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望郷

「えっ?・・・あの・・・すいません?」


言われ無き罪にも謝ってしまう獣人の青年。


それを見たコウスケは、八つ当たりしてしまったと反省する。


「いや、コッチの話だ。アンタが謝る必要は無いよ」


はっきりと「アンタのお陰で」と言っていたが・・・


「そう、ですか・・・あっ!そうだ!僕もここで夜営させてもらってもいいですか?」


許可を取る必要など無い。これは礼儀だ。


「勿論。それにしても随分重そうな荷物だな?」


獣人の頭を越える荷物を見上げながら、コウスケが言った。


「えぇ、駆け出しの商人なんでこれくらいしないと儲けが出なくて・・・ヨイショッと!」


そう言って下ろした荷物はドスッと音がする程だった。


「俺はコウスケだ。一応俺も商人やってる。ヨロシクな!」


「そうなんですかッ!?あっ、僕はトト・ハスキーです。すいません、つい嬉しくて」


そう言って頭を下げるトト。その後ろでは尻尾が左右に揺れていた。


揺れる尻尾に目を奪われながらも、トトを観察するコウスケ。


一応服は着ているが、かなり軽装だ。


見えている部分からはビッシリと毛が生えている。


まるで、二足歩行している動物が喋っている様だ。


「まぁ、火の側に座ろう!俺、獣人見るの初めてなんだ!話を聞かせてくれっ!」


そう言って、火の側に連れていくコウスケ。


「はいっ!僕もコウスケさんに商売の話聞きたいですっ!」


そう言ってブンブンと尻尾を振り付いてくるトト。


火を囲んで座るコウスケ、トト、ロイド。


ロイドは初めからここに座って本を読んでいた。


「あの~、こちらの方は?」


「んっ?あぁ、ロイドだ。一緒に旅してんだ。もうひとりエルネってのがいるが、今は風呂だ。」


簡単に紹介するコウスケ。


「ロイドだ。学者をしている」


本から顔を上げたロイドが短く名乗った。


「トト・ハスキーです」


トトも名乗ったが、ロイドは既に興味が無いのか再び本を読み始めた。


「まぁロイドは気にしなくていい」


「はぁ・・・」


困惑するトトだが


「トトは犬の獣人なのか?」


コウスケの質問が飛ぶ。


「ッ!違いますっ!僕は狼の獣人ですッ!ホラ見てください、この尻尾!犬みたいに巻いて無いでしょ?それに目だって、耳だって、牙だってっ!!」


何やら火が付いた様子のトト。


狼としての誇り等があるのだろうか?


「お、おう。わかった。悪かった」


突然の勢いにたじろぐコウスケ。


それを見たトトは


「あっ!すいません。つい・・・そう言えばコウスケさんは獣人を見るの初めてって言ってましたね?分からなくて当然ですよね」


ションボリとするトト。尻尾も連動している。


それを見たコウスケは、元の世界で飼っていた愛犬を思い出していた。


小型犬のミニチュア・ダックスフンド、武蔵だ。


そんな事を思い出したせいか、無性にトトに愛着が湧いたコウスケ。


何かせねばッ!と思い立ったコウスケは


「いやいや、そこが大事なら言った方がいいさ!それよりトト。腹減って無いか?メシまだだろう?」


餌付けに走った。


「あっ!そうでした!」


そう言って、大きな荷物を漁る。


取り出したのは大きな干し肉だった。


それに豪快にかぶり付くと、ムシャムシャと食べ始めた。


「・・・スープ残ってるけどいるか?何なら肉焼いてやろうか?」


その野生的な光景に唖然とするコウスケだったが、餌付けモードに入っているので色々と勧めだす。


「悪いですよ。旅の食料は貴重ですし」


そう言って断るトトだったが


「大丈夫だ。丁度食料が減らなくて困ってたんだ。減らすの手伝ってくれ」


「!!そんなに食料持ち運んでいるんですか?」


そう言って馬車をチラリと見るトト。


「んっ?あぁ、違う違う。食料はコッチだ」


そう言って魔法鞄を指差すコウスケ。


「もしかして魔法鞄ですか?すごいッ!僕も早く魔法鞄が持てる位に成功したいです!」


そう拳を握り言うトト。


「まぁ焦らずゆっくりだ」


そう言いながら肉を取り出し、焼き始めるコウスケ。


「・・・本当にいいんですか?何だかとても良い匂いがしてますけど・・・」


コウスケが焼き始めた肉の匂いに、期待と不安を感じるトト。


「心配すんなっ!売る程ある肉だからジャンジャン食えっ!」


そう言って次々に焼き、トトの前の皿に積んでいくコウスケ。


愛犬におやつでもあげているつもりなのだろう。


しかしこの肉、ドラゴンの肉だったりする。


エルネに気付かれるのはいつになるか・・・



ドラゴンの肉を鱈腹食べたトトは満足していた。


「すごく美味しいお肉でした!ごちそうさまです」


激しく左右に振れるトトの尻尾にコウスケも嬉しくなっていた。


「そうか?上手かったか」


そうして餌付けに成功したコウスケは、トトと急速に仲良くなっていった。


獣人の話、商売の話、トトの話、エルネが風呂からあがってくる頃にはスッカリ懐かれていた。


「あがったわよ~・・・って獣人っ?」


コウスケに懐くトトを見たエルネ。


「あぁ、こいつはトト。駆け出しの商人なんだけど頑張ってんだよ」


そう紹介するコウスケ。


「そう、なの?・・・んっ?この匂いって・・・コウスケ、食べたの?」


匂いで気付くあたり流石と言えよう。


「えっ?あぁ、トトが干し肉しか持って無いみたいだったから、何か可哀想になってよ。これが上手そうに食うんだ!こっちまで嬉しくなったよっ!なっ?」


「はいっ!ご馳走になりましたっ!」


和気藹々と笑い会うコウスケとトト。


「そう・・・コウスケ。ちょっと」


そう言って笑顔でコウスケをテントへと呼ぶエルネ。


「何?何だよ?」


そう言ってテントへと入っていく二人。


中で何があったかは分からないが、出てきたコウスケは顔と心を凹ませていた。


心配して駆け寄ってきたトトは


「あの、コウスケさん。うわっ!大丈夫ですか?一体何が・・・」


「聞くな、トト。世の中には聞かない方がいい事もある・・・もう休もうじゃないか」


そう言って自分のテントに入って行くコウスケ。


コウスケの去り際、トトは確かに聞いた


「・・・魔王はこっちだったか・・・」


と言うコウスケの呟きを。




翌朝、すっかり凹みが直ったコウスケは顔を洗っていた。


そこへ


「コウスケさん、おはようございますっ!」


トトが元気良く挨拶する。


「おう!トトか。良く眠れたか?」


「いえ、あっはい・・・う~ん」


コウスケの最後の呟きがどうにも気になり寝不足だったりするトト。


しかし、そんな事は知らないコウスケ。


「おいおいっ!そんなんじゃ商人なんてやってけないぞ?」


「そう、ですね!がんばります!」


その後、四人で朝食を摂り、片付けをする。


そして、出発の時。


トトと話していると、不意にトトの荷物が目に入ったコウスケ。


「なぁトト。アレ少し背負ってみていいか?」


昨夜、トトが荷物を下ろした時の音を思い出し、どれ程重いのか?と興味が湧いたコウスケ。


「いいですけど・・・多分無理だと思いますよ?僕でもギリギリなので」


獣人は他の種族よりも遥かに肉体が強い事で有名らしい。


それは力も同様だ。


そんな力の強い獣人がギリギリだと言う物をコウスケが持てる筈も無い。


コウスケはただ、獣人の怪力がどれ程なのか知りたい様だ。


担ぎ口に腕を通すコウスケ。


肩にベルトが確りと掛かっている事を確認し、中腰になっている足に力を込めた。


「フンッ」


声に出してそう力むが、微動だにしない。


「・・・マジか。獣人ってスゲぇな?」


「言ったじゃないですか」


コウスケに懐いていたトトも、これには流石に呆れる。


「何遊んでんのっ!行くわよっ!」


エルネが出発を急かす為呼びに来る。


「もう一回。もう一回だけ!」


そうエルネに言うコウスケ。


「何やってんの?」


「トトの荷物を担げるか試してるんだ」


「・・・無理に決まってんじゃないっ!獣人の力に勝てる訳無いわよ?」


「僕もそう言ったんですが・・・」


エルネもトトもコウスケには無理だと思っているらしい。


しかし、コウスケはまだ本気を出していない、とばかりに再び足に力を込める。


呆れた様子で眺めるエルネとトト。


その時、僅かに荷物が持ち上がった。


「フンッ」


「えっ?」


「・・・ズルじゃないっ!」


コウスケ、トト、エルネである。


トトは驚いているが、エルネはコウスケが何をしたのか分かったようだ。


顔を真っ赤にしたコウスケは、淡い光を纏っていた。


ドスッ


少し持ち上がったところで下ろすコウスケ。


「ヤベぇな!獣人ハンパねぇ!」


息を荒げてそう言った。


「コウスケさんの方が凄いですよ!これを持ち上げるなんてっ!」


そう言ったトトはヒョイと担ぎ上げるが・・・


「コウスケは身体強化の魔法を使ったのよ?」


エルネはコウスケのタネをバラす。


「それでも凄いですよ!」


このコウスケへの尊敬は何なのだろうか?餌付けの効果か?最早コウスケ教の信者である。


そうコウスケを凄い凄いと持ち上げるトト。


僅かに見える尻尾が窮屈そうにしながらも、左右に揺れている。


そんな大荷物を背負うトトを見たコウスケは、愛犬武蔵がブロックを背負いフラフラと辛そうに歩く姿を幻視する。


居た堪れなくなるコウスケ。


「トト、これやるよ!俺のお下がりだけどな!」


そう言って鞄を差し出すコウスケ。


「えっ?・・・えっ!これって・・・魔法鞄ですか?ダメですよっ!こんな高価な物」


「いいんだよっ!お下がりだって言ったろ?それにトトにはいい商人になって欲しいんだよ!」


そう言って押し付けるコウスケ。


言っておくが作ったばかりの新品だ。


「・・・分かりました!必ずいい商人になってみせます!」


そう言って大事そうに魔法鞄を抱えるトト。


「あっ!そうだ!もしこの先獣人の集落に寄る事があったら、僕の名前を出して下さい!良くしてくれる筈です!」


「寄ったらな。じゃあ頑張れよっ!」


こうしてトトと別れたコウスケ達。



しばらく走りトトの姿が見えなくなった頃


「ドラゴンの肉に魔法鞄まで・・・コウスケにしては親切すぎない?何か企んでるのっ?」


一連の、トトに対するコウスケの親切さに納得の行かないエルネは、コウスケが何か企んでいるのでは?と勘繰る。


その問いに対してコウスケは、遠くを見ながら紫煙を燻らせ


「武蔵元気にしてるかなぁ?ちゃんとメシ食ってるといいけど・・・」


そう呟く。


「ムサシ?誰それっ?」


コウスケは、エルネのその問いには答えなかった。


只、二本目のタバコに火を付けるだけだった。


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