地上の奮闘
コウスケ達がダンジョン攻略に成功し、無事脱出した時から遡る事、半日。
朝コウスケ達がダンジョンに潜った、すぐ後だった。
「今日も長げぇ列だな?これさえ無きゃなぁ」
「文句言ってないでどこに潜るか決めるぞ?」
「私は昨日のトコがいいな!魔物もそんなに強くないし、良いアイテム手に入れた事もあるし」
「僕はそれでいいですよ」
「私も・・・」
五人組の冒険者がダンジョンへと続く列、その最後尾に並んでいた。
自分達の前に続く、長い人の列を見て時間が掛かる事は分かっている。
その暇を埋めるため、今日の予定を話し合う。
いつもはもう少し早くに並んで、今頃はもう中に入っているのだが今日は違った。
この日は、文句を言った男が寝坊をしたせいで少し出遅れた。しばらく並ばなければならない。
深酒をした様だ。たまに有る事で他のメンバーからも注意されていた。
しかし、この日だけはそれが良い方に転がった。
「いつまで並ぶんだぁ?・・・んっ?おい。何か前の方が騒いでねぇか?」
話も聞かず前の方を眺めていた、文句を言った男がそう声を上げた。
「喧嘩か何かでしょ?そんな事よりアンタも考えなさいよっ!」
「・・・ただの喧嘩であんなに騒ぐモンなのか?」
「喧嘩なんて気にしない、気にしない」
そう言ったのは五人の内、誰だったか・・・
刻を同じくして最前列。
前のパーティーがダンジョンに消えていくのを見送り、受け付けに進む四人組の冒険者。
代表者が手続きをしている中、それを待っていた仲間の目の端に何かが動いた。
反射的に視線を向ける。
そこには一羽の一角兎。
「うおっ!こんな所に魔物がいるぞっ!オイッ!そこのおっさん!」
兎を見つけた冒険者は、受け付けに立っているおっさん、このダンジョンを管理している街の職員に声を掛ける。
「魔物?こんな所に?誰かのペットじゃ?」
職員がそう言った時だった。
暗くて向こう側が見えないダンジョンの入り口から、ピョンともう一羽、一角兎が現れた。
その場でそれを見た者は一瞬固まった後、状況を理解した者から声を上げた。
一番早かったのは職員か。
「・・・中から?ッ!まさかッ!?退避ぃぃーッ!!魔物が溢れて来るぞぉーーッ!!」
おっさんから出た声とは思えない程の大声が辺りに響く。
前方に並んでいてその声を聞いた者はザワザワと騒ぎ始める。
そして、集団の行動は二つに分かれた。
直ぐ様ダンジョン入り口から距離を取る者と、入り口に近づいて行く者。
実力がある者ほど前者、職員の言葉を信じ、この後に起こりうる事態に備える。
実力の無い者は、その言葉に興味を引かれ近付いてしまう。
その間にも魔物は入り口から溢れ出る。
兎ばかりだった魔物が、狼になり、虫になりと順に下層の魔物に変わっていく。
入り口に最も近い場所では既に戦闘が始まっている。
しかし、そこにいる者は考え無しに近付いた者。
次第に押され始める。
距離を取っていた者は助けに向かいたいが、この後更に強い魔物が溢れてくる事を考えるとそんな余裕は無かった。
それよりも、後方にこの事実を伝え、更にギルドにも報告をしてもらい、高ランク冒険者に招集を掛けてもらう方が先決だ。
「魔物はここで食い止めるぞッ!一番足の早い者はギルドに走れッ!戦闘職で無い者は後方の奴等に戦闘準備をしろと伝えに行けッ!!」
誰かがそう叫んだ。
おそらく高ランク冒険者だろう。
それなりに有名なのか、周りはその指示に異議を唱える事無く従い、動き始める。
前衛はその冒険者を中心に陣形を組み、後衛もその後ろに陣取る。
身軽な斥候が、後方とギルドに向かって走る。
数十分の内にこの知らせは街中に伝えられ、それぞれが動き出す。
ギルドは緊急招集を掛け、住民は避難。
行政は近隣の街に救援を求める使者を送り出した後、城門を閉ざした。
ここからは、救援が来るまで耐えられるか、時間との勝負である。
急拵えの陣は何度も後退しながら魔物を食い止めていた。
最初に展開した陣形はしばし粘った後、破られた。
直ぐ様後退し、後方で既に陣形を組んでいた者達に合流。
何とか立て直した。
人数が増えた事で一時は盛り返したが、向こうも数は増える一方。
又しても押され始める。
しかし、今度は破られる前に、少し後方に新たに陣形を組み直し、魔物を押さえていた前衛がそこまで後退。
これを繰り返し、大きく後退する事を防いでいた。
最初に指揮を執っていた冒険者の指示だった。
ここにいる冒険者達は、これから一時間程この作戦で粘る事になる。
数時間後
招集された高ランク冒険者達が合流して数時間が経った。
そのお陰か、街中に魔物が溢れ出る、と言う最悪の事態は防げている。
しかし、ダンジョン入り口を囲む様に建てられた、市街地とを隔てる壁の内側は魔物で溢れ返っていた。
最悪の事態が防げていると言っても、魔物は尚も溢れ続ける。
いつまで続くか分からない戦いに膝を折る者も少なくは無い。
それを見た高ランク冒険者が「諦めるなッ!」と檄を飛ばし、再び奮い立たせるが、その高ランク冒険者自身が一番分かっていた。
こんなのは続かない、救援が来るまで持ち堪えるのは無理だ。と
それでも戦い続ける。
或る者は街を、或る者は家族を、或る者は自分を守るため。
いつの間にか辺りは暗くなっていた。
掲げられた松明と、間断無く炸裂する魔法の光を頼りに戦い続ける。
どれくらいそうして戦っていたか誰にも分からなくなっていた頃。
空が白み始め、夜が明けた事を知る。
しかし、明るくなった事で目の前の絶望も知る。
あれだけ戦い続けて減っていない魔物の数。
その光景を見て、絶望が伝染していく。
これまでずっと指揮を執り続けていた高ランク冒険者も流石に同じだった。
その時、この天災とも言える戦いの中で始めて希望の光が差す。
魔物を吐き出し続けていたダンジョンが、唐突に消えたのだ。
唖然とする冒険者達だったが、そんな場合では無い。
今見えている魔物を倒し切れば、終わる。
その事実に、一気に息を吹き返し攻勢に出た。
言葉通りの全力攻撃だ。
後の事は考えない。目の前の魔物を倒す事のみを考えた攻撃。
その怒濤の攻撃に、下層に住む魔物達は数を減らして行き、遂に動く魔物はいなくなった。
勝鬨を上げる冒険者達。
その場で倒れる様に座り込み、大量の魔物の死体。少なく無い冒険者の亡骸。そして、消えたダンジョンのあった場所を眺める。
そんな光景を眺めていた冒険者達は戦闘が終わった余裕から、ある疑問を一様に抱いた。
「何故ダンジョンが消えたのか?」
あのダンジョンが攻略されるなど、考えもしない冒険者達には分からない。
そんなダンジョン跡地に薄っすらと魔方陣が浮かび、淡い光を放つ。
誰が最初に気付いたか、その光は徐々に強くなっていった。




