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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
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 ピクチャー協会支部は思ったより厳重で、建物を覆う塀の正門には守衛が立っていた。デイジーは、協会から離れた場所にある、木立によじ登ると葉の陰に隠れ、協会支部の敷地を見渡す。

 禁術で飛躍した視力は、数キロ以上離れたものも、目を凝らせばハッキリと視認することが出来る。どうやら敷地に二つある建物の右側が、協会員達の宿舎らしい。

 ぼんやりと支部の建物を眺めていると、別館三階にある一室の窓が開き、少女が顔をのぞかせた。

 デイジーの身体中に、電撃が走る。

「……ユリ」

 すぐに彼女だと分かった。だが何より驚いたのは、彼女が五年前より遥かに美しく成長していたことだ。

 ——同時にユリを美しいと感じている、自分の感情にも戸惑う。

 孤児院で彼女と過ごしていた時、ユリに対して「綺麗だ」とか「可愛い」などといった目で見たことは無かった。今、自分に湧き上がっている情動は一体何なのだろう。

 その時、腹部からカエルの様な鳴き声が聞こえる。

「お腹空いたな……」

 彼は樹木から降り立ち、街の方角へ歩き出した。多分に漏れず、この島にも戦火は飛び散っているらしく、街の各所で爆撃を受けた建造物が目につく。

 デイジーは、建物の修繕工事をしている大工職人に、仕事はないかと尋ねると、そこの棟梁はすぐに俺を雇ってくれた。終戦のムードが広がりつつある時勢だが、現場は人手が圧倒的に足りないらしく、身元や経歴など詮索されることなく、住み込みで働かせてもらえることになった。

「お前、ヒョロな割に、とんでもねぇ怪力だな」

 親方は俺の働きぶりに、驚きを隠せない様子だった。それも禁術の賜物であるが、余り多用は出来ない。リスクが比較的、低い技とはいえ文字通り命を削るのだから。

 だが、これでしばらくユリの様子を見ながら、島に居続けることが出来ると思うだけで、彼は嬉しかった。仕事が終わった後、デイジーは毎日のように木立を登り、ユリは居ないかと協会の敷地を見渡す。

 我ながらストーカーのようだなと思う。

 ある夜、宿舎の簡易ベッドに寝そべりながら、俺は読書をしていた。いっそ守衛に事情を話して彼女と会わせてもらう様、打診しようかとも考えたがやめた。 再会した時、彼女がどんな反応をするか怖かったからだ。

「根性無し……」

 月明かりに、ほんのり照らされた部屋の天井を仰ぎながら、デイジーは自虐する。遠目から見ていて俺が感じた印象は、ユリはあのピクチャー協会で、思いのほか楽しそうに過ごしているという事だった。

「ユリは……俺が守ってやるって言ったこと、まだ覚えているかな……」

 虚空に向かってデイジーが声を発した時、外で大きな爆発音が聞こえた。驚いてベッドから飛び起きり、寮の外に出る。近くの民家が爆発で崩れ落ち、火煙が立ち昇っていた。上空を、複数の戦闘機が轟音を立てながら飛び去っていく。

「おい、兄ちゃん。空襲だ!早く逃げるぞ」

 親方がデイジーに向かって叫んでいる。街中の人間がパニックを起こしていた。

「俺は大丈夫です。みんなで早く安全な場所に避難してください!」

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