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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
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 海をはさんだ諸外国にオリーブやワインを輸出する為、チルアの港からは輸送船が頻繁ひんぱん往来おうらいしていた。

 しかし数ヶ月前まで、そうした輸送船の代わりに駆逐艦くちくかんや空母といった軍艦ぐんかんが港に停泊ていはくし、ティグニス海を制海せいかいしていた。

 十五年前に勃発ぼっぱつした第三次世界大戦が一年前にようやく終結しゅうけつした。

 その大戦において戦力として重宝されたのが旧民間団体『具現化する者達』を国が管理かんりするようになった現在の『描画具現者びょうがぐげんしゃ(ピクチャー)協会』である。

 通称『ピクチャーズ』と呼ばれる彼らは特殊とくしゅな力を持っていた。それは紙に《《ペンや鉛筆で描いた絵を具現化することが出来る》》という点である。

 実在する武器や医薬品いやくひん、人間さえ実体化させられるという能力は《《戦争の道具》》としてもってこいだった。

 実際、多くのピクチャーズが大戦に投入され、その結果数万に及ぶ描画具現者達が戦死する惨事さんじとなる。

 彼らが何故そんな能力を有するに至ったかは、未だはっきりと解明かいめいされていない。

 が、古代に建てられた遺跡いせきの象形文字に描画具現能力者であると推測すいそくされる絵が発見されたことにより、太古よりピクチャーズが存在したと仮定されていた。

 しかし彼らの歴史は波乱はらんに満ち中世の時代では、その特異とくいな能力から差別や迫害はくがい・果ては魔女狩りの対象となり火あぶりにされた者もいた。 

 その後、彼らの立場を一変いっぺんさせる出来事が起きる。

 それが三度に渡る世界大戦だった。

 描画具現者は大戦において世界各国の貴重な戦力となり、皮肉なことに殺し合いの道具として彼らは市民権を得るに至ったのだ。

 ユリは産まれて間も無く母親を病で亡くし、父親は十五年前の大戦で戦死した。

 彼女は孤児院に預けられ十歳の時、描画具現能力があることが孤児院で確認されことから通常の学校ではなくピクチャー協会に所属しょぞくする事となる。

 そしてユリは協会の四十期生として六年間をこのチルア国立ピクチャー協会支部で過ごした。

「ユリ、またボーとしてたよ。ほんとに大丈夫?」

 廊下ろうかから見える岬を見ながら、ユリはアンナに笑顔で「大丈夫です」と答えた。

「もしかして……好きな人でも出来たとか?」

「そ、そ、そんなことはないですっ!」

 ユリは慌ててアンナの問いを否定する。

「ユリは嘘つけないよね。すぐに顔に出るからさ」

 アンナは改めて彼女を眺めた。ユリを一言で表現するならば優美ゆうびなバラのような美少女だ。

 絹のように艶めく黒いミディアムヘア。透き通るような白い肌。卵型に近い丸顔に配置された大きく垂れ目がちの瞳、長い睫毛まつげ、小さな鼻、桃色の唇はこれ以上無いという均整きんせいを保っている。

 日本人女性は世界一モテると言う噂を聞いたことがあったが、あながち嘘では無いとアンナはユリを見るたびに思う。

 そんな想いを巡らせながら、アンナは含みのある顔でユリをイジっていたが「ま、いっか」と話題を変えた。

「そういや、こないだカスミが言ってたんだけどさ。ネット上で、月を創造そうぞうしたのは私ら描画具現者だって与太話よたばなしが書き込みされてるらしいよ!そんなの私らに出来る訳ないじゃん!!」



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