第三百三十六話 お買い物
「さて……そろそろ行くぞ」
レイは半ばウンザリした気分で、ため息を吐きながら歩き出した。
作戦前の買い出しに行きたいのに、ティアラとトワがこちらの手を引っ張りごねたからだ。
「ねぇ!買い出しなんか後にして観光しようよ!」
「そうよ!トワちゃんにカワイイお洋服買ってあげるんだから!」
「……二人で行ったらどうだ?買い出しは自分がやるから……」
「ヤ~ダ~!」「ダ~メ~!」
大きな子供が二人。
完全に駄々っ子だ。
完璧に同調した地団駄は、遺伝子レベルの繋がりをヒシヒシと感じさせる。
……周囲の冷たい視線が痛い。
きっと他人には自分が悪者に見えているのだろう。
レイは再び、特大級のため息を吐いた。
「ブティックでいいか?……それからアクセサリーショップにも寄るか?」
「エッ!いいの?」
「どうせ拒否権は無いのだろう?今回は自分がプレゼントしよう」
「エッ!ホント!」
「ティオに任せると天文学的な額になりかねない」
「むぅ……何よ!人を浪費家みたいに!」
「君は金銭感覚がずれているからな。この前なんか、カワイイという理由だけで十万オルディオ(一般人の生活費千日分)のワンピースを……」
「わぁあああああああ!トワちゃんの前で余計な事言わないでよ!」
レイがため息混じりで暴露すると、ティアラがあたふたとこちらの口を塞ぐ。
浪費家の暴君と思われたくないのだろう。
尤も彼女が浪費をするのは洋服と本とお菓子くらいで、それも彼女に割り当てられた公費を超えない範囲だ。
一定の節度を持っていて、且つ城下にお金を落として経済に貢献もしているので、問題にはならない。
そんな実情を知らないトワは呆れ顔を浮かべているが……
「ティオお姉ちゃんの金銭感覚が狂っているのは、この際置いておくとして、お兄さん、お金あるの?」
「これでも一応国の重役だ。それなりに蓄えはある」
「どのくらい?」
「聞いてどうする?」
「別に……やましい事とかは……」
他人の財布の中身を探ろうとする悪い子が、口笛を吹きながら目を逸らす。
これは人をATM扱いしようとしている人間の反応だ。
トワには絶対に自分の経済状況を教えないと心に誓った。
因みにレイの個人資産はおよそ三億オルディオ。
収入源は国からの給与に加え、魔道具の売り上げ及び出版物の印税だ。
元々グリセリアには印刷技術があったが、レイが作った魔道具のおかげで、更に安価に大量印刷ができるようになった。
閑話休題。
レイは財布の中身(一万オルディオほど)を確認しながら、近場のブティックへと歩を進めた。
「いらっしゃいませ。お客様」
「本日はどのようなお召し物をご所望でしょうか?」
ブティックの重厚な扉を開いた直後、燕尾服姿の紳士と紺のフォーマルなスーツ姿のマダムがレイ達を迎えた。
シックで落ち着きと高級感溢れる洗練された店内。
控えめな魔道具のランプに照らされた煌びやかな洋服の数々。
レイは場違いな雰囲気に浮足立ちながら、トワとティアラの方へと目を泳がせた。
視線の先にはレイと同じくソワソワするトワ。
一方、ティアラは……
「今日はこの子のお洋服を。動きやすくて、普段使いできて、可愛らしい物をお願い」
普段通り、余裕の表情で店員と対応。
流石は女王陛下。
この程度の高級店ならコンビニと同じ感じなのだろう。
「畏まりました。さぁ、お嬢様。こちらへ」
「えっ?あっ……うん」
ティアラの要望に応えて、笑顔のマダムがトワの手を引き、店舗の奥へと進む。
手を引かれるトワは少し困惑顔だ。
助けを求めるような視線をこちらに投げるが、どうしてやることもできない。
何故なら……
「さぁ、ワタシもトワちゃんのお洋服を選んで上げなくっちゃ……じゅるり」
ティアラが涎を垂らし、手をワキワキさせながら、猛禽のような目つきでトワに熱視線を送っていたからだ。
どうか、無力な自分を許して欲しい。
レイはこれからお姫様の着せ替え人形と化すトワの健闘を祈り、心の中で合掌した。
「さぁ、お客様。女性の事は女性に任せて、我々は別室でゆらりとお待ちしましょう」
レイは老紳士の申し出に素直に頷いた。
女性の買い物は長いと相場が決まっているから。




