4 今日こそは……
莉子の決意。
前回の"泊まり"から数日後。
莉子はそろそろ"来る"頃合いだろう、と身構えていた。
「……今日は、無理だから」
朝の、というか"いつもの"合流地点でもある、
最寄り駅近くに位置するチェーンのカフェ。
窓から外が見える、言い換えれば外から丸見えのカウンター席で隣り合い、二人は同じ名前のラテを啜っていた。
「……何か用事でもあるんですか?」
カップから口を離し、綾音が試すように尋ねた。
「……別に、何も」
嘘が通用しないことはわかっていた。
彼女は何故かいつも、莉子の心中を見透かしていた。
「……イヤってことですか?」
綾音は肘を着きながら、普段よりも少し低い声で訊いた。
捉え方によっては、脅しているようにも見えなくはない。
莉子は莉子で、真正面を見ながらカップを啜り。
……というか、目を合わせられなくて。
「そうよ。
……もう、家に来ないでくれる」
言った。
言ってやった。
「……そう、ですか。
……わかりました」
綾音は意外にもすんなり要求を聞き入れ、それ以上何を言って来ることもなく。
莉子は鼓動の高まりを抑えられず、しかしそれをやり遂げた達成感に湧いていた。
◇
その日は結局、部活動中もろくに会話を交わさなかった。
それでも綾音は、莉子が着替え終えるまで更衣室の前で待っていて。
気付けばいつものように、二人並んで帰路を歩いていた。
「じゃあ、また明日」
いつものバス停で別れを告げると、綾音は嫌そうに吐き捨てた。
「……なんか嬉しそうですね、先輩」
「……そう?」
ただ、安心しているだけ。
莉子は"呪縛"から開放されたおかげか、幾分表情が柔らかになっていた。
(……もっと早く、言えばよかったかな)
やがてバスが近付き、莉子が離れようとしたその時。
黙って俯いていた綾音が、意を決したように切り出した。
「……あの、大事な話があるんですけど。
本当に大事な。だから家の前まで……ダメですか?」
「…………無理」
「……家の外で話しますから」
綾音は、いつになく真剣な顔をしていて。
(……これって……もしかして……)
後輩の突然の申し出に、莉子は"何か"を察し。
……まあ、それなら、とため息を吐いた。
「……わかったわよ」
「……感謝します」
綾音は嬉しそうに、ホッとしたように頭を下げた。
――今日で"ケリ"をつける。
莉子は一人、悟られないように意気込み。
それから二人はまたいつものように、帰りのバスに乗り込んだ。