戦利品と脱出
通路を少し進む三人。
見えていた箱の前で足を止めた。
「さぁ~て、お宝とご対面だ!」
コウスケは少し興奮している。
「お宝じゃなくてご褒美よっ!」
「ご褒美?・・・あぁ、成る程。まぁどっちでもいいさ。・・・開けるぞ?」
そう言って箱に手を掛ける。
この通路の入り口から見ても分かるほどの大きさの箱。
何が、どれだけ入っているのかは想像出来ない。
慎重な手つきで箱を開けるコウスケ。
「・・・えっ?」
中を覗き込んだコウスケはそう声を上げた。
「どうしたのっ?何が入ってたの?」
後ろからエルネが頭を突っ込んだ。
「んっ?空っぽ?」
中は空だった。いや
「・・・んっ?これは?」
そう言って、コウスケが手に取ったのは小さな黒い玉。
「それがご褒美?・・・ガッカリねっ?」
その玉を見たエルネは文句を言う。
「・・・何だ、コレ?ロイド、分かるか?」
「見た事は無いな」
ロイドも見た事の無い物だった。
「コウスケが自分で調べればいいじゃないっ?出来るんでしょ?」
エルネがそう言った。
「あっ、そっか!」
そう言うと、コウスケは黒い玉に[鑑定眼]を使った。
スキルの宝玉
ひとつのスキルを極みまで習得することが出来る宝玉。
確率で低級のスキルを習得する事が出来る[スキルの玉]の最上位品。
「って事らしいな?」
調べた結果を二人に伝える。
「なっ!?スゴいじゃないっ!」
「スキルの玉と言うのは聞いた覚えがあるな?」
エルネは驚き、ロイドは記憶を引っ張り出した。
「なんだ?ロイドは知ってるのか?」
「玉、の方だが。確かいくら使ってもスキルを習得出来ない不良品扱いだった気がするが」
「確率ってのが理由なのかもな?」
そう言って立ち上がるコウスケ。
「・・・それで・・・誰が使うのっ?」
エルネの目がキラリと光る。
エルネにロックオンされた様だ。
コウスケはエルネの眼力に後退りしながらも、手に有る宝玉をエルネから放す様に持ち
「・・・外に出てから考えよう?・・・皆で」
そう言ってボックスの方に仕舞う。
「仕方無いわねっ!独り占めはダメよっ?」
「分かってるよ。ロイドもそれでいいか?」
「あぁ、構わん」
ダンジョン攻略の‘ご褒美’スキルの宝玉を手に入れた三人は先へと進む。
あとは、このダンジョンから脱出するのみ。
どの様な方法で地上へと戻るのかは分からないが、まさか階段と言う事も無いだろう。
しばらく歩くと、淡い光で照らされた一画が見える。
近づいて見ると床に描かれた魔方陣が淡い光を放ち、壁や天井を照らしていた。
「わぁ!キレイっ!」
エルネはその幻想的な光に目を奪われている。
コウスケとロイドにはそのような感性は無いようで、魔方陣を見や否やしゃがみこんだ。
「コウスケ君。魔方陣だ」
「あぁ、これは・・・見た事無いな?」
「十中八九脱出用だろうが・・・詳しく知りたい所だな?」
「あぁ。2地点を結ぶ転移魔方陣は知ってるが、これは知らねぇな・・・ッ!これはッ!」
「そんな事どうでもいいから早く出ようよっ!」
二つのバカ・・・いや、情熱に火が付きかけ、それを察知したエルネが止めに入る。
「待ってくれ、エルネ!これは持って帰りたい!」
「コウスケ君。それなら空間魔法で土ごと抉り取って、ボックスに仕舞うのを勧める」
「成る程ッ!その手があったっ!えぇ~と」
「何言ってるのッ!今からソレを使って帰るのよ?それを抉り取ったりしたら使えないじゃないッ!」
「そ、そうか・・・じゃあ、抉り取った跡に俺が書き直す!それなら」
「それ、上手く行く保証あるの?」
しゃがんでいるコウスケに、エルネの冷気を纏った視線が降り注ぐ。
「い、いや・・・初めて使う魔方陣だから・・・何とも・・・」
辿々しく答えるコウスケ。
自信の無さが原因か、それとも上から降って来る攻撃が原因か。
「却下よッ!それとも・・・また、危ない事をするつもり?」
エルネの視線による攻撃が少し弱まる。
「・・・そうだな。帰ろうか」
この先、一生危ない事をしないとは言えないが、少なくとも今は止めておこうと思うコウスケ。
それでエルネを悲しませたばかりなのでそう思ったのだろう。
立ち上がったコウスケは、魔方陣に足を踏み入れる。
「ロイドも行くぞッ!」
「いいのか?」
「見て覚えた!上に戻っても再現は出来るッ!」
「そうか」
ロイドは短く答えると魔方陣に踏み入った。
そこにエルネも加わると、淡い光が強くなった。
コウスケの使う転移と同じ感覚が三人を包む。
コウスケとエルネは知っているので驚かない。
ロイドは
「・・・懐かしいな」
一言そう言った。
驚くかと思っていたコウスケとエルネだったが、どうやらロイドは体験した事が有るようだ。
光が一際強くなり、収まる。
そこに、三人の姿は無かった。
これで、コウスケ達のダンジョン攻略は終わった。
しかし、ダンジョン都市での話はまだ終わらない。
地上に出たコウスケは
(・・・フラグって本当にあるんだなぁ)
と思い知らされる。




