三人目
復活したロイドを、牢に残し役人に近づくコウスケ。
肩を組み、ロイドに背を向けて話し始める。
「どうします?俺は少し興味湧いちゃったんですけど・・・」
「ダメですよ!彼が本当にロイド・コーネリアスだったとしても、ちゃんと理由があってここに入れられていたんです。この先も牢に繋いでおくべきです」
「でも、400年もここに居たんでしょう?刑期は終えたとも言えますよ?」
「それは・・・」
コウスケの言う事も尤もだと、役人は答えに困る。
「じゃあ、こうしましょう。今から俺がロイドに話を聞いてみて、ヤバそうな人物だったら、そのまま幽閉。大丈夫そうだったら、刑期満了で釈放。ってのはどうですか?」
そう提案するコウスケ。
「・・・はぁ、分かりました。街の恩人を信用します」
「ありがとうございます」
「でも、入り口には警備を置かせてもらいますよ?」
「それで構いませんよ」
話しは決まったと、役人は入り口の方へ、コウスケはロイドの方へ向かった。
「私の処遇は決まったのかい?」
「聞こえてたんですか?」
「いや。今出て行った彼は役人だろう?その彼と何やら話し合い、コウスケ君だけがこちらに戻ってきた。これは、何かしらをコウスケ君が任されたと言う事だろう。大方、私が安全かどうか?と言った所だろうね」
バレている様だ。
「まぁそんなトコですかね」
「私が嘘をつく可能性もあるのだよ?」
なるほど、と思うコウスケ。しかし
「人を見る「眼」はありますから」
そう言った。
最悪[鑑定眼]でロイドの人となりを見てしまおうと考えているのだ。
「そうか。では何から話すとしようか?」
「そうですねぇ・・・じゃあ、ロイドさんはどうしたいですか?」
「ロイドでいい。それで、どう、とは?」
「ここから出たいのか、出たくないのか?と言う事です」
「随分直球だな?・・・あの役人に会った時は、別に出たいとは思っていなかったんだがな。食事さえ貰えれば・・・その程度だったよ」
そこで、一旦言葉を切るロイド。
「今は、違うんですか?」
「あれから400年も経ったと聞いて、外の世界がどうなっているのか興味が湧いたのは事実だな」
「あぁ、400年もあれば相当変わってるでしょうね?」
世界を見てみたい。と言うのはコウスケにも分かるので同意する。
「新たな魔法体系が確立していたり、私の知らない魔法理論が普及していたりするんだろうな、と」
夢を語る少年の様な顔で話すロイド。
(そんな危険そうには見えないんだよなぁ)
そんな感想を持つコウスケ。
「それから、当時やり残した事も思い出したよ・・・」
(いや、そっちは何かヤバそうだな?)
表情を険しいものに変えて言ったロイドを見て、そう思うコウスケ。
「やり残した事って?」
「・・・弟を探し出す。それがやり残した事だ」
「弟・・・ですか?流石にお亡くなりになってるんじゃ?」
「いや、弟も私と同じような体になっている。私が生きていると言う事は、弟も生きている可能性が高いだろう」
「そうだ、そこですよ!そもそも、どうしてロイドは400年も生きていられるんですか?」
最初に聞きそうな質問を、漸く聞くコウスケ。
「老化を完全に停止させた。魔法を研究するのに、人の一生では短いと感じたものだからな。その代償に死と言うものも失ったがな・・・」
「それって不老不死って事ですか?」
「・・・まぁそうなるだろうな」
事も無げに言うロイド。
「いやいや、普通そこが研究の最終目標でしょう?」
マッドサイエンティスト等は、非人道的な実験で不老不死を目指すのがお約束だが、ロイドは違うらしい。
「魔法を使えば不老不死など、案外簡単だ。私はそんな事よりも、誰も知らない事を知ってみたかったのだよ」
人類の夢をそんな事と言い切ったロイド。
探求者と言ってしまえばそれまでだが、一歩踏み外せば危険な事に成りかねない。
コウスケは、ロイドが危険か、そうで無いのか、分からなくなってきていた。
そこでコウスケは、次の質問で全てを判断する事にした。
「もし、ロイドの知りたかった事が目の前にあるとして、それに手を伸ばすと周りに迷惑が掛かる。そんな場合、ロイドはどうする?」
研究の為なら、犠牲も厭わないのか?と問うコウスケ。
「・・・私は一度それで失敗している。あの役人も言っていただろう?大事故を起こした極悪人と。私は好奇心に負けて事故を起こし、犠牲者を出してしまった。もう二度とあんな事は起こさないと誓ったのだよ」
顔に後悔を滲ませながらロイドは言った。
コウスケは、その言葉に嘘は無い様に感じた。
「そうですか・・・外に出ましょうか?」
「いいのか?私はその時の事で、ここに繋がれていたのだよ?」
「400年ですよ?十分じゃないですか?」
「・・・」
「なら、この世界に償いをして回れば良いんじゃないですか?」
「償い?それで私は赦されるのか?」
「さぁ・・・でも、それなら同時に弟さんも探せますよ?」
「!・・・フッ、成る程、コウスケ君。どうやら君は効率重視の人の様だな」
「悪い事ですかね?」
「私にとっては、寧ろ好ましい事ぐらいだ」
ロイドの釈放が決まった。
「実は俺達、世界を見て回る旅の途中なんですよ」
ニヤリと笑うコウスケ。
「ほぅ・・・それは奇遇だな。私もそうしようと思っていたところだ」
こちらも、ニヤリと笑うロイド。
今、三人は役人にロイドの釈放を報告しているところだ。
「・・・それは、コウスケさんがロイド・コーネリアスを連れて行く、と言う事でしょうか?」
戸惑いながらも、役人が聞いた。
「何かあっても、俺が責任を取るので・・・ダメですか?」
「いやまぁ・・・そこまで仰られるのでしたら・・・」
こうして、旅の仲間にロイドが加わった。
「これからよろしく頼むよ。コウスケ君」
「あぁ、よろしく。一緒に旅するんだ。これからは敬語は使わねぇぞ?」
「あぁ、そうしてくれて構わない。エルネ君もよろしく」
「うんっ。よろしくねっ!ロイドっ!」
「なんだ、エルネ居たのか?」
「ッ!ヒドイッ!!ずっといたのに・・・」
晴れて自由の身になったロイドを加え、三人は歩き出した。




