5 絶好の機会
綾音の企み。
「……で、何」
綾音は結局、家の前……というか玄関前まで来ていて。
本当に大事な話だから、と何度も懇願され、その度に莉子は渋々承諾してしまった。
「何となく予想は付いてるから。手短にお願いね」
実は今までも、他の相手からこの手の申し出を受けたことはある。
だから何となく、雰囲気でわかる。
しかしそれはつまり、この関係を完全に終わらせる絶好の機会でもあった。
もう、今までのような"恋人ごっこ"は終わらせる。
この子とは、それっきり。
……いつでも来い。
莉子は相手の出方を窺い、ただ一つの返答を頭に浮かべながらそれを待っていた。
――しかし。
「……先輩、チョロすぎるでしょ」
綾音はそう言い、薄ら笑いを浮かべた。
◇
「……倉橋?」
「綾音」
「……は?」
「私に逆らった"罰"ですよ。
これからは名前で呼ぶように」
綾音は急に"あの顔"になった。
行為の最中にだけ見せる、莉子が逆らえないあの目付きに。
豹変した彼女に一瞬だけ怯んだが、すぐに平常心を取り戻し。
莉子はもう、後輩に怯える気なんて更々なかった。
「ふざけないで。早く要件を……」
「……先輩ホント、バカですね~」
最早本性を隠そうともしない綾音が、呆れるように笑い。
莉子は胸騒ぎがして、しかしそれの見当も付かずに困惑していた。
「……警察に突き出すわよ」
担いでいた竹刀に手を回し、牽制しようとしたその時。
「……あんた、とっくに負けてんだよ」
――綾音は"それ"を見せ付けた。
「これなーんだ」
彼女のスマホには、"何か"の写真が映し出されていて。
莉子は黙ってスマホを受け取り、やがてそれが何であるかを理解し青ざめた。
――綾音が企んでいたのは。
恋人になってほしいという旨の告白などではなかった。




