表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4 今日こそは……

莉子の決意。

 前回の"泊まり"から数日後。

 莉子はそろそろ"来る"頃合いだろう、と身構えていた。


「……今日は、無理だから」


 朝の、というか"いつもの"合流地点でもある、

 最寄り駅近くに位置するチェーンのカフェ。


 窓から外が見える、言い換えれば外から丸見えのカウンター席で隣り合い、二人は同じ名前のラテを啜っていた。


「……何か用事でもあるんですか?」


 カップから口を離し、綾音が試すように尋ねた。


「……別に、何も」


 嘘が通用しないことはわかっていた。

 彼女は何故かいつも、莉子の心中を見透かしていた。


「……イヤってことですか?」


 綾音は肘を着きながら、普段よりも少し低い声で訊いた。

 捉え方によっては、脅しているようにも見えなくはない。


 莉子は莉子で、真正面を見ながらカップを啜り。


 ……というか、目を合わせられなくて。


「そうよ。

……もう、家に来ないでくれる」


 言った。

 言ってやった。


「……そう、ですか。

……わかりました」


 綾音は意外にもすんなり要求を聞き入れ、それ以上何を言って来ることもなく。


 莉子は鼓動の高まりを抑えられず、しかしそれをやり遂げた達成感に湧いていた。





 その日は結局、部活動中もろくに会話を交わさなかった。


 それでも綾音は、莉子が着替え終えるまで更衣室の前で待っていて。

 気付けばいつものように、二人並んで帰路を歩いていた。


「じゃあ、また明日」


 いつものバス停で別れを告げると、綾音は嫌そうに吐き捨てた。


「……なんか嬉しそうですね、先輩」


「……そう?」


 ただ、安心しているだけ。

 莉子は"呪縛"から開放されたおかげか、幾分表情が柔らかになっていた。


(……もっと早く、言えばよかったかな)


 やがてバスが近付き、莉子が離れようとしたその時。

 黙って俯いていた綾音が、意を決したように切り出した。


「……あの、大事な話があるんですけど。

本当に大事な。だから家の前まで……ダメですか?」


「…………無理」


「……家の外で話しますから」


 綾音は、いつになく真剣な顔をしていて。


(……これって……もしかして……)


 後輩の突然の申し出に、莉子は"何か"を察し。


 ……まあ、それなら、とため息を吐いた。


「……わかったわよ」


「……感謝します」


 綾音は嬉しそうに、ホッとしたように頭を下げた。



 ――今日で"ケリ"をつける。



 莉子は一人、悟られないように意気込み。


 それから二人はまたいつものように、帰りのバスに乗り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ