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コウスケの一撃

コウスケは案山子を眺める。


木の棒、そして藁で作られた簡素な物だ。


麦わら帽は被っていないが、顔にはへのへのもへじ。


高さはコウスケと同じ程あるにも拘わらず、何故か異様に小さいシャツを着せられている。


小さな物しか無かったのか、それともヘソだしスタイルなのか?


この案山子もこの部屋の家具同様に埃を被っていた。


そんな案山子を上から下まで眺めるコウスケ。


(きったねぇな)


そう思ったコウスケは、案山子の肩を左手で掴み、右手で頭を軽く叩いた。


埃を払おうと軽くのつもりだったのだが


バキッ


何故か叩いた頭では無く、案山子を支えていた足元の棒が音を立てて折れた。


「えっ?」


あまりに簡単に折れてしまった事もそうだが、何故そっちが?と驚くコウスケ。


その音を聞き付けたエルネが振り向き、折れた案山子を持ったコウスケを見て


「あぁ~あ、壊しちゃったっ!コウスケ、気をつけ・・・えっ?」


気を付けろ、と言いかけたエルネが何かに気付き驚きの声を上げた。


話し掛けられていたコウスケは勿論だが、その大声にロイドも手を止めてエルネを見る。


そして二人はエルネの視線を辿った。


その先には、入って来た時には無かった出口がポッカリと口を開いていた。


「なっ、どうなってんだ?・・・まさか・・・」


そう言って、自らが抱える案山子を見るコウスケ。


「どうやら出口が開いた様だな?」


そう言ってそちらに向かうロイド。


「あっ!ロイド、危なくないのっ?」


そう言いつつエルネも後を追う。


コウスケは何やら後ろで、バンバンと案山子を叩いている。


そんなコウスケを無視して、二人は新たに出現した出口らしき物を警戒しながら覗く。


「・・・普通の通路?みたいだねっ!あっ!奥に何かあるよっ!箱?かな?」


覗き込んでいたエルネが、見えた物をロイドに伝える。


「箱?・・・フム、呆気なかったな」


ロイドの中で何か答えが出たのか、そう言った。


「えっ?何か分かったのっ?教えてっ!」


キラキラした目をロイドに向けるエルネ。


その視線に、説明するのが面倒だったのかチラリとコウスケを見るロイド。


しかし、コウスケは何故か案山子と見詰め合っている。


それを見たロイドは諦めたのか、エルネに視線を戻した。


「ここがダンジョンマスターの間なのは間違い無いだろう」


「うんっ!」


「そのダンジョンマスターの間から続く通路。これは出口と見ていいだろう。本来はダンジョンマスターを倒した後に開くのだろうが・・・」


「いないもんね?ダンジョンマスターっ!・・・でもどうしてこれが出口だって分かるの?」


「あの箱だ。あれはおそらくダンジョン攻略の‘ご褒美’だろう」


「ご褒美?・・・それってもしかして」


「あぁ、ダンジョンマスターを倒した後に手に入るアイテム。そして、それがあると言う事は、ダンジョンマスターを倒した者が通る通路。つまり出口。と言う事になる」


ここまで説明したロイドは一息つく。


「でも罠の可能性もあるよねっ?」


「あぁ、今話したのは全て私の推論だ。実際に確認してみない事には何とも言えん」


「どうするっ?・・・また多数決?」


「ダンジョンマスターを倒してこの通路が出現していたら、何の躊躇も無く進めたのだがな・・・第一何故開いたのか・・・ダンジョンマスターがいないこの部屋に入った事で倒したと認識されたのか?・・・いや、それなら入ってすぐに開くだろう。入ってしばらくは何も起こらなかった・・・」


エルネと会話していたロイドだったが、途中から考え込んでしまった様で、ブツブツ言っている。


そこへ


「俺達はダンジョンマスターを倒したんだよ!・・・いや、俺かな?」


そう言ってコウスケが近づいてきた。


「どうしよっ?ロイドっ!コウスケが案山子の呪いに掛かっておかしな事言い出しちゃったよっ!」


エルネは可哀想な者を見るように、コウスケを見てからロイドに助けを求めた。


「・・・そのダンジョンマスターはどこに?」


少し考えたロイドは、至極冷静にそう聞いた。


「これだ」


短くそう告げたコウスケは、持っていた案山子を前に出した。


「ほらっ!やっぱり呪いよっ!幻覚か何かを見せられてるんだわっ!」


エルネは確信を得たのかそう叫ぶ。


「俺はまともだッ!コレを見てみろ」


コウスケはそう言って、更に案山子を前に出した。


その案山子は綺麗にホコリが払われていた。


「・・・成る程」


案山子のシャツを観察していたロイドは納得した様に呟いた。


「ッ!ロイドまでっ!こうなったら私がしっかりしなくちゃっ!!」


そう意気込むエルネだったが


「エルネ、これがダンジョンマスターなんだよ!そう書いてある」


そう言って案山子をエルネの顔に近付けるコウスケ。


「ちょ、止めてッ!私まで呪いに・・・んっ?」


案山子を近付けられて焦るエルネだったが、チラリと見えた案山子のシャツには確かに何やら書かれていた。


そこには



ここに辿り着いた人へ


まぁ、いないと思うけどもしここまで来れた人がいたら、きっと困ってると思うからこれを残します。


私はダンジョンマスターなのでここから動けません。


でも、外に出たいのでダンジョンマスターを交代しました。


後任は今貴方の目の前にいる案山子君です。


倒して下さい。そうすれば出口が開くでしょう。


なんせダンジョンマスターを倒したのですから。


えっ?物足りない?


大丈夫!このダンジョンの山場は上の層です。


そこを抜けて来た貴方は、最早強者です。


胸を張って地上に戻りましょう。


えっ?私を倒す為に来た?


それは無理です。生物に私は倒せません。


案山子君で我慢してください。


と言う事なのであしからず。そして、おめでとう


あっ!私は見た事無いけど、外への通路の途中に良い物があるらしいから忘れずに




「・・・こんな終わり方でいいの?」


やや呆れた様子のエルネが言った。


「良いも悪いも無いだろ?どうしようも無い」


納得はしていないが、コウスケは既に諦めている。


「ダンジョン攻略という目的は果たした。何が問題だ?」


ロイドだ。


「何かスッキリしないのよねっ!」


「スッキリしに来たのか?」


「ち、違うわよっ!私はただ、強い魔物を狩りたかったのっ!」


「ドラゴンを倒した。コウスケ君は?」


「えっ?俺は・・・お宝とか、かなぁ?」


「そこにダンジョン最奥のアイテムがある」


通路の先にある箱を見やり言うロイド。


「私もダンジョンを観察出来た。それぞれ目的は一応果たしている様に思うが?」


「・・・それでいい、の?」


「・・・いい、のか?」


ロイドの言葉に、確かに問題は無い様に思えてくる二人。


しばらく考え込む二人だったが


「・・・まぁ、アレを倒した時点でこのダンジョンが消えるのは決定だ。やり直しも出来ねぇしな?」


「そうねっ!仕方無いわねっ!ならさっさとこんなトコ出ましょっ?私お腹空いちゃったっ!」


二人がそう結論を出した事で三人は出口へと向かう。


(さっき食べたばっかりじゃねぇかッ!)


そう思ったコウスケだが口には出さなかった。


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