6
別館はユリ達が授業を受けていた、本館の西側に建てられていた。
三階建てで、一階は食堂や男女別のトイレ、浴場、また娯楽室や図書館などがあり、二階は男子寮生専用の個室、三階は女子寮生専用の個室といった造りになっている。
ユリは本館から別館に続く連絡通路を歩きながら、すれ違う生徒達と笑顔で挨拶し、一階の食堂へやって来た。
彼女が食堂に入ると、調理場でエプロンを着た少女が、大きな鍋に入り蒸気を上げながら煮えているお味噌汁を、お玉でかき混ぜている。
調理は当番制で、生徒たちが交代で、食事を作ることになっていた。
調理場にいる三人のうち、メガネをかけた少女が、食堂に来ている生徒達のトレーに、定食を次々と配っている。
ユリもプラスチックのトレーを手に取り、少女の前に立った。
「こんにちわ、カスミ。いい匂いですね」
メガネを湯気で曇らせながら、カスミが視線を上げた。
「ユリやん!今日は腕によりをかけた鮭定食やで。お味噌汁も昆布だし使ったんよ」
花宮カスミはユリの祖国でもある、日本からの移住者だ。
「ユリ、そういや十四時から認定試験の結果通知やんな!うちも、すぐ行くから先に食べ始めといて」
カオリはユリのトレーに鮭の塩焼き、サラダを盛った食器とお味噌汁が入ったうつわを乗せた。
「はい。待ってますね」
ユリは料理を受け取ると、食堂のテーブルを見渡す。
数名の生徒たちが食事をしている中で、栗毛の男子がこちらに向かって手を振っている。
彼女が近づいていくと、彼は親しげに喋りかけてきた。
「よう、ユリ。授業お疲れさん」
彼の座っているテーブル正面の椅子に、黒髪の小柄な少年が座っている。
「ローランド、トオル。こんにちわ」
喜色満面にあふれたユリは、二人に声を掛けるとローランドの横に座った。
ローランド・ルーカスと黒川トオルもユリやアンナ、カスミと同期の生徒だ。
「あー。今日の中級認定試験の発表、ドキドキする。なぁ、トオル」
ローランドが、正面に座っているトオルに話しかける。
トオルは頷きながら、お味噌汁を音も立てずに飲み干した。
「みんなで昇進出来たら、私はとても嬉しいです」
ユリは両手を合わせ、目を閉じて何やらお祈りをし始める。
「ユリは相変わらず礼儀正しいな」
ローランドは、ユリの様子を見ながら呟いた。ユリはなおも祈りに集中し続け、彼の言葉が耳に入っていない様子だ。
その時カスミが、エプロンと髪落ち防止用の透明キャップを外しながら、ユリ達の座っているテーブルに腰掛けた。
「あー暑かったわ。さぁ。ご飯、ご飯」
カスミは、「いっただっきまーす」と言いながら、トレーにのせられた料理を素早く食べ始めた。




