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ジュリアの瞳が潤みを帯びている。
ユリは彼女を見つめながら、黙って耳を傾けていた。
「第三次世界大戦が始まってから、東アジアに次いで、数年後に東欧が主戦場になって。私達家族は避難してる最中に散り散りになっちゃってさ」
ジュリアは一度、言葉を切る。
「私は父と母、エマを……廃墟になった街の中で懸命に探したんだ。ずっと、ずっと……そして家族を探し当てた。死体安置所でさ……エマは顔も手も、すすで真っ黒に汚れてた……。一晩中、あの子の手を握って泣いてたよ。私は……家族を、妹を、守れなかったことが心底……悔しかった」
ジュリアの窪んだ碧眼の底から、止め処なく透明な涙が流れていた。
彼女がこれほど、弱々しい一面を持っているなんて、ユリには想像も付かなかった。
いつも溌剌とし、気丈で洗練されたジュリアは、そこに居ない。
「……ジュリアさん。あの、私」
声を掛けた瞬間、ジュリアがきつくユリを抱きしめた。
「私、二年前に軍隊に志願して戦地に行ってたでしょ……?結局一年くらいしか従軍してなかったけど、配置されたとこが戦場の最前線でさ。そこで沢山の敵兵を殺めたよ。お陰で敵味方から『死神』なんて異名で呼ばれるようになってさ。でも……私はただ守りたかったんだ。この国を、島を、家族を……もう二度と失いたくなかったから」
彼女は震えていた。
「だからユリが、島を空爆した敵軍の戦闘機を撃ち落とした時に、搭乗していた人間も殺してしまったって罪悪感はね……。凄く分かるよ。私も一時期、そうした感情に凄く苦しんだから……。戦争って本当に残酷だなって心底呪ったよ。でも、ユリのした事でこの島に住む人は救われたんだよ?私が出来なかった事をユリはしてくれたんだ」
耳元で囁くように、声をうわずらせながら、ジュリアは語り続ける。
彼女の金糸の髪から、微かに柑橘系のかぐわしい香りがした。
「ユリさ、前に私に言ってくれたよね?ここは私の我が家で、そこに住む皆は全員家族だって。私にとってはね、ユリは大切な『妹』なんだよ。だから私を置いて行かないで……絶対に死なないで、お願いだから!」
眼球の上を、うっすらと涙がおおった。
——あぁ、デイジーの言う通りだ。私はとんでもない過ちを、また犯すところだった。自分が自殺する事で、ジュリアさんの心も道ずれにしてしまう所だったんだ。




