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彼の問いかけを無視して、なおも雪玉を作り投げつけてきた。
顔面に、ユリの投げた雪玉がヒットする。
口の中で無味無臭の氷が、体温に溶かされ消えて行く。
デイジーは、黙って彼女の元に寄っていく。
「デイジーの馬鹿……何で私に隠し事するんですか?病院から帰ってきてから、ずっと様子が変ですよね?私、あなたに命を救われたのに……。デイジーの言葉が、私の目を覚ましてくれたのに……」
ユリの言葉が、重く彼にのしかかった。
——分かっている。彼女に打ち明けなければならない、俺の秘密を。自分は何を躊躇しているんだろう?残り時間はそう長くないというのに。
「ごめん、ユリ……。本当にごめんな」
喉から絞り出す様に、デイジーは答える。
それから一呼吸置いて、彼は言った。
「明日、全部話すよ」
「本当ですか……?」
彼女は、子犬のような瞳で彼を見つめている。
「ああ、約束する」
ユリの硬い表情が次第に緩んでいき、いつもの笑顔に戻る。
無意識のうちにデイジーは、ユリを抱きしめていた。
「ユリ……好きだ」
言った直後にデイジーは、自分の言動を恥じた。
彼女の同意なしに一方的に自分の意思を押し付けたように思えたからだ。
何を言ってるんだ、俺は。
だがユリは両手を彼の背中に回した。
デイジーの胸に顔を埋めながら、彼女は小さな声で「私もデイジーのことが大好きです」と答えた。
デイジーは、ユリを抱き締めながら髪を撫でた。
今、時間が止まってくれたら、どんなに幸せだろうか。心の底から彼はそう願った。
翌日、本部に出向していたハワードが眉間に皺を寄せながら一路、ピクチャー支部へと車を走らせていた。
フロントガラスにぶつかっては砕ける雪を、ウインカーで弾き飛ばしながら、彼はあらかじめ車にスノータイヤを装着していた判断を自賛する。
ピクチャー協会の正門で車を停車させると、守衛室から出てきたジャックが敬礼しながら「任務ご苦労様であります」とハワードに声を掛けてきた。
彼は精一杯の作り笑いを浮かべ「寒い中、ご苦労様」と運転席から敬礼を返す。
ジャックが守衛室に戻り、堅牢な鋼鉄製で出来た正門扉の開閉ボタンを押した。
寒さにすくんでいるかのように、ギィィーとうめき声をあげ、鉄の扉が開かれる。
ハワードは車を、敷地内の片隅にある駐車場に止め、協会の本館へ歩き出した。
今年の寒気は、例年より早く訪れているようだ。
雪化粧された職場をのぞみながら、彼は手袋越しにマフラーを巻き直す。




