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「あぁ、もちろんだよ」
そうだ。彼女にいろんな事を打ち明けたい。でも、何故か《《心の中でそれらにストップ》》が入る。
機会を待とう。『きっとまだ時間はある』。デイジーは自分にそう言い聞かせた。
「着いた!このスポットだと花火が余すところなく観えるよ!みんな」
アンナが歓喜しながらユリ達の方へ手を振っている。彼女たちは街の端にある海岸沿いの道路まで来ていた。
周囲は同じく、絶景ポイントで花火を観ようとする観客達で溢れ返っている。
ユリ達は人の波をすり抜け、道路脇のコンクリートで出来た歩車道境界ブロックに腰掛けた。
「すげぇ人だな。なぁ、トオル」
ロンが額から流れる汗を拭いながら、トオルに同意を求める。
トオルは「……うん」と一言、小さな声を発した。
「うーん、不味いな……」
手提げバックに入れていたスマホを、ジュリアが凝視している。
「何がですか?——って言うかジュリア先輩、いつの間にスマホ買ったんですか!」
アンナが、ジュリアの持っていたスマホを羨ましげに見る。
「ほんまですよ。うちもスマホ欲しい!」
カスミもアンナに同調するように指をくわえる。
「あぁ。このスマホは協会の役職に就いている人間に支給される物で私のじゃないよ。アンナやカスミも昇格したら支給して貰えるよ」
「えぇー!支給されるんだ!カスミ、私達も早く上級に昇格しなきゃね!」
「ジュリアさん、不味いって何の事ですか?」
デイジーが女性陣の会話に割って入るように、ジュリアへ尋ねる。
「天気予報を見ていたんだけど。もしかしたら大雨が降りだすかもしれない……」
ジュリアが振り返り、デイジーに答えた。
「マジすか!そんなの聞いてないっす!」
ロンが悲痛な叫び声を上げる。——直後、遠くの方から雷の鳴る音が響いてきた。
「みんな、今の内に傘を描いて」
ジュリアが迅速に指示を出す。ユリ、カスミ、アンナは手提げバックから紙とペンを取り出すと、一斉に傘を描き始めた。
「ほら、ぼーとしてないで男子も傘描いてよっ!」
アンナが、ローランドとトオルを睨みつける。
「いや、俺達は何も持ってきてないぞ。今日は休みだしさ……」
「はぁ?何で手ぶらなのよ!これだから男は!」
アンナの声をかき消すように突然、大粒の雨が降り出した。
稲光りと共に降り出した豪雨に、海岸沿いの道路に居る見物客達が、蜘蛛の子を散らすように庇のある建物に向かって走り出す。
「危なっ!間一髪やった……」
カスミは大型の傘を具現化して雨を防いでいる。その傘にトオルが、そっと入った。
「デイジー。私の傘に!」
ユリも大きめの傘を実体化した後、雨に打たれていたデイジーに向かって自分の傘に入るよう促す。
「ちょっと、あんたは入んないでよ!私まで雨に濡れちゃうじゃんっ!」
「ぎゃああ!」
アンナの傘に入ろうとしたロンが、蹴りを食らって追い出された。
——容赦ないな、とデイジーは苦笑する。




