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エストルネ

「あんまり並んで無いな?」


「そうね」


この日、昼過ぎに次の街へと到着したコウスケ達。


これまで通り街へと入る為の列に並んでいたが、その列が短かったのだ。


さして掛からずに街へと入れるだろうが、短いながらもヒマはヒマだ。


そんな短いヒマを有効にでも使おうと思ったのか、コウスケは背中の魔法鞄を漁る。


取り出したのは、何重にも折り畳まれた紙。


それを広げると、目を走らせた。


同様に短いヒマを持て余していたエルネは、隣でカサカサやっているコウスケを横目でチラリと見た後、二度見して言った。


「・・・えっ?それって地図っ?」


「ん?あぁ、前に話に出ただろ?それでダンジョン都市出る時に買ってみたんだ」


「・・・着いてから見てもしょうがないでしょ?持ってるなら早く出しなさいよっ!」


「いや、フツ~に忘れてた。ゴメン」


どうやらコウスケ達の旅には、地図が有ろうが無かろうが変わらないらしい。


「まったく!・・・それで?この街は何の街なの?」


呆れながらも、今から入る街の事を聞くエルネ。


「それが・・・エストルネって名前しか書いて無いんだよね」


「・・・ケチって安い地図買ったのねっ?」


「違うって!他の街はちゃんとダンジョン都市とか、鉱山都市とか書いてあるって!ここは書いて無いんだよ!ほらっ!」


そう言って、広げていた地図をエルネにも見える様に傾けるコウスケ。


「・・・あら、ホントね!っていうか付いてる街の方が少ないじゃない!この街には特徴が無いって事なのかしら・・・」


地図を見たエルネは目の前の街の名前を確認した後、他の街はどうか?と地図を見渡しそう気付いた。


そして、街の名前の頭に付いているのは、その街の特徴、目玉の様な物だと考えたらしい。


今しがた着いた街にはそれが無いので、特徴の無い街、と結論付けたらしい。


「う~ん、そういう事なのか?・・・まぁ、分からない事は聞くに限るっ!街に入ったら街の人にでも聞いてみよう!」


そう言ったコウスケは、もう目前に迫った城門見た。


「もしもそうだったら、この街でする事は無さそうね?すぐ次に行く?」


「いやいやっ!一応見て回ろうぜ?何か面白い事あるかもしれないだろ?少なくとも一泊はするからな!久しぶりに安心して休みたいだろ?」


「そお?私たちの場合、ヘタな宿より夜営の方が快適だと思うけど・・・」


「いや、そんな事は・・・あるかもな・・・」


否定しようとして、自分の旅を振り返るコウスケ。


振り返れば振り返る程、否定する材料が見つからない。


まぁ、ホテルとレストランを連れて、車で移動している様なものだ。当然だろう。


「でしょ?・・・まぁ、たまには不便な生活もいいかもねっ!」


エルネの価値観は完全に逆転している様だ。


(・・・こいつ、これで大丈夫なのか?)


エルネの将来に一抹の不安を抱きながら、城門を潜るコウスケ。


しかしそんな事を考えても仕方が無いし、そもそも考えてやる義理も無い!と気持ちを切り替える。


「まぁ、まずは宿だな?」


街に入ったコウスケ達は、取り敢えず宿に向かって馬車を進めた。



程ほどの宿を見つけたコウスケは、それをエルネに伝え馬車を向ける。


入り口に横付けすると脇に座っていた男が立ち上がり


「お客様ですかい?馬車はあっちに停めてくだせぇ」


そう言って親指で、建物脇を指差した。


そこには既に数台の馬車が停まっていた。


その言葉に従ってエルネが馬車を進めると、男も付いてくる。


「こっちです。こっちの空いている場所に停めてくだせぇ」


指定された場所に馬車を停め、コウスケとエルネは降りる。


「おい、ロイド?宿に着いたぞ!」


そう一声掛ければ


「そうか」


そう短く返し、降りてくるロイド。


付いて来ていた男は、全員が降りたとみて


「馬はどうします?世話が必要なら別に料金が必要ですぜ?」


そう言った。


今までの宿ではそんな事を言われた事など無かったので、エルネはえっ?という顔をしている。


しかし、コウスケは


「うちの馬は世話は必要無いです」


そう答えた。


作り物なのだ。世話など必要無いのは当然だ。


「そうですか。じゃあ、馬車から外して右側の馬小屋につないでくだせぇ」


コウスケはその言葉に従い馬を右側の馬小屋につないだ。


左側には数頭の馬が藁を食んでいた。


どうやら世話有りの馬と、無しの馬を左右の馬小屋で分けている様だ。


エルネとロイドの元へと向かいながら、そう言えば。とコウスケは男に尋ねた。


「この街には何とか都市って名前に付いて無いですよね?どうしてですか?」


エルネと考えていた疑問を思い出したのだ。


「アンタさん、首都から?」


「えぇ、まぁ。何か関係が?」


正確には日本からだが、言える筈も無いのでハッキリとは答えず話を促す。


「首都から初めて出て、真っ直ぐこの街まで来た人が良くそれを聞くんでさぁ。あぁ言うのは国から認められないと名乗れないモンで、ほとんどの街には付いてませんよ?」


そう教えてくれた。


「そうだったんですか?勉強になりました。ありがとうございます」


丁度エルネとロイドの元に着いたコウスケは、そう言って男に頭を下げ、三人揃って宿へと入って行く。


「何の話してたの?」


受け付けに着いた辺りでエルネがそう聞いて来た。


「あぁ、・・・あっ、ロイド。受け付け頼む」


部屋を頼むのをロイドに任せ、エルネに先程の話をした。


「やっぱりねっ!私の言った通りだったわね?」


ロイドは滞りなく受付を済ませ、今は部屋に向かっている途中。


コウスケの話を聞いたエルネがそう言った。


「ちょっと違うだろ?特徴の無い街なんじゃなくて、国が認める程の特徴が無い街、だな!」


「何が違うの?一緒じゃない?」


「まぁそうだな。一緒だな!」


そう言って宛がわれた部屋の扉を開くコウスケ。


この部屋はコウスケとロイドの男部屋だ。


勿論、もう一部屋エルネの部屋を取ってあるが、これからの予定を三人で決めるために全員この部屋に入る。


街の名前問題が解決してスッキリしたコウスケは、少ない荷物を窓際の机の上に置き


「それで?どうする?一応俺はこの街を見て回るけど、付き合う必要は無いぞ?それにやりたい事もあるし。今日はそっちやるし。各自自由行動にするか?」


そう二人に聞いた。


「外に出ても研究材料の買い出しくらいだ。私はそれでいいが?」


ロイドはベッドに横になりながらそう返す。


「私もそれでいいわっ!コウスケ、お小遣い頂戴っ!」


エルネも自由行動に同意し、小遣いを要求してきた。


「・・・前やったのはどうしたんだ?」


ダンジョン都市で少なくない額を渡した記憶のあるコウスケはそう聞いた。


「え?え~と、確か半分は使っちゃった。もう半分は食べ物貯金にしたよっ!」


そう胸を張るエルネ。要するに全部使ったのだ。


「・・・エルネさん?それは貯金じゃないよ?だってお金貯まって無いよね?」


「んっ?」


エルネは分からないと言う様に首を傾げる。


これにはコウスケも頭を抱える。


(エルネには金の使い方を学んでもらった方がいいな)


そう考えると、財布を取り出す。


それを見たエルネは、お小遣いだ!と手を出して待つ。


「はい!小遣い!」


そう言って待ちわびるエルネの手に、コウスケは金を乗せた。


「ありが・・・これだけ?」


コウスケが渡したのは、まさに子供が貰う程度、串焼きが1、2本買える程度の小遣いだった。


「足りないなら・・・稼げッ!大人だろ?」


そう言い放つコウスケ。小遣いを貰っている時点で子供の様な気もするが、エルネは微妙なところだ。


「そんなっ!ヒドイッ!」


「酷く無いッ!大体冒険者に登録したのは、それで稼ぎながら旅するためだろ?ならせめて自分の欲しい物位、自分で稼いで買え。いや、もっと稼いで俺に借金を返せ」


「コウスケのバカッ!ケチ~~ッ!」


エルネはそう言って飛び出して行った。


どうにも子供を躾ている様に感じるコウスケ。最後の捨て台詞は納得行かないが。


飛び出して行ったエルネを、窓から見送る。


走っていくエルネは屋台が並ぶ方を目指していた。


(・・・結局行くのね?)


少し呆れたコウスケだったが、振り向き小さく伸びをすると


「まっ、これで少しは考えて使うだろ?さっ、俺も始めますか」


そう独り呟くと、ベッドで横になり本を読んでいたロイドに一声掛けて、部屋を出た。


コウスケは宿を出ると、停めてある馬車へと向かった。


何か作業でもするつもりなのだろう。


コウスケはそのまま、夜まで籠り続けたのだった。


ちなみにこの日。屋台が並ぶ通りで、難しい顔をしたエルフが何往復もする姿が目撃された。


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