手紙
エドの私室
「戻りました」
玄関でコウスケを見送った使用人がエドの元に報告の為戻る。
「ご苦労様。コウスケ君は任命書を持っていってくれたかい?」
やはり不安に思っていたのかエドが確認する。
「はい。忘れてはいけないと思いまして、例の代金と同じ袋に一緒に入れておきましたので」
「・・・コウスケ君は任命書がどこか、聞かなかった?」
「はい。代金の入った袋をご自分の鞄に仕舞って出て行かれました。悪戯っ子の様なお顔で」
「フフッ、見つけた時の顔が見たかったなぁ」
~~
「・・・クソッ!あの玄関で無言のプレッシャーを放ってたオッサンの仕業だな」
街の外。馬車の定位置に陣取っているコウスケがそう呟いた。
エルネにせがまれ宝玉の代金が入った袋を開けたところだ。
何でも大金を見てみたかったらしい。
「何それ?それも宝玉の代金?」
見てみたかったと言う大金には目もくれず、コウスケが忌々しげに睨み付けている紙に食い付くエルネ。
「まぁ・・・そうとも言えるな」
見せろ!と目で訴えてくるエルネに、数度ヒラヒラと任命書を振った後エルネに渡した。
「・・・男爵?コウスケが?・・・コウスケ、貴族になるのっ?」
手綱を握っているにもかかわらず、視線を手元の紙に落とし全く前を見ないエルネ。
「なるんじゃ無くてなったんだよっ!ってか前見ろっ!危ねぇ!!」
そんなコウスケの注意もどこ吹く風と視線を落としたままのエルネ。
不思議な事に馬車は轍を外れる事無く進んでいく。
よく見れば、前を見ていないエルネの手は手綱を小刻みに操っている。
(どんな特殊能力だよっ!慣れとかいうレベルじゃねぇぞ?)
内心で驚愕しながらも、そんなエルネを興味深く観察するコウスケ。
「そうか。コウスケ君、貴族になったのか?ならば、エルネ君がメイドで、私は執事といったところだろう?」
後ろで聞いていたのか、ロイドが顔を出した。
「食費ばっか掛かって役に立たんメイドと、400年干からびてたせいで一般常識知らねぇ執事なんて要らねぇよっ!」
「そうか?中々に面白いと思ったが・・・」
「そこに面白さなんて求めてねぇよ!有能さだよ、有能さっ!」
そんな気の抜ける様な言い合いをしていると
「コウスケ?ここに‘家名を考えておくこと’って書いてあるよ?」
任命書を隅まで読んだエルネがそう言った。
「家名?・・・あぁ、苗字の事か。そんな物必要なんてエドのヤツ一言も言って無かったぞ?」
「もう考えてあるのっ?なんなら・・・その・・・私の家名、使ってもいい、よ?」
モジモジしながらもそう言うエルネ。少し紅くもなっていた。
「何で俺がエルネん家に婿入りすんだよっ!大体俺には苗字、じゃねぇ・・・家名?もうあんだよ」
「なっ!それなら早く言いなさいよっ!」
プリプリ怒るエルネ。
「それで?決めたらどうすんだ?」
そんなエルネを無視して話を戻すコウスケ。
「・・・」
そんなエルネを無視して話を戻すコウスケを無視するエルネ。
「どうすんだ?オーイ!エルネさん?どうすんだっ?」
「分かったわよっ!・・・首都か、領主様の所に知らせてって。」
不貞腐れながらもそう答えた。
「知らせるってもなぁ・・・方法だよなぁ」
真剣な顔で、腕を組み考え始めるコウスケ。
「念話でいいじゃない?あげたんでしょ?魔道具」
簡単じゃない、とエルネが言う。
「そうなんだけどさぁ~・・・きっと数日は念話が来るんじゃないか?って身構えてると思うんだよね。そこに念話しても面白く無いからさぁ・・・他に無いかな?」
それを聞いたエルネは呆れていた。
「何それっ?・・・あぁもうじゃあ手紙でいいんじゃないっ?」
馬鹿らしくなったのか、投げやりに言うエルネ。
「・・・手紙か・・・うん。手紙か!いいな、それ!」
その言葉に
「普通じゃないっ!!」
思わずエルネがツッコむ。
「あぁ。今夜出す!」
そう力強く宣言するコウスケ。
「今夜って・・・運良くあの街に向かう馬車に出会っても、届くのは明日になると思うけど・・・」
この世界での郵便は、定期馬車に頼むか、冒険者に頼むかである。
いずれにしても陸路を行くので遅いのだ。
中には使役と言うスキルを使う、所謂魔物使い的なスキルで魔物を使い荷物を届ける仕事もあるらしいが、他に比べると割高で一般的では無いらしい。
それを踏まえてのエルネの疑問は尤もだった。
しかし
「俺が普通に送ると思うか?」
だそうだ。
スッキリした様子のコウスケは、タバコを取り出し咥えると、火をつけた。
「エドめ!見てろよ!」
そう言ってニヤけるのだった。
そして、夜。
久しぶりの夜営を張り、食事、風呂を済ませ、後は寝るまでの間の自由時間。
コウスケは地面に何やら書き始める。
まず興味を持ったのは、勿論エルネ。
「何?魔方陣?」
その単語が出れば、当然
「コウスケ君。実験か?」
ロイドも寄ってくる。
「あぁ、エドに手紙を送ろうと思ってな!」
そう言いながらも手は止めないコウスケ。
「・・・これは・・・ダンジョンで見た魔方陣か?」
描かれていく魔方陣を見ていたロイドが、思い出したのかそう聞いた。
「?・・・届けに行くのっ?」
ダンジョンで見た魔方陣が、転移魔方陣だと覚えていたのかエルネが聞く。
「これは通常の2地点を結ぶ転移魔方陣じゃないんだ。これは・・・」
そう言ってコウスケが説明を始めた。
それによると、通常の転移魔方陣とは2地点を結ぶ物。
つまり、離れた場所に魔方陣を描き、その間を行き来する物だ。
この場合、魔方陣はふたつでセット。対になる魔方陣が描かれている場所にしか飛べない。
しかし、ダンジョンで見た魔方陣は、行き先に魔方陣が無いにも関わらず地上へと飛んだ。
これは一方通行ではあるが、魔方陣が無い場所へも飛べるという事だ。
人が飛べれば、物も飛べる。
要するに、何かを送り付けるのに打ってつけの魔方陣なのだ。
「・・・って事だ。これでエドに手紙を送るっ!」
そういう事らしい。
「そういう効果だったのか・・・他にも使い道がありそうだ」
真面目に聞いていたロイドはそう言うと、何かに火が付いたのか、他の使い道をブツブツと考え始めた。
エルネはコウスケの説明の途中で、自分のテントに入って行った。
残されたのは、狂気じみた顔で地面にお絵描きをする男と、ブツブツと独り言を呟く男。
防犯はバッチリだ。
しばらくして、魔方陣を書き終えたコウスケは、今度は紙を取り出し何やら書きなぐる。
それを小さく折り畳むと、魔方陣の上に置いた。
コウスケが魔力を流すと淡く光り、折り畳まれた紙だけが消える。
「よしっ!・・・寝よっ!」
足で魔方陣を消したコウスケはそう言ってテントに向かう。
最初の火の番はロイドが行う様だ。
交代でコウスケが起きて来た時に、火が付いているかどうかは疑問だが・・・
翌朝、自室の仕事机の上に、見慣れない折り畳まれた紙を見つけたエド。
開いてみるとそこには
コウスケ・マツナミ参上!!
これでヨロシク
と書いてあったとか、なかったとか・・・




