ダンジョンマスター
色々とゴチャゴチャしたが、何とか無事に・・・いや、一人人間を辞めたが、三人は30層に辿り着いた。
最下層には通路が一本真っ直ぐに伸び、その先には大きな扉があるだけだった。
その大き過ぎる扉を見た三人は
「ボス部屋感丸出しだな?」
「見事な装飾だ。素晴らしい」
「ダンジョンマスターってこんなおっきいのっ?」
それぞれ感想を口にする。
抱いた感想が少しずつオカシイのは気になるが・・・
しばらく扉を眺めていた三人だったが、そうしていても始まらない。
「さてっと!じゃあ・・・」
コウスケが明るく声を上げた。
「・・・行くのねっ?」
そう言ったエルネは気持ちを切り替え、気合いも入れ直した様に見える。
表情も若干固い様に見えた。
「いや、ここは魔物も出ないみたいだし、休憩しますッ!万全の体制で挑んだ方がいいだろ?」
「うんっ!・・・えっ?」
元気よく返事をしたものの、予想していた答えと違う事に困惑するエルネ。
「どうだっ、ロイド?」
「悪くない考えだ」
ロイドは同意する。
「ちょっとっ!大丈夫なのっ?」
「大丈夫だって!飯でも食おうぜっ!」
コウスケとロイドは既に腰を下ろしている。コウスケは更に火を起こしに掛かった。
「・・・まぁ、確かにお腹は空いたわっ」
そう言ってエルネも腰を下ろした。
「それに最後の晩餐になるかもしんねぇしなっ!」
軽い感じで言ったコウスケ。これには
「縁起でも無い事言わないでよッ!」
立ち上がり怒りを顕にするエルネ。
「そうか?じゃあ食べないのか?」
「要らないッ!」
完全に臍を曲げてしまったエルネ。
「そうか・・・最後の晩餐なら少し豪華に、ドラゴンの肉でも焼こうと思ったんだけどなぁ~」
コウスケはそう言って、チラリとエルネを見やる。
どこから出したのか、両手にナイフとフォークを握りしめ腰を下ろしたエルネがそこにいた。
「・・・現金なヤツだな?食うのか?」
「最後の晩餐でしょッ?当然よッ!!」
そう言い切った。
こうして、ささやかながらドラゴンの肉パーティーで英気を養った三人。
忘れてはいけないが、ここはダンジョンマスターへと続く大扉の前。
不安と恐怖に震える事はあっても、間違っても車座でワイワイ食事を摂るような場所では無い。
しかし、この先に待ち受けるであろう激戦を見越しての休憩なのだから、ダンジョンマスターも文句は言わないだろう。
賑やかな最後の晩餐(仮)も終わり、三人は手早く片付ける。
「よしっ!じゃあ行くか?」
仕切り直しと言わんばかりにコウスケが言った。
扉の前まで進み出たコウスケだったが、立ち止まると肩越しに振り向く。
「死ぬ覚悟はしておいてくれ!でも・・・」
そう言って扉に向き直る。
「死ぬつもりは無いから二人もそのつもりでなっ!」
「うんっ!」
「いいだろう」
士気は今が最高潮だろうと感じたコウスケは扉を押し開けた。
今の三人ならばどんな強敵に出会おうとも、死ぬまで諦めないだろう。
そんなやる気に満ち溢れた三人の目に映ったのは
「・・・何だよ?コレ」
「ねぇ?コウスケ、ダンジョンマスターは?」
「・・・個人の私室・・・の様に見えるが・・・」
机、椅子、ベッド、タンス、服を掛ける家具やランプまで置いてあり、何故か部屋の中心に案山子の様な人形が立っている。
生活感溢れる空間に、肩透かしをくらう三人。
そこで、入ってきた扉が音を立てて閉まる。
「ッ!二人ともッ!構えろッ!罠だッ!!」
コウスケのその声に現実に戻された二人は身構えた。
しかし、しばらく経っても何も起こらない。
身構えたまま、ソロリソロリとコウスケに近寄ったエルネは、小声で
「コウスケ、何も起こらないよ?ホントに罠なのっ?」
「・・・」
コウスケは何も答えない。
更に時間が経ち、「もうこれは流石に何も起きないんじゃ?」と言う空気が三人の間に流れた頃。
「・・・な、な~んちゃってっ!」
コウスケがそう言った。もう一度言おう。コウスケがそう言った。
二人から白い視線が飛ぶ。
「・・・素直に扉が閉まった音に驚いたって言えばいいじゃないっ!」
エルネが核心を突く。
「ち、ちげぇし!上の層であんな罠張ったヤツだから今のも罠なんじゃねぇかって、論理的に考えての事だしっ!ビビった訳じゃねぇしっ!!」
言い訳を並べるコウスケ。
「ビビったのね?大丈夫よっ!それは恥ずかしい事じゃないわっ」
確信を得たエルネは、そうコウスケを慰めるが、それがコウスケの傷を抉る。
気合いを入れ、士気を高め、扉を開ける前には少しカッコつけた事も言ってこの部屋に踏み込んだ手前、ビビった等、口が裂けても言えないコウスケ。
男のプライドだろうか?
尚も、顔を赤くして言い訳を並べるコウスケに興味を無くしたのか、エルネとロイドは部屋の中を確認しに動く。
生活感溢れる部屋だったが、よく見れば使われなくなって大分経つのか、ホコリが積もっていた。
エルネはタンス、ロイドは机を調べている。
その時、ロイドが声を上げた。
「コウスケ君。エルネ君。来てくれ」
その言葉に、エルネは一旦手を止めロイドの方へ向かう。
ロイドへと向かう途中にいたコウスケは
「違うんだよっ!ビビったんじゃ・・・」
等とブツブツ言っていたので
「わかったからっ!」
そう言って、押す様にロイドの元まで連れて行く。
「何か見つかったか?」
若干赤いままだが、何とか立ち直ったのかコウスケが聞く。
「あぁ、これを見てくれ。どう思う?」
そこには、机の上に一枚の紙が置かれホコリを被っていた。
「何か書いてあるな?」
そう言って紙を摘まみ上げたコウスケは、ホコリを払うため、フゥ~と息を吹き掛ける。
読める様になった紙を読み上げるコウスケ。
「え~と、何なに・・・‘探さないで下さい’・・・って家出かッ!!ふざけんなッ!」
怒りを込めて床に叩きつけるコウスケ。
「フム・・・ここにはもうダンジョンマスターはいない。と見ていいか?」
ロイドはそう解釈した様だ。
「私も里を出るときコレ書いて来たわっ」
エルネは昔を懐かしんでいる。
「そんな事言ってる場合じゃねぇよ!ダンジョンマスターがいねぇんじゃ、攻略もアイテムも外に出る事も無理だろ?」
「そうなるな?」
「他に何か無いか探そっ」
そう言って再び散る三人。
ダンジョンマスターを倒せば、何か外に出る仕掛けが作動する、と考えていたコウスケは焦った。
何故なら、ダンジョンから出る方法は入り口まで徒歩で戻るか、石碑しか無い。
30層の入り口には石碑は無かった。
そして、29層への階段も何故か消えたのだ。これでは徒歩で戻るのも無理だ。
さらに、同じ層の中では使える転移も、別の層に行こうとすると阻まれる。
30層に下りた時に確認したので間違いない。
その時点で閉じ込められた事に気づいたコウスケだったが、ダンジョンマスターを倒せばどうにかなる、と気楽に考えていた。
故に、あてが外れたコウスケは焦っているのだ。
(クソッ!敵わなくて死ぬ覚悟は出来てたけど、家出なんてふざけた理由のせいで。なんてシャレになんねぇぞ?)
コウスケの焦りは募る。
部屋を再び調べ始めた三人。
エルネは元いたタンスを、ロイドも再び机を漁っている。
コウスケはと言うと
(いやいや、どう見てもコレが一番怪しいだろッ?)
この部屋には不釣り合いな案山子の前にコウスケは立っていた。




