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トルネードは凄まじい突風を生み出し、ユリ達を覆っていた天幕を吹き飛ばす。
ジュリアは軽く腰を下げながら、視線を上空に向ける。
すると、竜巻が海上から天空に向かって浮き上がり、雨雲をその凄まじい風圧で吹き飛ばした。
——数分後、海岸沿い一帯を覆っていた雨雲は綺麗さっぱり無くなり、空には瞬く星屑が広がっていた。
「——凄い。まるで風神様みたいや……」
カスミが眼前で起きた現象に絶句していると、前方にいるジュリアがその場に座り込んだ。
「ちょっと無理し過ぎたかも……。後はみんなに任せるね!」
ジュリアは舌を出しながら、少し疲れた様子でユリ達の方に目をやる。
「よし。それじゃ派手に打ち上げよう!」
ロンは先程トオルに教えてもらった花火の玉や円筒を、アンナから借りたペンシルと紙に描き出した。
ユリやトオル、アンナとカスミも紙に様々な種類、サイズの花火や円筒を描き実体化する。
星が煌めく夜空に、ヒューと音を立てて花火が打ち上がった。
花や動物を模した色鮮やかな花火に続き、巨大な大輪の華のような花火が夜空を煌々《こうこう》と明るく照らす。
大砲のような音を響かせ空一面に咲き誇る花火に、店の軒先や建物に避難していた見物客達が歓声を上げた。
「描画具現者ってのは、天候も操れるんですか?」
地面に座り込んでいるジュリアの傍らで、デイジーが花火を打ち上げるユリ達を見ながら尋ねる。
「超高難易度だけどね。こんな事したの初めてだし、ぶっつけ本番だったけど上手くいったから結果オーライかな」
「ジュリアさんは紙やペンに描かなくても、あんな現象を引き起こせる。まるで神様ですね」
「言い過ぎだよ。それにユリだったら、もっと凄いことが出来ると思うよ。ね、デイジー」
ジュリアは含みが混ざった碧眼をデイジーに向ける。
彼女の言葉にデイジーは内心、どきりとした。
「私達の能力って想像力に大きく左右されるの。さっき私が創った竜巻だってそう。『私が創り出す竜巻よ!あなたの生み出す突風で、あの空を覆う雨雲を吹き飛ばして』って感じでさ。あなたが言うように私の場合、何かを実体化する時にそれを紙に描かなくてもイメージを具現化出来る。もちろん紙に描いた方が精度や持続時間は遥かに上がるんだけどね」
ジュリアの話は、以前ロンから聞いたピクチャーズの特性と、ほぼ合致していた。
しかし、これほどの能力を実際に目で見ると、自然と畏怖に近い感情が沸き起こる。
「でも、確かピクチャー協会員は仕事の依頼以外での、私的な能力の乱用は禁止されているんじゃなかったですか?」
「あぁ、協会規則第三条のことだよね。その三条一項にこう書かれてなかった?『但し、公共秩序と倫理観に反しない場合はその限りではない』って」
「なるほど」
デイジーは一本取られたと言わんばかりに苦笑いした。
「デイジー!ジュリアさーんっ!」
ユリが二人に手を振っているのが見えた。ジュリアとデイジーも、ユリに向かって手を振って返す。
「ユリ、まだまだ打ちまくるよ!!」
アンナに促され、ユリはまた花火玉を描き始めた。
「あの子のこと、ちゃんと守ってあげてね。王子様」
ジュリアは笑顔を浮かべてデイジーの茶色い瞳を見つめていた。この人には敵わないな。彼はユリ達の打ち上げる花火を見上げる。
夜空を美しく照らす花火に、人々は目を奪われていた。
それは、天空に咲き誇る華のように瞬いては、また散っていった。




