馬車を引くもの
「へぇ~馬車にも色々あるのね?」
エルネがキョロキョロして言う。
「そうだな。沢山あるな」
コウスケもキョロキョロしながら言った。
馬車には貴族が乗っている様な箱型のもあれば、商人がよく使う荷馬車。その荷馬車に布等で屋根の様な物を付けた幌馬車など多くの種類がある。
「どれにするの?」
「うーん。迷うな」
「アレなんていいんじゃない?」
エルネが指差したのは白い幌馬車だった。
(どれでもいいか。どうせ俺が魔改造すればどれも一緒だ)
そう思い、
「よし!それにしよう」
「私が選んだのでいいの?」
「どれを選んでも一緒さ。後で俺が弄るから」
「あぁ・・・なるほど」
あの馬車がどうなるのか何となく想像出来たのか何とも言えない目で馬車を見た。
馬車のお金を払い終え、大きな買い物をした高揚感と共に歩いているとエルネが言った。
「それにしても意外だったわ。コウスケが馬の操縦とか世話が出来たなんて」
「・・・えっ?」
「えっ?」
「・・・出来ない」
「えっ?」
「・・・どっちも出来ない」
「!・・・どうするの?もう馬車買っちゃったよ?」
馬車を買っておいて馬の事を忘れていたらしい。
「どうしよ?すっかり忘れてた。・・・動物の世話とか俺自信ないわ」
「私も無理よ」
「・・・まぁ・・・どうにかするよ」
「・・・そうね。最悪コウスケが引けばいいものねっ」
カワイイ笑顔で恐ろしい事を言った。
「イヤイヤ奴隷が引くべきだろ」
可愛く言えば許されるってモンじゃないと言い返した。
「ヒドイッ!私をそんな風に扱うのねっ!」
「・・・まぁ冗談はこれくらいにして何か考えるから宿に戻ろう」
「今の間は何ッ?ねぇ。無いよね?ねっ?」
縋り付くエルネを引きずりながら宿に戻った。
~~
翌朝、宿の食堂でエルネと合流した。
エルネはやたらと「力弱いですよ」アピールをしてくる。鬱陶しい。
「心配しなくてもエルネに引かせたりしないよ」
「ホントッ?じゃあコウスケが引いてくれるのねっ」
「だから何でそうなる?」
「じゃあどうするの?馬買うの?」
まぁ普通はそうなるだろう。しかし、そこはコウスケ。
「何の為に昨日早く帰って来て、部屋に籠ってたと思ってるんだ?」
「頭抱えて泣いてるのかと思ってたよ」
「んな訳あるかッ!・・・作ってたんだよ。世話要らずの馬を」
「・・・トンデモないね?それで出来たの?」
「なんとかギリギリ一体だけどな」
「凄いじゃない!・・・あっでもあの幌馬車少し大きいから馬は二匹は要るんじゃない?」
「一体ありゃ後は同じ物を増やせる」
「あぁ・・・コウスケの便利な機能のひとつね?」
「人を物みたいに言うなッ」
問題が解決して安心したのか、冗談を言い合う余裕も出てきた。
「じゃあそろそろ行くか」
宿を引き払い、馬車を受け取りに向かった。
「あぁお客さん馬車の準備は出来てますよ」
店に着くと昨日対応してくれた店員がそう言って来た。
「・・・それで馬はどこです?」
辺りを見回す店員。
「馬は別の場所に。馬車だけ持っていきます」
「・・・馬も無しにどうやって?」
「魔法鞄がありますから」
そう言って魔法鞄の口を馬車に押し当てると、ドゥルンと馬車が吸い込まれた。
「なッ!?こんな事が!?」
店員は口を開けて固まっていた。その隙にそそくさと退散する。
街を出るため城門に向かっている途中で
「ねぇ?さっきのどうやったの?魔法鞄じゃあんな事出来ないよね?」
「馬車の事か?」
「そうよ!例え馬車が入る容量があったとしても、持ち上げないと魔法鞄には入れられないはずよ?」
その通りだ。魔法鞄に物を入れる時には、持ち上げて口まで持っていき最後に少し押し込む様な感覚が必要なのだ。
馬車を入れる事は不可能では無いが、先程コウスケがやった様に一人で行うなどまず無理である。
では、どうやったか?答えはこうである。
「あぁ。魔法鞄には入れてない、ボックスに入れたんだ。ボックスなら持ち上げなくても触れていれば吸い込んでくれるからな」
ボックスは魔法鞄の様に口を開いて手で直接入れる事も出来るが、今回の様に触れていれば吸い込む様に入れる事も出来るのである。
故に、大きな物や重い物も収納出来るのだ。完全に魔法鞄の上位互換なのである。
「ッ!!ボックスまで持ってるのッ?」
「あれっ?言って無かった?」
「聞いて無いわよッ!」
「小出しにするって言ったろ?」
「言い忘れてただけじゃないの?」
「・・・チガウヨ。カクシテタダケダヨ」
「・・・ハァ。もうコウスケが神様だって言ったって驚かないわ」
「俺があんなじいさんな訳無いだろ」
「・・・?」
(あっヤベッ!)
「・・・驚いちゃダメ。気にしちゃダメ。聞いちゃダメ」
何やらブツブツと唱えているエルネ。
「・・・よしっ!さぁ行きましょ」
どうやら聞かなかった事にする様だ。いずれしっかりバレそうな気もするが。
気が付けばもう城門の前だった。
「挨拶するの忘れたな」
「?・・・!あぁ怪しい人?」
(最後までその呼び方なんだな)
「あっしは怪しくなんかありやせんぜ」
「うおっ」「きゃっ」
「出発すると聞いて見送りでさ」
「心臓に悪いからソレやめろ」
「いやあっしは普通に・・・」
「まぁ世話になったな」
「こちらこそ旦那には稼がせてもらいやしたから」
「私も助けてもらって。ありがとね、怪しい人」
失礼である。
「・・・どうだ?一緒に来ないか?」
あの情報収集能力は役に立ちそうだと、誘ってみる。
「・・・あっしみたいなのを誘ってくれるんですかい?」
「揶揄う相手が増えるしな」
「旦那そりゃないですぜ・・・ありがとうございます。でもあっしは残ります」
「どうして?一緒に来ればいいじゃん。きっと楽しいよ?」
「ありがてぇ。嬢ちゃんまで・・・あっしはこの街で生まれてこの街で死ぬって決めてんでさぁ」
「そうか、残念だ。ならまた来るさ」
「そうだねっ!遊びに来るよ。元気でねっ」
「・・・ではまたご贔屓に」
そう言ってニヤリと笑い、去っていった。
最後まで相変わらずだった。
気持ちを切り替え城門を通り、人気の無い場所まで移動した。
「早くっ!早くっ」
エルネが急かしてくる。
「わかったよ・・・よっ」
コウスケがボックスから取り出したのは金属製の馬だった。
「おぉ~馬だッ」
続いて馬車も出す。さらに、【創造の産物】で馬を増やす。
二体の金属製の馬を馬車に繋げば完成だ。
「見た目は完璧に馬だねっ!でもこれちゃんと動くの?」
「まぁ見てろって」
そう言って御者席に座った。手綱を取り魔力を流す。
「あっ!動いたッ!スゴ~イ」
この馬はコウスケが徹夜で完成させた魔道具なのだ。
本物と見間違える程精巧に作ってあり、鉄製だ。各関節には内側に魔方陣が刻まれリアルに動く。
必要な魔力は御者が握る手綱から供給される仕組みだ。勿論スピード調整や左右に曲がる事も出来る。
付与魔法での強化も施してあり、普通の馬より疲れない分優秀である。
轍のある道まで出て馬車を止める。振り返り、商業都市ビーサスを仰ぎ見る。
しばらく眺めた後、前を向き馬車を走らせた。




