大?脱走
深夜になるまで待ったコウスケ。
途中、食事も出ないのか?と憤ったが、ボックスから肉を出し焼いて、こっそり食べたりしていた。
(そろそろいいかな?)
そう思い立ち上がる。
鉄格子の前まで歩き立ち止まる。通り抜けるのは無理そうだ。
「試してから使いたかったんだけどなぁ」
そう独りごち、ある魔法を探す。
(うわぁ、緊張するぅ~)
どうやら見つけた様だ。
「・・・よしっ!」
そう気合いを入れて、魔法を発動した。
次の瞬間、コウスケは鉄格子の向こう側にいた。
「・・・おぉ!上手くいった」
感動するコウスケ。
コウスケが使ったのは、空間属性上級魔法「転移」である。
この魔法は、目で見える範囲か、一度でも行った事のある場所に、一瞬で移動する事が出来るものだ。
今回は、目で見える範囲、鉄格子の向こう側に転移したのだ。
(ここさえ越えれば、後は・・・)
背負い直していた魔法鞄に手を入れる。
「姿の消える石ぃ~」
そう言いながら取り出し、掲げた。意外と余裕がある様だ。見付かったらどうする
姿を消したコウスケは悠々と外に出た。どうやら地下牢だった様だ。
(さて、エルネの居場所は・・・まぁお頭が居る所だから一番デカイ屋敷だろ?)
そう当たりを付けて、貴族街へと歩き出した。
貴族街に着くと、一番奥に一際大きな屋敷が見える。
(・・・もうアレしか無いだろ?)
その屋敷だけ明かりが灯り、護衛らしき者も見える。
素早く近寄ると、塀を乗り越え裏手に回る。
窓から中を窺い、窓の側に誰もいない事を確認すると、ソッと窓を開け忍び込んだ。
(こういう場合は、地下か上の良い部屋かどっちかなんだよなぁ。どっちだろ?)
二択のお約束に迷うコウスケ。
(・・・貴重なエルフを地下に入れる訳ないよな?)
そう判断して、二階に上がって行った。
気付かれない様に、隈なく二階を捜索したコウスケ。
(バカなッ!!いないだとッ!!)
潜入系ミッションに少しテンションがおかしくなっているコウスケ。
この手のゲームが好きだったコウスケ。仕方が無いだろう。
コウスケが成り切って遊んでいると
『コウスケ、まだなの?』
エルネから念話が入った。
『・・・建物のどの辺にいるか分かる?』
エルネからの念話で冷静になり、少し恥ずかしくなるコウスケ。
それを隠す様に、聞き返した。
『地下って事しか分からないわ』
『そっちかいッ!』
思わずツッコミをかますコウスケ。
『?・・・そっちってどっちよ?』
『いや、何でも無い。今行くよ』
そう言って念話を切り、地下に向かった。
地下に降りると、すぐにエルネは見つかった。
エルネもコウスケと同じ様な、鉄格子の牢に入れられていた。
かなり無駄な遠回りをした様だ。
「コウスケッ!よかった。早く出してっ」
その時、コウスケは見てしまった。
エルネの牢の中に有るトレーを、そしてその上の食器、さらにはその食器が空になっているのを。
少しイラッとしながらも、牢の中と外を転移で往復してエルネを助け出した。
触れていれば一緒に転移出来るのだ。一緒に転移出来る人数は使う魔力に依るらしい。
「ッ!!今の何ッ?」
「転移だよ。それよりコレ握って。ホラっ」
驚くエルネに軽く返し、石を握らせた。
途端にエルネの姿が消える。
コウスケも同じ物を握り、姿を消した。
「さぁ行くぞ?早くこんな街出たいからな」
「それは賛成だけど、この後はどうするの?」
「出てから説明するよ」
そう言って、移動しようとするが
「コウスケ、どこ?」
お互い姿が見えないので、付いて行く、と言う事が出来ない。
「街を出るまで手を繋いで行こう」
そうコウスケが提案する。
「良いけど・・・どこ?こっち?」
「こっちだってッ!」
痺れを切らせたコウスケが手を伸ばした。
「キャッ!ど、どこ触ってんのよッ!」
怒っているエルネだが、コウスケの耳には入っていなかった。
(な、何だッ!?い、今の柔らかさはッッ!!)
コウスケはどこを触ったのか。
コウスケが固まっている内に、エルネがコウスケの手を探り当てた。
「・・・後でぶん殴るからねッ!さぁ、行くわよッ!」
そこで、現実に戻ってきたコウスケ。
「・・・事故だ。俺は悪く無い」
姿を消していた事もあって、楽々と屋敷を脱出した二人。
その足で、街も出ようと試みる。
城門の前まで来て、城門が閉まっている事に気付いた。
「どうする?一発行っとく?」
「ダメだろ。絶対気付かれるぞ?」
そんな事をすれば、詰めている兵士に気付かれる事だろう。
しかし、城門を開けても音で気付かれるだろう。そもそも、開け方を知らない。
「仕方ないな」
そう言って、城壁を見上げるコウスケ。
「えっ?」
エルネがそう言った瞬間、二人は城壁の上に立っていた。転移したのだ。
「やるなら言ってよッ!ビックリするじゃないッ!」
行きなりの転移に怒りだすエルネ。
「やるぞ」
「えっ?ちょ」
次の瞬間には、二人は城壁の向こう側、城門の前に立っていた。
エルネの手から怒りが伝わってきた。
「ちゃんと言ってから転移したからな?」
怖かったので先手を打った。
「あんなの意味無いわよッ!」
少し言い合いをした後、大事を取って街から走って離れ、馬車を出した。
街が見え無くなるまで離れて、夜営を張った。
落ち着いたところでエルネが切り出した。
「さぁ、教えてよ。この後の作戦を」
「それはな・・・」
そう言ってエルネに、この後の作戦を話すのだった。
ちなみに、エルネは宣言通りコウスケを思いきり殴り飛ばした。
(か、格闘マスタリーッ!?)
これが殴られたコウスケの感想だった。
 




