友情の証
「どうしたんだい?こんな朝早くから」
翌日、コウスケはエドの屋敷に来ていた。
入り口で領主様に会いに来たと伝えるとすんなりと通され、今はエドの前に座っている。
朝早いせいかまだ眠そうなエドだが、既に仕事は始めていたのか身支度は済んでいた。
「今日この街を発つから挨拶しとこうと思ってね」
公式の場では無い事を意味するこの部屋では、二人とも砕けた様子で言葉を交わす。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってっ!今日発つのかい?」
突然の事に血相を変えるエド。
一方のコウスケは、大した事も無いという風に
「まぁ、この街での目的は果たしたから。次に行くよ」
そう言った。
「目的ってダンジョンかい?それにしたって昨日の今日じゃないかっ!・・・困ったなぁ」
「もしかして宝玉の代金まだ準備出来て無いとか?やっぱ早すぎた?」
昨日、宝玉を売ることを約束したコウスケだったが、今日この街を発つにあたり代金を受け取ってから出発しようと考えていた。
しかし、今エドが困っているのを見て、流石に早すぎたか?と反省する。
「いや、金はすぐにでも用意出来るよ?今必要だ、と言われればここに持ってくる事も出来る。そっちは問題無いんだけど・・・」
「何?他に何かあったっけ?」
心当たりが無いコウスケはエドにそう聞いた。
「・・・いや、まぁこれはコウスケ君に言って無かったから知らないのは当然なんだけど・・・実はダンジョン攻略を記念して祭りの様な事をしようと思っていてね」
「いいじゃねぇか。皆祭りは好きだろ?」
「そうなんだけど・・・その祭りの目玉としてコウスケ君達のパレードを考えていたんだよ・・・」
そういう事らしい。
「あっそういうの結構ですんで」
態度を他人行儀に変えたコウスケが、光の消えた瞳でそう言った。
「そう言うと思ってたから黙ってたんだよ。周りを巻き込んで決めちゃえば、コウスケ君も逃げないと思ってたのに・・・」
「いやいや、逃げて無いから。本当に知らなかったし・・・まぁそうなってたら逃げたかもだけど」
「やっぱり・・・まぁ本当に知らなかったみたいだし、諦めるよ。きっとダンジョン関連の行事はこの先もう無いだろうからね。最後だと思って精々しゃぶり尽くさせて貰うさっ!」
エドはそう言って笑った。
(うわぁぁ・・・役所っぽいなぁ)
エドの領主な一面を見て、若干引くコウスケ。
「ま、まぁ・・・頑張って」
そう言うのが精一杯だった。
「そうするよ。・・・そうか、コウスケ君は行ってしまうのか?折角友達が増えたと思ったのにな?」
肩を落とすエド。
気兼ね無く腹を割って話せる相手は、これまでシャズしかいなかったのだろう。
そこへ新たにコウスケが増え、今まではシャズから聞いていた様な冒険譚がコウスケからも聞けると期待していたエド。
その刺激的な話が、忙しい領主にとって唯一の楽しみだったのだろう。
「戻ってくる事があったら必ず顔を出すよ」
「あぁ、そうしてよ。まぁ当分はシャズもこの街を拠点にすると言っていたから心配は要らないけどね」
「そうなのか?・・・あっ!そう言えば、そんな寂しがり屋のエドにお詫びの、じゃ無くて・・・そうっ!友情の証に贈り物持って来たんだった」
そう言って魔法鞄を漁るコウスケ。
友情の証等と言ったが、実際は増やした宝玉を売ったお詫びだったりする。
「・・・今お詫びって言ったよな?・・・まぁいい、何をくれるんだい?」
少々引っ掛かっていたエドだったが、深くは追求しない様だ。
「こちらです。お納め下さい。領主様」
言葉は丁寧だが、顔はニヤけているところを見ると敬っている訳では無い。
所謂‘ごっこ’なのだろう。
そう言って取り出したのは、箱に入ったふたつの指輪だった。
「止めろ。気持ち悪い・・・指輪?」
エドは‘ごっこ’には乗らず、そうコウスケに聞いた。
「何だよ?ノリ悪ぃな・・・やらねぇぞ?」
「この手の装飾品は、僕に取り入ろうと商人の類いがよく置いていくよ。売る程あるよ?」
「オイオイッ!その辺のモンと一緒にすんなよ?・・・これはな、念話の魔道具だよ」
そう説明した。
「念話?・・・念話と言うとあの軍が使っている魔法・・・だったっけ?確かに便利そうだけど、ふたつだけじゃ使い道が限られる様な・・・」
色々と使い道について考えるエド。
「仕事用じゃねぇよ!シャズとエドに作ったんだよ」
「シャズ?・・・!成る程、寂しがり屋の僕への贈り物だったね」
コウスケの意図を理解したエドは笑顔になった。
「それに俺も持ってるしな」
そう言って自らの親指に嵌まる指輪を見せる。
「本当に嬉しいよ!ありがとう」
エドはそう言って受け取った。
「本当はシャズにも挨拶がてら渡そうと思ってたんだけど、依頼を受けて行っちまった後だったよ。エドから宜しく言って渡しといてよ」
「分かった。帰って来たら渡しとくよ」
「あぁ、頼む。あっ!魔道具の使い方は分かるよな?」
「当たり前だろ。大丈夫さっ!」
「そうだな・・・じゃ、行くわ!」
そう言って立ち上がるコウスケ。
「うん。あっ!玄関に宝玉の代金用意させるから。それとコッチは要らないかもだけど、男爵への任命書もね。両方持っていくようにっ!」
「・・・おう!じゃまた」
そう言って部屋を出たコウスケ。
それを見送るエド。
今の間は?と思いつつも
「フゥ~・・・行っちゃった。まっコレがあるからいっか」
出来たばかりの友達から貰った、指輪を眺めながらそう独り呟くエド。
「・・・んっ?作った。って言った?」
今さらコウスケの言葉に引っ掛かるエド。
しかし、コウスケは既に出て行った後、聞く事は出来なかった。
コウスケがこの街を去った後、エドの元にはコウスケの噂が幾つか流れてきたが、全ての話でコウスケの職業が違っていたので本当にコウスケの話なのか確信が持てないエドだった。
念話で聞く事も出来たが、それはしなかった。
コウスケから直接、真実かどうかも含めて冒険譚を聞くのを楽しみにしているのかも知れない。




