥ~・・・ヨッと」


「コウスケ?どうしたの?ずっと何かやってたけど、終わったの?」


久しぶりに食事以外の時間に姿を見せたコウスケを、チラリと見た後、前を見て言うエルネ。


移動の為に咥えたままだったタバコを、親指と人差し指で摘まみ口から外すと、一息吐いて


「フゥ~・・・まぁ一段落ってトコかな?」


そう言った。


「そう・・・あっ!この前みたいな危ない試し撃ちは無しよっ?」


いつかの事を覚えていたのか、エルネがそう釘を刺した。


「分かってるよ。俺にだって試して大丈夫か、そうで無いか位分かるよ?」


「・・・それは大丈夫じゃ無い方って事?」


「まぁ・・・良く言えば・・・」


目を逸らしながらそう言うコウスケ。


「良く言えば?じゃあ悪く言えば?」


「・・・・・・この大陸の皆さん、さようなら」


これには流石のエルネも驚きの余り、轍を外れ馬車を大きく揺らす。


「なッ!?あっ!!・・・何作ってんのよッ?そんな物作るために、ここ何日か籠ってたのッ?」


馬車の軌道を戻した後で怒鳴るエルネ。


「いや、他のもやってるよ?ただソレはロイドに頼まれたヤツだし、俺自身もどうなるのか興味があったからやってただけで・・・一段落したのもソレだから後はロイドに報告して終わり。もうあれ以上弄らないし、こっちは本当に封印するから・・・大丈夫だって!」


色々と理由を並べて、エルネを宥めに掛かるコウスケ。


「前もそんな事言ってなかった?アレも結局使ったじゃないっ!」


前科のあるコウスケの言葉は信じられなかった。


「あ、うん・・・人には向けない様にします」


「何に向けてもダメよッ!」


まるで、エアガンを親に黙って買った子供を叱る親。の様な会話が繰り広げられる。


コウスケの言葉から、その危険度はエアガンの比では無い様だが。


エルネの永遠に続きそうな小言に、何度も荷台に逃げようと考えたコウスケだったが、その度にエルネから向けられる絶対零度の視線に浮かした腰を下ろすコウスケ。


結局、夜営を張る為、馬車を停めるまで捕まっていたコウスケ。


馬車を停め、降りていったエルネを見送り


(・・・ただ気分転換のつもりだったのに・・・)


解放された安堵感と共に、心の中でそう愚痴るコウスケ。


しかし、厳密に言えば気分転換は出来ただろう。


どの様な気分に転換されたかは分からないが。



一旦は解放されたコウスケ。


しかし、コウスケは知っている。


こういう時のエルネは些細な事でも再び火が付く事を。


故にコウスケが取る選択肢はひとつだ。


「オラァ~、飯だぞぉ~」


「あっ!ドラゴンの肉じゃないっ?今日は豪華ねっ!」



「風呂の準備出来たぞぉ~。誰か入れぇ~」


「私イッチバ~ン!・・・覗かないでよっ!」


接待であった。


何とかエルネを風呂へと追いやったコウスケは


「ハァ・・・こんなもんか?」


隠していた疲労感を全面に出す。


「何かあったのか?」


何も知らないロイドはそれを見て聞いた。


「気にすんな。ただの消火活動だよ」


「?・・・成る程。コウスケ君、そう言うのはご機嫌取りと言うのだ」


初めは意味が分からなかったロイドだったが、夕食に風呂。


エルネが強請りもしていないのに、コウスケが率先して用意していた事を思いだしそう茶化した。


コウスケはこのまま茶化されては堪らない。と思ったのか話題を変える。


「それはそうと・・・ロイド。アレ。出来たぞ!」


エルネが居ない今、ロイドへの報告を済ませてしまおうと考えた様だ。


「ッ!本当かッ?出来たのかッ?どうなったッ?今見れるのかッ?」


コウスケを茶化していた事でニヤけていたロイドの口許から笑みが消え、目がカッと見開かれる。


それと同時に質問の嵐だった。


「待て待てッ!ここじゃ無理だッ!威力がとんでもねぇんだよ。何せ空間遮断の結界を15枚も突き破ったんだからな」


「なっ!・・・済まない。つい興奮した。しかし、それは凄まじいな」


「あぁ。今は実験過程の説明だけで我慢してくれ」


「分かった。聞こう」


エルネには試し撃ちはダメ。と言われ、してない。と答えていたコウスケだったが、それは嘘だった。


考えれば分かりそうなものだが、コウスケは試し撃ちはしないと言った。


しないと言う事は出来ると言う事。出来ると言う事はどんな形であれ完成していると言う事。


完成していると言うには、ちゃんと作動、発動するか確認が必要なのだ。


この確認とは要するに試し撃ちだ。


この試し撃ちにあたって、威力を心配したコウスケは十分に余裕を持って空間遮断の結界を20枚も張ったのだ。


その20枚の結界の中でソレを発動させたのだ。


結果、15枚を突き破る。と言う威力だった。


当然これを見たコウスケは、本当の事を言えばエルネが烈火の如く怒ると思い、それを隠したのだ。


結局怒られたのだが。


火を囲んで実験の過程を説明するコウスケ。


それを真剣に聞くロイド。


大方の説明が終わると


「確かに凄まじい威力だな?確か四属性の実験で暴発した時は三枚の結界で耐えた筈だ。五属性になって15枚を突き破ったとなると単純に計算しても威力は5倍。いや、三枚目は破られなかったのだから7倍以上か?恐ろしいな?」


威力をそう推し量るロイド。


「あぁ。エルネにはこの大陸が消し飛ぶって説明したよ」


「フム。強ちそれも間違いでは無いだろうな。空間遮断で作った結界はその一枚で、周囲を消し飛ばす程の威力の魔法も防ぐと言われている。それを15枚。少なくとも地図は変わるだろう。私が昔に起こした大事故に匹敵する威力だな」


「マジか?ロイド、よくそれで消し飛ばなかったな?」


「フン、全くだ」


自嘲気味にロイドはそう言った。


「まっ、報告はこんなトコだ!取り敢えず成功したんだ。祝杯だな?」


そう言ったコウスケは、鞄から酒を取り出す。


普段は滅多に飲まないロイドも


「そうだな。たまにはいいだろう」


そう言って、注がれた酒に口を付けた。




「そう言う理由だったのか?確かにあの街を出る時におかしいと思っていたのだ。あの物見は何故崩れているのか?とな。コウスケ君の仕業だったか。しかし、それはさぞ見物だったろう。惜しい事をした。今度その盾とやらを見せてくれ」


しばらく飲んでいた二人は随分と出来上がっていた。


特にロイドの口数が増えている。


「勿論いいぜ!攻撃用の魔道具なのに形が盾ってところがミソなんだよ!」


コウスケもだったが


「成る程。盾型攻撃用魔道具か。中々に矛盾しているな?興味深い。しかし、そんな物を取り出した日にはエルネ君が黙ってはいないだろうな?今日の様になるの・・・ンンッ、コウスケ君」


陽気に話していたロイドだったが、何かに気付き言葉を止める。


コウスケにも知らせようと合図を送るが


「バレなきゃ大丈夫だって!思えばあの盾を作った時は、我ながら何て物をッ!ってビビったもんだけどさ。それ以上の物を作っちまった訳だろ?今思えばあの盾も可愛いモンだなって。うん。今回のアレが結界を15枚突き破った時に俺はそう思ったねっ!」


気付いてはいない様で、酔った勢いそのままに誇らしげにそう言ったコウスケ。


ロイドは朗々と誇らしげに語るコウスケの背後に、ユラリと佇む影を見て酔いが醒めるのを感じた事だろう。


そして、コウスケの言葉を聞いた後に、グッと拳を握り締めるの見た。


この夜、コウスケの記憶はここで途切れた。


「ロイド、お風呂空いたわよ?」


「あ、あぁ・・・では」


転がるコウスケを挟んで、短いやりとりをするエルネとロイド。


ロイドはそそくさと風呂へ向かった。


ロイドが戻った時、そこにはエルネの姿は無く、ただ転がるコウスケのみだったと言う。


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