巨人の名を冠する金属
「見てほしいってのは、コレなんだけど」
そう言って、鞄を漁るコウスケ。
ようやく落ち着いたモン爺に対してだ。
因みに、昨夜エルネがどの様な手を使ったかは教えてはいない。
そのせいか、やや不貞腐れている様子のモン爺。
そんなモン爺の前に、コウスケは鞄から取り出した物を置く。
それはひとつのコップだった。
鈍い銀色をしたそのコップは、少し縦長で取っ手は無く、足元よりも飲み口の方がやや広い形状。
所謂、タンブラーと言われる物だった。
それを見たモン爺は
「人間にとっては酒を飲むのに丁度えぇ大きさじゃな?飲み口も薄く作られとる。まぁまぁの仕事っちゅうトコかの?・・・しかし、こんな銀食器を今更見せてどうしようちゅうんじゃ?」
不満が抜けきらないような表情で、そう言う。
しかし、確りと評価を口にするあたり、興味が無い訳でも無さそうだ。
「ちょっと持ってみてくれよ?」
そう言って、モン爺の前に置かれていたタンブラーを手にし差し出すコウスケ。
そんなコウスケに、怪訝な顔をしながらも差し出されたタンブラーを手にするモン爺。
タンブラーを手にしたモン爺は、直ぐ様違和感を感じた様に眉を寄せると、重さを確かめる様に数度上下に揺らす。
手にしたタンブラーをジッと見詰めたモン爺は、次に表面を指で何度か弾く。
コウスケには、音を聞いているように見えた。
再びタンブラーを見詰めたモン爺は
「こりゃあ・・・銀じゃねぇな?」
一言そう言って、コウスケを見た。
「分かんのか?」
短くそう返したコウスケに
「当たり前ぇだろ?まず、銀にしちゃ軽すぎる。あとは音も少し高いな。銀よりも堅い証拠だ」
そう言って、手にしていたタンブラーを置く。
「俺は詳しい事は知らんけど、それはチタンって名前の金属って事は知ってる。確か軽くて堅いって話だ」
コウスケは顎でタンブラーを指しながら、そう言った。
「チタン?聞いた事ねぇな?まぁ確かに軽いとは思ったが・・・」
そう言ったモン爺は、目の前に置かれたタンブラーを再度眺める。
「それで弓作ってみてくんねぇか?その軽さなら曲がったりしねぇ様に作っても、重くなったりしねぇだろ?」
食い入る様にタンブラーを眺めるモン爺に、少し覗き込む様にして尋ねるコウスケ。
しかしモン爺は
「それはコイツの堅さによるだろ?堅過ぎても柔らか過ぎてもいけねぇ。試して見ねぇと分かんねぇぞ?」
視線はタンブラーから離さず言った。
言葉には面倒臭さが滲んでいる様に感じたが、その目には好奇心が溢れている事にコウスケは気付いていた。
「まぁ、それは任せるよ」
モン爺が食い付いた確信を持ったコウスケは、そう言ってニヤリと笑う。
続けて
「どれくらい必要になりそう?」
そう尋ねた。
その言葉にモン爺は
「扱った事のねぇ金属だからなぁ・・・特性やら何やら調べるっちゅう事なら、2、300は欲しいトコだの。用意出来るか?」
ようやく顔を上げ、そう言った。
「分かった。用意するよ」
こうして、チタンを使った弓作りをモン爺に頼む事に成功したコウスケだった。
直ぐにモン爺が言った数を[創造の産物]で揃えたコウスケは、それを積み上げるとこの日は工房を後にするのだった。
コウスケはモン爺の言葉から、弓製作にはそれなりの時間が掛かると考え、何やら自分の作業に没頭し始める。
ミランダはエルネと依頼を熟し、そのエルネは、昼は依頼、夜は飲み歩き、とゴリゴリの冒険者の様な生活を送るのだった。
四日後。
太陽が真上に差し掛かった頃、酷く隈を作ったコウスケが宿から出てくる。
眠そうではあるが、気持ち良さそうに体を伸ばしていた。
「アァ~~・・・流石に気持ち良いな。まさか四日も経っているとは」
そう、誰に言うでも無く呟くコウスケ。
そうして、何処かへと歩き始めた。
方向からして、工房・モンブラントへと向かっている様だ。
しばらく歩き工房へと着いたコウスケは、慣れた様子で裏へと回る。
そこで見慣れた背中を見つけたコウスケは
「ウィ~ス。その後どんな感じッスか?」
と、軽い調子で言葉を掛ける。
そんな言葉を掛けられた背中は、その言葉でクルリと振り向いた。
当然その背中はモン爺の物なのだが、振り向いたモン爺を見たコウスケは
「うおッ!?・・・どうした、モン爺?」
そう声を上げ、驚いていた。
「ん?おぉ、コウスケか?厄介な仕事を頼みっぱなしで、何日も顔を見せんと思っとったら、そんな隈作って現れおって・・・オメェも何か作っとったな?」
モン爺の顔を見て驚くコウスケに、そう言ってニヤリと笑うモン爺。
「いや、その通りだけどよ・・・それ言うならモン爺も相当だぞ?もうちょっと自分の歳考えろよ」
呆れた表情でそう言うコウスケ。
モン爺の目の下には、コウスケに負けず劣らずの隈が確りと浮かんでいた。
モン爺はどう見ても年寄りだ。
その年寄りが、隈が出来るほど無理をしている。
そう感じたコウスケは、自分の事は棚に上げ、モン爺に対し呆れると同時に心配もした。
コウスケが驚いたのは、それが理由だったのだ。
しかしモン爺は
「こんな厄介な物持ち込んだのはオメェだろうが?」
そう返すモン爺。
しかし、その表情は明らかに楽しそうなものだった。
それには更に呆れるコウスケ。
そして、言っても無駄だと思ったのか
「まぁ程々にしろよ?・・・んで?そんなに厄介なのか?」
話題を変える様に、そう言ったコウスケ。
「厄介も厄介。こんな厄介な代物、見た事も聞いた事もない。普通に溶かして塊にしてやろうと思ったんじゃが、温度を上げても溶けねぇわ、途中で色が変わって上手くいかねぇわで手を焼かされたんじゃ」
そう答えるモン爺。
それを聞いたコウスケは
「え~と・・・よく分かんねぇけど、それは加工出来ねぇって事?」
そう、不安そうに尋ねる。
しかしモン爺は
「ワシを誰じゃと思っとる!普段使う事の無い様な温度まで上げてやったらちゃんと溶けた。色が変わったのも、他のモンとくっついてしもうたんじゃないかと思って、ウチの魔法鍛冶師引っ張って来てやってみたら上手くいった。時間は掛かっとるが問題無い」
そう捲し立てると、不満げに鼻をひとつ鳴らした。
そんなモン爺の勢いに
「お、おう。そ、そうか・・・あ、安心したよ」
そう詰まりながら答えるコウスケ。
そして、何かを探す様に辺りを見渡すと
「その魔法鍛冶師ってのはどこだ?モン爺に付き合わされて苦労したろ?お礼に酒でもって思ってんだけど」
そう言ってモン爺を見るコウスケ。
すると、モン爺は
「ソイツならそこに転がっとるわい」
そう言って、コウスケの背後を顎で指す。
コウスケがその先を目で追うと、棚の影から足が二本横たわる様に生えていた。
「まぁ今は、礼の為に起こされるよりも、ソッとしといて欲しいじゃろうがの」
足を確認し「うわぁ」と声を漏らしたコウスケにそう言って、ガハガハと笑うモン爺。
コウスケもそれが良いと思ったのか、数度頷きながらモン爺に顔を戻した。
「人使いが荒いんじゃねぇか?」
モン爺へと顔を戻したコウスケが、苦笑いを浮かべながら言う。
しかしモン爺は
「何言うとる!倍近い歳のワシが、こうしてピンピンしとるんじゃ!若いモンには、屁でもないじゃろ?」
そう言って、眉を顰めた。
「・・・ブラックだなぁ~」
コウスケは、再び背後を振り向くと、そう呟いた。
そして、棚の影から生える二本の足に手を合わせた後
「じゃあ、一応は順調なんだな?追加の素材とかは要らね?足りてんのか?」
モン爺に向き直り、そう尋ねる。
モン爺は少し考えると
「そうじゃな・・・上手く行けば足りん事もないが、初めの方で大分ダメにしてしもうたからな?予備にもう少し有ると安心。と言ったところかの?」
顎髭を扱きながら、そう言った。
コウスケは
「了解!じゃあどこに置いとく?邪魔にならねぇトコ教えてくれ」
そう返した。
モン爺は
「素材や材料置き場は、コウスケの後ろじゃ」
そうコウスケに指示を出した。
コウスケは指定された場所に、鞄から大量のタンブラーを放出した。
硬質な金属が転がる音が響く中、コウスケの足元から「グェッ」と言う音が聞こえる。
その音に一度首を捻るコウスケだったが、空耳とでも思ったのかタンブラーの放出を続ける。
タンブラーを出し切ったコウスケは、モン爺に向き直ると
「んじゃ!任せたっ!」
そう言って、工房を出て行った。
そんなコウスケの背中を見送ったモン爺は
「・・・なにも、休んどるヤツの上に出してかんでもえぇじゃろ」
そう言って、コウスケが山積みにしていったタンブラーを見る。
その山の麓には、先程よりも大分見える部分が少なくなり、今では足首より先しか見えなくなっている二本の足があった。
しばらくその足を眺めていたモン爺だったが
「・・・まぁアレなら、しばらくは誰にも起こされずに休めるじゃろ?」
そう呟いて、仕事に戻るのだった。




