初指名依頼13
「マギル様っ!大変ですッ!」
首都にある王城の一室。
国の仕事を任された貴族達に与えられた部屋に、慌てた様子の兵士が駆け込んできた。
その部屋は位が高い者の部屋なのか個室の様で、中には書類仕事をしている男が一人。
兵士の言葉から、この男がマギルなのだろう。
マギルは書類から兵士へと視線を上げると
「どうした?騒々しい」
そう口を開いた。
マギルの言葉に小さく一礼した兵士は
「報告します。城門より数キロ離れた位置に敵兵を確認しました」
落ち着きを取り戻した様に口調を改めて言った。
その報告に、途端に視線を鋭いものへと変えたマギルは
「敵兵?前国王か!兵力は?」
そう聞き返す。
マギルの質問に
「数は二千程だそうです」
そう答える兵士。
「連れていった近衛隊よりも遥かに多いな?前国王では無いのか?」
兵士の答えを聞いたマギルはそう呟く。
しかし
「いえ。近衛隊の姿も確認されているとの事です。前国王陛下で間違い無いかと」
マギルの呟きを聞き逃さなかった兵士が答えた。
その言葉に、兵士に冷めた視線を送ったマギルは
「陛下は余計だ」
そう指摘する。
「ハッ!」
マギルの指摘に、今にも口に手を当てそうな表情で返事を返す兵士。
兜をつけて来なかった事を後悔しているだろう。
そんな様子の兵士をよそに、マギルは眉を寄せると
「近衛隊の姿が有るのなら前国王で間違いは無いが・・・どこかから兵力を借りて来たか?しかし態々戻ってくるとは。首を差し出しに来た様なものだな?」
と、又も独り言の様に呟く。
部屋の入り口で背筋を伸ばしその様子を見ていた兵士は、しばし瞬巡した後
「・・・どうされますか?」
指示をくれないマギルに指示を仰いだ。
兵士のその言葉で、思い出した様に目を向けたマギルは
「ん?そうだな?・・・軍から五千程兵を出して迎え撃て!」
そう指示を飛ばした。
その指示に
「ご、五千ですか?」
そう聞き返す兵士。
「何か問題でも?」
兵士が聞き返して来た事に、不満気に答えるマギル。
マギルの表情を見た兵士は怯えた様子で
「先の魔獣討伐で軍の兵数が減っておりまして・・・五千と言う数は現状のほぼ全てです。全兵を投入すると、軍が行っている城と街の警備の仕事に支障が・・・」
そう目を伏せ言った。
徐々に弱くなっていくその言葉は、最後までは言えず言い淀んで終わる。
兵士の言葉を聞いたマギルは、街が見える窓へと目を向けると
「城の警備は最低限で構わん。街の警備については、今は非常時だ。必要無いだろう」
そう言い、最後に鼻で小さく笑った。
そんなマギルの言葉に、思わず顔を顰めてしまう兵士。
窓へと視線を向けていたマギルだったが、目ざとく兵士の表情を横目で確認すると
「文句でもあるのか?」
威圧的に尋ねる。
「いえ・・・では、その様に伝えて参ります」
表情を引き締めそう答えた兵士は、一度頭を下げると部屋を出ていった。
この兵士は、戦闘時以外でも兜の有用性を痛感した事だろう。
報告に来た兵士が出ていった事で一人になったマギルは
「フン。事を起こしてからの時間を考えると、知らせを聞いて直ぐ様引き返して来たな・・・何も知らずに、アリシア王妃が心配で冷静さを欠いた様だな?もう少し出来ると思っていたがな・・・」
そう呟くと、椅子の背もたれに体を預けるのだった。
城門の前に大勢の兵士が整列している。
城から出てきた兵士の一団に、街の警備をしていた兵士が次々と合流しその数を増やしていく。
整列する兵士からは緊張が漂っていた。
そして、それを様々な表情で見ている街の人々。
これ程多くの兵士が出撃する理由を知らされていない街の人々の反応は様々だ。
「何だありゃ?また魔獣が出たのか?」
兵士の数を見てそう推察する者。
「スゴーイ!兵隊さんがこんなにイッパイ!」
「そうね?でも、お家に帰りましょうか」
そんな会話をした後、急いで立ち去る親子。
「・・・あのバカが何か仕出かしたんじゃねぇだろうな?」
そう顔を引き吊らせる商店店主。
「よしッ!!ようやく自慢のコレクションを使える日が来たッ!」
「何言ってるの?アナタはもう引退したただの年寄りでしょ?ホラ、向こうでそのコレクションでも眺めながらお酒でも飲んでらっしゃい?」
そう言って張り切る旦那と、それを家の中へと押し戻す妻。
街の人々がそんな反応を見せている間に、兵士達の準備が整う。
列から飛び出した一人の兵士が、兵士全体を見渡していた兵士の元へと駆け寄る。
「全員揃ったか?」
駆け寄って来た兵士に、そんな確認の言葉を投げる見渡していた兵士。
どうやらこの兵士が指揮を任されているらしい。
その質問に駆け寄って来た兵士は
「殆どの部隊は揃いました!ただ、城内を警備していた部隊の者が二名到着していないとの事です!」
そう報告する。
「そうか・・・まぁいないものは仕様が無い。後で処罰しておけ?あぁ、それと。あそこに兜を脇に抱えている者が居るだろう?被る様に言っておけ!大事な事だッ!!」
指揮を任されているらしい兵士はそう言った。
「はぁ・・・分かりました」
報告に来た兵士はそう返事を返し列へと戻っていく。
それを見送った指揮を任されているらしい兵士は、城門の方へと体を向けると一度兜の留め金を確認し
「出撃ッ!!」
そう声を上げた。
その声に連動する様に閉ざされていた城門が開き、整列していた兵士は行軍を開始した。
首都城門から数キロ離れた位置に、きらびやかな鎧に身を包み馬に跨がる者がいた。
鎧には王家の紋章が。
当然、その者の周りは王族近衛隊が守りを固めている。
更にその周りには二千近い兵士が布陣を終え、闘志を高めていた。
「ハァ・・・どうして僕がこんな役回りをしなくちゃいけないのさ?」
熱気を帯びるその空間でひとり、場違いな事を呟く者が。
「どんな事でも協力する。そう仰ったからで御座いましょう」
場違いな呟きに非難するでも無くそう答えたのは、その者の隣で馬に跨がる鎧姿の男。
その姿は酷く様になっていた。
「こんな物まで着せられて・・・これじゃあ僕が狙われるじゃないか!」
情けなくそう声を上げたのは、他でも無い王家の紋章が入った鎧を身に付けるその者だった。
その鎧は国王のみが身に付ける事を許された鎧。
つまりは、その鎧を身に付けている者は国王という事になる。
しかし、その国王からは情けない言葉が。
何人かの近衛隊兵士が、思わず兜を向ける程だった。
そんな気配を察知した、国王の隣で馬に跨がる兵士は
「発言にはお気を付け下さい。この事を知らされていない近衛の方もおいでです」
そう国王を嗜めた。
「分かってるけど・・・僕はこういうのが苦手なんだよ」
隣の兵士の言葉に、少し声を落として答える国王。
「ならば良い経験で御座います。いつか役に立つ事も御座いましょう」
国王の隣の兵士はそう言って鎧を揺らす。
そんな隣の兵士の様子に
「こんな経験が役に立つ状況には遭いたく無いよッ!・・・ハァ、不安しか無い」
ムッとした声で答えた後、そう呟いてため息と共に肩を落とした。
国王のそんな言葉に、兜を向けた隣の兵士は
「心配せずとも、坊っちゃまの計画では我々前国王軍が戦闘になる事は御座いません。ご安心下さい」
そう声を掛ける。
それを聞いた国王は
「・・・そうだよね?・・・うん。そうだよ!計画通りに行けば心配する事なんて無いよね?コウスケなら大丈夫だよね!」
そう僅かに明るい声を上げる。
しかし、それを聞いた隣の兵士は、国王へ向けていた兜を前方へと逸らすと
「計画通りに行けば、ですな。ただ、坊っちゃまはコロコロと計画を変える嫌いがある様ですので・・・もしもの時は私がお守りさせて頂きますのでご安心を」
そう言って腰の剣へと手を掛ける。
それを聞いた国王は空を見上げると
「・・・領主って大変な仕事だったんだね?辞めちゃおうかな・・・」
そう呟く。
しかし、隣の兵士は
「先代も良くそうボヤいておいででした。本当にお辞めになりたいのでしたら、その先代の様に後継者を御用意するのが宜しいかと。お世継ぎですな?」
そう答えた。
隣の兵士の言葉に、そちらへと兜を向けた国王は
「まだ結婚すらしてないのに・・・直ぐには辞められないのかぁ・・・」
そう呟くと再び肩を落とした。
そこへ、近衛隊から一人が近づいて来る。
その近衛隊兵士は、国王とその隣の兵士の元へと近づくと
「スワン伯爵に執事の方。私語は控えて下さい、お願いします」
そう小声で要求した。
二人は兜を見合わせると
「ご免なさい」「申し訳無い」
そう答えたのだった。
城内を歩く兵士が二人。
殆どの兵士に城門前へと召集命令が出されている中、この二人の兵士は会話をしながらどこかへと向かっていた。
「これ程までに動き難いものか?鎧という物は」
そう驚きの声を上げる兵士。
「仕方ねぇって言うか、こんなモンだろ?文句言うなよ!」
もう一方の兵士がそう答える。
「これは軽い物へと変更する必要が有りそうだな?」
鎧に驚いていた兵士がそんな事を口にして頷く。
それを聞いたもう一方の兵士は、兜をその兵士へと向けると
「オッサンが王様に戻れたら好きにすりゃ良いだろ?今はそんな事より魔方陣だ!本当に設置場所に思い当たる場所があんだろうな?」
面倒そうに答えた後、そう尋ねる。
「勿論だ。小さな魔方陣ならば流石に分からないが、あの執事の話ではかなりの大きさになるとの事。それならば場所は限られる」
尋ねられた兵士は、そう言って力強く頷いた。
「んで?どこに向かってんだ?」
再び尋ねる兵士。
「コウスケも行った事があるだろう?魔獣の体を出したあの場所だ」
尋ねられた兵士がそう答えれば
「あぁ、あそこか?ならさっさと行こうぜ?案内してくれ、オッサン!」
そう言って、答えた兵士に道を譲る兵士。
しかし、道を空けられた兵士は
「場所は知っておるだろ?」
そう言って立ち止まる。
問われた兵士は、兜の上から後頭部を掻くと
「あん時は付いてっただけだから道順は覚えてねぇよ?」
そう返した。
それを聞いた兵士は、黙って先頭を歩き出したのだった。




