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小捕り物

「ヨシッ!取り敢えず顔は出しといたから、また数日はいいだろ?まだ少し掛かりそうな事言ってたしな?」


モン爺の工房を出たコウスケは、工房の外でそう呟いた。


そして


「昼過ぎか?今日はあと何すっかな?」


続けてそう呟く。


それを考える様に、しばしボーとしていると、不意にコウスケの黒目が上瞼の裏へと揺れる。


同時に頭を少しフラつかせたコウスケはたたらを踏む。


何とか踏み留まったコウスケは


「あっぶね!こりゃ‘寝る’一択だな?」


そう疲れた様な笑いを浮かべた。


目の下に浮かぶ隈の事を考えれば、当然の選択だろう。


そうしてコウスケは、来た道を戻り宿へと足を向けた。


程なくして宿へと着いたコウスケは、真っ直ぐに自分の部屋へと向かうとベッドへと倒れ込んだ。


ロイドがプレーヌスに残った事で、今はコウスケの一人部屋。


誰に気兼ねする事も無く、コウスケは睡魔に誘われる。



それから一時間も経たない頃。と言っても、深い眠りに落ちていたコウスケには、どれ程の時間が過ぎたのかは分からないだろうが。


何かの物音で薄目を開けるコウスケ。


壁を一枚挟んだ様なその音は、おそらく両隣、或は近くの部屋の物だろう。


暴れる、とまでは行かないが、子供が元気良く走り回っている様なその物音に、惰眠を邪魔されたコウスケは眉を寄せる。


しかし、その物音も少しして扉が開く音がした後は聞こえなくなった。


うつ伏せで眉を寄せていたコウスケは、静かになった事で表情を弛めると顔の向きを変え、再び目を閉じる。


それからしばらく、丁度コウスケが再び眠りに落ちるか?という所で、再び物音が。


今度は階下が騒がしくなっている様だった。


その騒がしさに、コウスケは再び眉を寄せるも、睡眠にしがみ付くつもりなのか、顔を枕へと押し付ける様に埋めた。


耳までも枕に埋めたコウスケは、そのまましばらくうつ伏せになっていたが、階下の喧騒はその枕を越え、コウスケの耳に届いていた様だ。


「マジ何なんだよッ!この時間に寝てるヤツがいねぇとでも思ってんのかッ?」


そんな悪態と共に体を起こしたコウスケは、気だるそうな表情と足取りで部屋の扉へと向かうと、その扉を開け廊下へと顔を覗かせる。


はっきりと覚醒し、尚且扉を開けた事で、階下の喧騒が一層大きく聞こえた。


下で一体何が起きているのか。コウスケはそう思ったのか、部屋を出ると下へと続く階段を降りた。


コウスケが下へ降りると、宿の従業員数人が何かを探す様にキョロキョロと首を振っている姿が見えた。


(探し物・・・探し人か?いや、それならあんなバタバタ煩くなんねぇか?なら、捕り物か?)


目に映る光景から、そう考えるコウスケだったが、一人で考えても埒が明かないと思ったのか


「何の騒ぎですか?煩くて寝られないんですけど」


近くに居た従業員に、そう尋ねた。


コウスケの言葉に振り向いた従業員は


「え?あっ、申し訳ないです。直ぐに捕まえて静かに致します!」


慌ててそう答えた。


「捕まえてって、野良猫でも入って来たんですか?」


従業員の説明で、捕り物である事を確信したコウスケは、再び尋ねる。


従業員が事に当たっている事から、盗賊や強盗の類いでは無いと当たりを付けるコウスケ。


ならば、犬や猫などの動物が迷い込んだのだろう。と考えての言葉だった。


しかし、帰ってきた言葉は


「いや、それが・・・私達も分からないんです」


そんな当惑した言葉だった。


「分からないって・・・そんな物捕まえようとして大丈夫なんですか?」


犬猫の類いならばそれで良いだろうが、それが何なのか分からないとなれば話は別だ。


魔物などだった場合は危険。


コウスケの言葉には、そんな意味も籠っていた。


「いやまぁ、分からないと言っても何か分からないだけで、危険と言う訳では無さそうなんですよ。現に逃げ回っているだけですし・・・」


コウスケの心配を正しく理解した従業員は、そう答えた。


「生き物なのは間違い無いんですよね?どんな生き物なんですか?」


興味本位なのか、或は捕獲を手伝おうと言うのか、コウスケは騒ぎの原因である生物の特徴を尋ねた。


「はい。生き物なのは間違いないです。見た目は、これくらいの大きさで、薄い黄色の丸い生物です。二本の足を見た同僚も居るようです。あと、これは確かな事かは分からないんですが、ピィと鋭く鳴いていたとか・・・何の動物か分かったりしませんか?」


コウスケの質問に、身振り手振りを交えて答える従業員。


それを聞いたコウスケは、言われた通りの生物を頭の中で想像し


(いやもう確定じゃん!絶対ピィちゃんじゃん・・・)


作り上げた想像図に頭を抱えた。


従業員が「これくらいの大きさで」と、手で大きさを表していた辺りで、予感があったのかコウスケは表情を歪めていた。


(うわぁ~面倒臭ぇ・・・ウチのペットですって言い辛っ!このまま放っといて夕食に出してもらおうか・・・ヤメロッ!エルネッ!そんな目で俺を見るなッ!!)


しばしの葛藤ののち


「あぁ~すいません。多分それ、ウチのペットです。何かすいません」


項垂れる様に、そう言葉にしたコウスケ。


それを聞いた従業員は


「えっ?困りますよ、ちゃんと見ていてもらわないと!」


と、責めるような声を上げ


「付いて来て下さいッ!」


そう言って、コウスケを何処かへと案内し始めた。


大人しく付いていくコウスケ。


どうやら宿に併設された食堂の厨房に向かっているようだ。


そこへ近付くにつれて


「そっちいるか?」


「いや、見えねぇ」


「だが追い詰めたの間違いねぇぞ?」


そんな声が聞こえてくる。


どうやら、食堂の厨房に追い詰めたらしい。


そんな場所へとたどり着いたコウスケと従業員。


「ウチの従業員に任せたら、どうなるか分かりませんよ?」


そんな従業員の言葉に押される様に、厨房へと踏み入るコウスケ。


侵入者を捕獲しようと構えていた従業員達には、一緒に来た従業員が説明していた。


顔を顰め頭を掻くコウスケ。


調理台の上に、仕込みでもしようとしていたのか無造作に置かれた生肉を見付け、それを手に取るコウスケ。


「オラ~出て来いピィ助。出て来ねぇと夜メシにされちまうぞぉ~?」


手にした生肉をユラユラと揺らし、そんな言葉を何処に隠れているかも分からないピィちゃんに投げ掛ける。


すると、コウスケから見て左側の棚の足元から


「ピィッ!」


という声がした。


コウスケは、そちらに体を向けると生肉も差し出す。


そして、再び声を掛けようと口を開いた。


しかし、その口から言葉が発せられる事は無かった。


代わりに


「グボエェッ」


と、言葉にならない音が発せられた。


コウスケが呼び掛けようと口を開いた瞬間に、ピィちゃんが物凄い早さでコウスケの腹に飛び込んで来たからだ。


仰向けに倒れるコウスケ。


その腹の上で楽しげに、ピィピィと鳴くピィちゃん。


一見すると、怯えていたペットが飼い主に見付けてもらい喜んでいる様に見えるが、コウスケには分かっていた。


腹の上で楽しげな様子のピィちゃんが、コウスケが手にしていた生肉を飲み込む瞬間を。


ピィちゃんはコウスケ目掛けて飛び出して来たのではなく、生肉を目掛けて飛び出して来ていたのだった。


しかし、遠巻きに見ていた従業員達はそんな事には気付かない。


困らされはしたものの、そんな二人を生暖かい微笑みと共に見ていた。


コウスケは、依然として腹の上で小躍りを続けるピィちゃんを、ワシッと文字通り鷲掴みにすると


「良かったな、ピィ助?もう少しで夜メシだったぞ?」


そう言ってニヤリと笑う。


そして、ギリギリとピィちゃんを鷲掴みにする手に力を込めていく。


コウスケの存在に気付き、自分がそのコウスケの腹の上に居て、更には締め上げられている、という事に漸く気付いたピィちゃんは


「ピッ?ピッ?ッ!?ビ、ビィ~・・・」


と、断末魔の悲鳴を上げた。


一応の満足を得たコウスケは立ち上がると、グッタリとしたピィちゃんを小脇に抱え


「お騒がせしてすいませんでした」


と、従業員達に頭を下げた。


「気を付けて下さいよ?でも、無事で何よりでしたね?フフッ、安心したんですかね、大人しくなってますよ?」


代表するように、コウスケを連れてきた従業員が答える。


そして、締め上げられグッタリした様子で小脇に抱えられるピィちゃんを指差し、そう言って笑った。


「そうみたいですね?余程安心したのか、気絶した様に寝ちゃいましたよ」


そう言って、コウスケも笑い返す。


再び従業員達に頭を下げたコウスケは、ピィちゃんを小脇に挟んだまま自室へと戻るのだった。


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