荷物の魔物
ダンジョン都市を出て数日。
コウスケ達は順調に旅を続けていた。
エドに怪文書を送り付け、反応を待ってみたりもしていたが、コウスケが期待したような反応は無く、いつのまにか任命書にコウスケの家名が追加されただけだった。
そういう魔法的な効果なのだろう。
これに気付いたコウスケは「そちらがその気なら・・・」等とブツブツ言いながら口を三日月に歪めていた。
それを隣で見ていたエルネは、また新しいイタズラでも考えているのだろう。と思った。
しかし、今のところコウスケが何かした様子は無いので、飽きたか忘れたのだろうと思っている。
残念ながらコウスケは飽きても忘れてもいないが。
(フッフッフッ、思わず念話で確認したくなる様な功績を挙げてやるからなッ!)
悪巧みしている者が一名いるが、何はともあれ旅は順調なのだ。
そんなある日、日も傾きそろそろ適当な夜営地を、と思っていた頃。
「・・・エルネ。何だ、アレ?魔物か?」
前方に何かを見つけたコウスケが、隣で馬車を操るエルネに聞いた。
「んっ?・・・確かに、何か・・・荷物・・・?」
コウスケが見つけた前方の何かを見定めようと、目を細めたエルネ。
凝らしたエルネの目にはそう見えたらしい。
「・・・荷物ってひとりで歩くのか?」
コウスケの常識ではそんな事は有り得ないが、ここは異世界。
あるのかもしれないとエルネに聞くコウスケ。
「そんな訳無いでしょッ!」
だそうだ。
「・・・じゃやっぱり魔物か?」
「・・・そんな魔物も聞いた事無いわよっ!」
そんな事を言っている内にひとりでに歩く荷物に追い付いてしまった。
ドキドキしながら追い越した二人だったが、何の事は無い、ただ大荷物を背負って歩く青年だった。
体が隠れる程の荷物を背負い歩いていたので、後ろから見ると荷物がひとりで歩いている様に見えただけだった。
その事実に
「な~んだ、ビックリしちゃったっ!」
エルネは謎の光景の理由が分かり、納得顔だ。
しかし、コウスケは
「・・・マジか・・・現実だよな・・・」
そう呟いた。
隣にいたエルネは、その呟きが聞こえた様で
「?・・・駆け出しの商人か何かでしょ?馬車は無いけど出来るだけ多く荷物を運びたいんじゃない?‘獣人’ならあれくらいの荷物持てても不思議じゃないし・・・どうしたのっ?」
事も無げにそう言った。
しかし、コウスケには大事件だった。
「・・・獣人いるのかッ?」
「いるのかって・・・歩いてたじゃないっ」
「獣人は男だけ、とか無いよなッ?ちゃんと可愛いケモミミもいるんだよなッ?」
コウスケの余りの迫力に引くエルネ。
ケモミミが何か分からなかったエルネだが、流れから女性の獣人がいるのか?と言う事だと理解する。
理解するが
「・・・いたら・・・何なのよッ?」
コウスケの言葉の意図がわかったのか、エルネの言葉に棘が生える。
コウスケはそれを感じ取ったのか
「えっ?・・・い、いや、別に・・・そ、そう!獣人初めて見たから。そう、そんだけ」
「なら別に女の子がいるかどうかまで聞かなくても良いじゃないっ」
尤もだ。
「やだな~エルネさん。只の情報収集じゃないですか~」
苦しい言い訳だ。
エルネにも流石に通用しない。
「コウスケっ!最低ねっ!」
エルネは冷たく言い放った。
これにはコウスケも
「~~ッ!いいじゃんかよっ!それくらいっ!ケモミミはエルフの長耳と並んで、男のロマンなんだよッ!」
と思いの丈をぶちまける。
しかし、これは火に油を注ぐ事になる。
「ッ!ケモミミってそういう事だったのねッ!しかも、コウスケが私の耳をそんな目で見てたなんてッ!信じらんないッ!最低っ!」
との事だった。
その言葉に、そう言えばエルネはエルフだったと思い出すコウスケ。
(そう言えばエルネ、エルフだったな・・・いつも耳が隠れてるから忘れてた。・・・今度見して貰おうっ!)
耳を手で隠し、未だ喚いているエルネを見ながらそう思うコウスケ。
きっとその時はエルネに殴られるだろう。
しかし、そんな事は覚悟の上のコウスケ。
ふと我に返るコウスケ。
辺りが暗くなりつつある事に気付いた。
「・・・そんな事より夜営地を探そう?」
空を見上げて言ったコウスケ。
「もうコウスケにはッ・・・終わりじゃ無いからねッ!」
何か喚いていたエルネだったが、コウスケの言葉に辺りを確認してからそう言った。
まだ言い足りないらしいが、開けた場所に馬車を向けた。
その後、夜営を張る間、調理中、食事中に渡ってエルネの小言が続いた。
何故か最後は、コウスケの隣でロイドまでが正座していた。
災難なロイドである。
ようやくコウスケとロイドが解放された頃、闇の中にランプの光りと足音が聞こえた。
エルネとロイドは軽く見やるだけだったが、コウスケは何者が近付いて来るのか予想できているのか
(・・・今終わったばっかりなのに・・・)
そう肩を落とした。
そして、何とかエルネを遠ざけようと
「エルネさん!お風呂に行かれては如何でしょう?」
かなり下手に出た。
「・・・言われなくても行くわよッ!」
未だ不機嫌なエルネに、今までで一番高級な入浴剤を瞬時に[創造の産物]で作り出し押し付ける。
そのまま、クルリと風呂のある方にエルネを向かせると、背中を押すように促した。
渡された入浴剤の、その高級そうなパッケージと香りに、やや機嫌を直すエルネ。
「分かってるじゃない?・・・覗いちゃダメよッ!」
そう言い残して去って行った。
(・・・毎回それ言ってるけど・・・フリ、じゃないよな?)
一瞬そんな危険な考えが過ったコウスケだったが、その後自分に降り掛かる火の粉・・・メテオを想像し瞳から光が消える。
ちょうどその時、聞こえていた足音が背後で止まった。
コウスケは振り返り
「随分大荷物だな?ここで夜営か?こっちはアンタのお陰で地獄だったよ。まぁゆっくりするといい」
笑顔でそう言った。
「えっ?・・・あの・・・すいません?」
そこには、身の丈を越える程の大荷物を背負い、歩き疲れた様子の獣人の姿があった。




