『そしてオレは全てを手に入れた』謎の女と全てを失ったオレ
『そしてオレは全てを手に入れた』謎の女と全てを失ったオレ
チュン、チュン、チュ? チュチュチュ、チュンチュン……。
朝。
オレは本宅で目を覚ますと、あと5分で仕事を始める目覚ましの存在意義を奪い立ち上がる。
変な女だったな。一体何者だったんだろう。
そこまで考えた所でみーか以外の女が朝一で頭の中に浮かんでくるなどと後悔し寝室を後にした。
だが。
「やあ、はじるし待っていたよ」
学校の門のところにあの女はいた。
再びオレの前に現れた女はまた馴れ馴れしくオレにそう声を掛ける。
「お前は……」
一体誰なんだ?
何故二度もオレの前に姿を表した?
オレは、この女と一体どういう関係なんだ?
「んー? 私先に行っていようか?」
何かを察して気を遣ってみーかが記憶を探るオレに声を掛けた。
そうだ、オレにはみーかがいればそれでいい。
オレの朝の幸せな一時を何人にも邪魔されてなる物か。
「いや、いい」
だからオレはみーかの提案を却下し、目の前の女を追い払おうと次の言葉を放とうとするが、おんなが先に口を開いた。
「昨日の夜は突然すまなかったね。まずはその事を謝ろうとおもって待ち伏せを?」
「夜?」
ああおい、何てこといいやがる。
それを知られる分けにはならんのだ。
「あー、彼女はな……」
「おっと失礼。勘違いさせてしまったかな? 私も彼の元で働く者の一人で、お客様でもある。今日は彼に転生させてもらう予定がはいっているからね」
まあ、勘違いも何もあったもんじゃあないのだが。
女がオレとみーかの関係を壊しにきたわけでないことに安堵した。
「では、そういうわけだから私はこれで」
女はそれだけ言ってそれだけ言い残すと女は去っていった。
そして、学校が終わると三度オレの前に女が姿を表した。
この女も例に漏れず美形だがオレはこの女に言い知れぬ不安を覚えいつもとは違って淡々と転生に対する説明を行った。
そして。
がちっ。
女は突然オレの唇を奪う、いささか勢いがあったために歯と歯がぶつかり音を立てた。
「……っ! 何しやがる!」
「愛する者に口付けを。お嫌でした?」
「お前はどんな姿になりたいんだ?」
「んー。取り合えず、はじるしの様に」
「そうかよ」
なんの冗談かは知らないがこれ以上こいつといたくない。
オレはそう思って、女のイメージにオレのイメージをあてててやる。
「少し、サービスして格好良くしちゃおうかな」
どこまでこいつはオレを……。
女はそれだけ言うとオレのイメージをいじくり始める。
顔の歪みを少し整え全体的なバランスをほんの少し変える。
それだけでオレの顔は見られるようになる。いや寧ろこれはイケメンの部類に入るのではなかろうか。
が、直ぐにオレは考えを改める。
この女の操作に無駄が無かっただけで、オレの顔が実はそれ程酷くはないという話ではないのだと。
ん?
この女の操作に無駄が無い?
この女は初めてイメージを操作したのに?
「よし、これで完成」
「それじゃあ、転生するぞ」
オレはもはや一刻も早くこの女と早く離れたい。
その一心で話を進めようとするのだがこの女はそれを理解しオレを弄ぶようにオレに問いかける。
「はじるしは今幸せ?」
「ああ」
「なにもかも失ってしまったら不幸?」
「なにもかも失って不幸じゃない奴はいないだろうよ」
いや、人は死ぬときなにもかも失うのだからこれは間違いか?
この女はオレに死ねといっているのか?
だったら早くオレはこの女を……。
「彼女がいても?」
そういって女はみーかを指差す。
みーかは女に突然話を振られたために珍しく少し驚いて見せるが直ぐいつもの表情に戻った。
「私はね。君が考えてる様に君を消しに来たんだ」
そういって女はグリモワールから剣を抜く。
「なんだよそれ」
「自分の行いに対するケジメかな?」
そっちじゃない。
それも気になるがなぜお前はオレのグリモワールから剣を抜く?
そもそも、なぜグリモワールがそこにあるんだ?
こいつはやばい。
オレの本能が幾度となくオレにこいつはヤバいと警告してきたのはこのせいか。
オレは転送を早口で終わらせることにする。
「設置、解錠、開放、迎合、「転生」はぁっ?」
オレの呟きに女が割り込んできた。
しかも、現れた扉が招くのはこの女では無くオレ。
「言っただろう。私は君を消しに来たんだ。でも、君には死んで欲しくないからこうするしかなかった」
驚くオレに対し、女はどこか物悲しそうな表情をしてそんな事を言う。
消しに来たというのは分かったが何故消しに来たのかが分からない。
いや、オレは何をいっているんだ?
オレを消したいやつなんていくらでもいたじゃないか……。
「早口じゃなくて、短縮して転送だけ行えば良かったのに君は女には甘いよね」
みーか以外の女がどうなろうとオレの知った事じゃない。
みーかの前でそんな事をしたくなかっただけの話だ。
オレは引き寄せる扉の力に抗うが少し、また少しと扉に近づいていく。
「はじるし!」
そんなオレの腕をみーかが掴む。
「みーか……」
しかし、扉の力にどれだけ抗おうと一度転生が発動すれば逃れる事は出来ない。
事に業を煮やしたのか女が口を開く。
「私のまえでいつまでそうしているつもりなんだい?」
女はそれだけ言うとみーかに対して剣を向ける。
「みーか放せ! あの女がお前をねらっている!」
「だめだよ! 私まだはじるしにちゃんと言えてない!」
言いたいことってなんだ?
それどころじゃないだろう。
オレは、みーかの掴む利き腕を諦め。
それとは逆の手で背中のホルスターに手をかけそれを引き抜く。
そして、女にむかって構えるが。
ざくっ……。
女の剣が先みーかの腹を貫く。
「お前ええええ!!」
オレは叫ぶ。
叫ぶことしか出来ない。
女はそれだけするともう事はすんだと言わんがばかりに剣をグリモワールに納めると、何もいわず、じっとこちらを見ているだけだった。
だからオレは、手にとった銃を捨ててみーかの傷を抑える。
「くそっ、みーか!」
「はじるし、わたしは。はじるしを愛している……。はじるしがとても大切なんだ……」
「それはオレも同じだ」
「うん、しっている……。でも、言えなかった。私が言っても多分はじるしのこころには届かないから……。私はずっと昔からはじるしの事が好きだった。お金も能力も権力もないただブサイクなはじるしを私がずっと好きだった……」
「みーか……」
おれは、全てを手に入れていたのか。
「何をやってるんだい。はじるし。これだけお膳だてしてあげたんだからさっさと彼女を転生させなよ。私は君から全てを奪う、でも君は彼女がいれば君はそれだけで十分だろう?」
転生させれば良い事など端からわかっていた。
しかし、そこにみーかの気持ちがなければオレのわがままになってしまう。
だから、オレはしなかったのだ。
だが、今ならもういいだろう。
しかし、この女はーー。
「転生……」
オレをつかむみーかにも力が働いたためあっさりとオレたちは扉の中へと放り込まれる。
「ごめんね少しやりすぎちゃって怒られた。だからこれでお終いにしなくてはならなかったんだ」
既にこちら側は異世界だオレの耳に届くはずが無い。
しかし、あいつはそういったはずだ。
オレの耳にはそう聞こえたのだ。
そしてあいつは手にもったグリモワールの中に……。
はっ?
消えた?
彼女は一体……。
だが、それを考える時間は残ってはおらず、オレとみーかは決して手をはなす事はなく異世界が待つであろう闇の中に落ちていったーー。