二人目の魔法バカ
新たに三人で始まった旅だが、早速問題が起きていた。
「エルネ君、私にもその興味深い馬を操らせてはくれないか?」
荷台から身を乗り出し、エルネに詰め寄るロイド。
「ちょっとっ!これは私の仕事なのッ!」
手綱を渡そうとしないエルネ。
「フゥゥ~・・・いい天気だ」
我関せず、とタバコを吸うコウスケ。
コウスケにとっては、どちらが手綱を握ろうと、馬車が進んでさえいればどうでもいいのだ。
しかし、それは許されない。
「「コウスケ(君)!何とか言って(くれ)!」」
二人同時に、コウスケに仲裁を求めて来た。
(面倒臭ぇ~)
思っても口には出さない。
「わ~かったよ、ったく。ロイド、どれくらいで満足するんだ?」
「そうだな・・・半日もあれば、試してみたい事は終わるだろう」
「そうか・・・エルネ、半日ロイドに変わってやれ。ずっとじゃ無いんだ。それくらいいいだろ?」
「そんなっ!?その間、私はどうしてればいいのよッ!」
「そりゃあ・・・荷台で昼寝でもしてればいいだろ?」
「嫌よ、そんなのッ!」
寝るなんて勿体無い、何かしていたいのよ!と訴えるエルネ。
「う~ん・・・あっ、じゃあ少し先行して、狩りでもしてくれば?」
「・・・狩り、か。・・・まぁいいわ!ロイドッ、半日だからねッ!」
「分かった。約束は守る」
そうしてエルネは、渋々だが手綱をロイドに渡した。
その後、弓を手にしたエルネは、何事かを叫びながら前方へ駆けて行った。
(それじゃあ獲物が逃げるんじゃないか?)
残った二人はそう思っていた。
「夢中になっても、半日は越えるなよ?エルネは拗ねると怖いからな」
「拗ねると?怒ると、の間違えではなくてか?」
「あぁ、拗ねると、だ」
言い知れぬ恐怖を感じたロイドは、コウスケに操縦法を習い、試したい事を一つでも多く試そうと急いだ。
どうやら手綱を握れるチャンスは、今日しか無いと気付いた様だ。
戻ってきたエルネは、体を動かした事もあって、少し機嫌は直っていた。
しかしコウスケは、念の為に約束の猪鍋でさらに機嫌を取る。
風呂にも入ったエルネは、満面の笑みだ。
漸くコウスケは安心した。
「何だあれはッ?どうして外で風呂に入れるッ?」
風呂についてしつこく質問してくるロイドと、エルネが狩って来た大量の肉を目の前にして・・・
こうして、三人になって初の問題は解決?した。
~~
次の日、ロイドの興味は馬車からコウスケに移っていた。
「コウスケ君。この箱にも付与魔法が掛けてあるのだろう?」
荷台に置いてある道具箱を指差してロイドが訊ねる。
「あぁ、[拡張]の魔法を付与してあるんだ。魔法鞄も同じだな」
「成る程・・・付与魔法とはどんな魔法も付与出来るのか?」
更に質問するロイド。
「ん~、試した訳じゃ無いけど、理論上は出来る筈だ」
「それは凄いな・・・んっ?[拡張]は空間属性だろう?特殊属性の魔法も付与出来ると言う事で間違い無いか?」
疑問が次々に湧いてくるロイド。
朝から、ロイドが質問し、コウスケが答える、という事が繰り返されている。
400年の知識の穴を埋めるべく、コウスケが生け贄にされているのだ。
エルネが役に立たないので仕方が無い。
「あぁ、他の特殊属性は試した事無いけど、出来る筈だ」
「ならば、私が使える時間属性の魔法も付与出来る、か?」
「ロイド時間属性なんて使えたのか?」
「おぉ、そう言えば話して無かったな。丁度良い、私が使えるスキルを教えておこう」
そう言って、自分の使えるスキルを話すロイド。
コウスケが[鑑定眼]を使った風にすると、こうだ。
ロイド・コーネリアス 39歳(実際は500歳近く)
種族 人族
職業 魔法研究者
スキル 基本属性魔法全習得(火、水、風、土、雷) 時間属性魔法全習得 詠唱短縮 魔力増大
ギフト 魔導を探求し探究する志
ロイドも中々のチートだった。
「・・・すごいな。基本属性全部とか・・・」
魔法面では、エルネを軽く凌駕する。
「昔はよくそう言われたものだ。しかし、ギフトがイマイチ分からんのだがな」
ロイドはそう言って腕を組んだ。
(いやいや、その魔法研究に対する姿勢がソレだろッ!)
コウスケには、そう思えて仕方なかった。
「そういや、武器スキルは?」
気になったコウスケは、そう聞いた。
「武器を手に戦うなど、私には必要ない」
「えっ!?じゃあ近付かれたらどうすんの?」
「天を仰ぐのみだ」
「・・・」
ロイドの恐ろしい戦闘スタイルを知った瞬間だった。
「話を戻そう。時間属性魔法を付与出来るか?だ」
「・・・あ、あぁ、そうだったな。時間属性と付与魔法が使えれば出来るだろ?」
面喰らっていたコウスケだったが、何とかそう答える。
「そうか・・・」
「でも、そんな物付与してどうするんだ?」
「時間属性魔法は、進める、止める、戻す。この三つだけだ。しかし、どれか一つでも付与出来れば・・・コウスケ君。私に付与魔法を教えてくれ」
こうして、コウスケによる付与魔法講座が、ロイドに行われた。
その結果
「どうやら私には、付与魔法は一切使えない様だ」
これが結論だった。どう頑張ってもロイドには使えなかったのだ。
しかし、コウスケの知識を思う存分吸収したロイドは、付与魔法を使え無いにも関わらず、人に教えられる程に理解していた。
「付与魔法は残念だが仕方が無い。次は魔方陣だ、コウスケ君」
そう切り替えたロイド。
一方、解放されるかと思っていたコウスケは、ゲンナリする。
魔方陣の基本的な事は知っていたロイド。
この400年の間に、新たに発見、発展した部分だけを教えるコウスケ。
ロイドの理解力は凄まじく、魔方陣ならば自分並みになる日もすぐだと感じるコウスケ。
「成る程、後は地道に魔方陣を記憶して行くしかないか?」
「・・・そ、そうだな。がんばれ」
やっと解放されたコウスケだが、ロイドの集中力に、かなり引き気味だ。
少しの間、ロイドからの質問が無い事を確認して、自分の作業を始める。
(疲れたぁ~。・・・さてっと、時間を停止、ね)
ロイドとの会話の中で、何かヒントを見つけた様で、コウスケも何やらしている。
手綱を握り、ずっと黙っていたエルネは
「面倒なのが増えたわね・・・」
そう呟いたのだった。




