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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
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 別館はユリ達が授業を受けていた、本館の西側に建てられていた。

 三階建てで、一階は食堂や男女別のトイレ、浴場、また娯楽室ごらくしつや図書館などがあり、二階は男子寮生専用の個室、三階は女子寮生専用の個室といった造りになっている。

 ユリは本館から別館に続く連絡通路を歩きながら、すれ違う生徒達と笑顔で挨拶あいさつし、一階の食堂へやって来た。

 彼女が食堂に入ると、調理場でエプロンを着た少女が、大きな鍋に入り蒸気じょうきを上げながらえているお味噌汁みそしるを、お玉でかき混ぜている。

 調理は当番制で、生徒たちが交代で、食事を作ることになっていた。

 調理場にいる三人のうち、メガネをかけた少女が、食堂に来ている生徒達のトレーに、定食を次々と配っている。

 ユリもプラスチックのトレーを手に取り、少女の前に立った。

「こんにちわ、カスミ。いい匂いですね」

 メガネを湯気でくもらせながら、カスミが視線を上げた。

「ユリやん!今日は腕によりをかけたさけ定食やで。お味噌汁も昆布こんぶだし使ったんよ」

 花宮カスミはユリの祖国でもある、日本からの移住者だ。

「ユリ、そういや十四時から認定試験の結果通知やんな!うちも、すぐ行くから先に食べ始めといて」

 カオリはユリのトレーに鮭の塩焼き、サラダを盛った食器とお味噌汁が入ったうつわを乗せた。

「はい。待ってますね」

 ユリは料理を受け取ると、食堂のテーブルを見渡す。

 数名の生徒たちが食事をしている中で、栗毛くりげの男子がこちらに向かって手を振っている。

 彼女が近づいていくと、彼は親しげに喋りかけてきた。

「よう、ユリ。授業お疲れさん」

 彼の座っているテーブル正面の椅子に、黒髪の小柄な少年が座っている。

「ローランド、トオル。こんにちわ」

 喜色満面きしょくまんめんにあふれたユリは、二人に声を掛けるとローランドの横に座った。

 ローランド・ルーカスと黒川トオルもユリやアンナ、カスミと同期の生徒だ。

「あー。今日の中級認定試験の発表、ドキドキする。なぁ、トオル」

 ローランドが、正面に座っているトオルに話しかける。

 トオルは頷きながら、お味噌汁を音も立てずに飲み干した。

「みんなで昇進出来たら、私はとても嬉しいです」

 ユリは両手を合わせ、目を閉じて何やらお祈りをし始める。

「ユリは相変わらず礼儀正しいな」

 ローランドは、ユリの様子を見ながら呟いた。ユリはなおも祈りに集中し続け、彼の言葉が耳に入っていない様子だ。

 その時カスミが、エプロンと髪落ち防止用の透明キャップを外しながら、ユリ達の座っているテーブルに腰掛けた。

「あー暑かったわ。さぁ。ご飯、ご飯」

 カスミは、「いっただっきまーす」と言いながら、トレーにのせられた料理を素早く食べ始めた。

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