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描画具現者  作者: 綾瀬まひろ
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「違うわ!お互い気になってる相手を誘って二対二のデートするんだよ。その方が相手の子も気負わずに応じてくれるってリア充指南書に書いていたんだ!祭りの間はピクチャー協会も原則休みになるし、絶好のチャンスだと思わねえ?」

「ダブルデートねぇ……。まぁ俺は別に構わないけど」

「よし!じゃあ決まりだ」

 愉悦ゆえつに浸った表情でロンは拳を握りしめる。彼の様子を見ながらデイジーは先ほど黙り込み答えられなかった言葉を心の中で反芻はんすうした。あの時、言葉に詰まった理由。自分でも何故そう想うのか解らなかった感情。

『俺は自分のことが大嫌いだよ』


「スマホ?」

「そう、私もスマホ欲しいぃ!」

 アンナとユリは寮の廊下を一緒に歩いていた。

「今時、スマホ持ってない学生なんて私らピクチャー協会の生徒くらいだよ。小学生とかでも持ってるんだからさ!」

 アンナは、ユリをはけ口にするかのように愚痴をこぼす。

「携帯電話なら協会から支給されたのがあるじゃないですか」

「これ通話専用じゃん!」

「メールや地図なんかも観られますよ」

 ユリは笑みを浮かべ、穏やかな調子でアンナに言った。

「私が言ってるのはスマートフォン!指で画面タッチ出来て、ネットに繋がるヤツ!」

「インターネットなら娯楽室にあるパソコンから利用できます」

「不便じゃん!スマホなら携帯しながら、いつでも何処でもネットとかゲームとか色々出来る

んだよ!」

 アンナの甲高い声が廊下中に響き渡る。

「そうなんですね!知らなかったです。でもアンナがそこまで欲しいんなら購入すればいいかと私は思います」

「私らの給料たったの五十ユロだよ?スマホの維持費って最低でも三十ユロ位するって聞いたし、スマホ買ったら化粧品とか洋服買えなくなるじゃん!そんなのヤダ」

 二人はスマホ談義をしながら、階段を降り一階の娯楽室を通り過ぎようとした。

「ユリ!アンナ!」

 娯楽室からローランドの声が聞こえる。見るとロンとデイジーが、娯楽室の隅にある机に腰掛けながら、ユリ達を手招きしていた。

「ロンとデイジーじゃない。何か用?」

アンナは面倒くさそうにデイジー達の方にやって来る。

「デイジー、ローランド。おはようございます」

 隣にいたユリは、相変わらず優しげな笑みを浮かべながら、二人に挨拶した。

「やあユリ、おはよう。実はさ、デイジーと話してたんだけど……明日の夜、ジュリアさんとみんなで花火大会に行くだろ?でも夜まで時間あるし四人で昼間……何処か遊びに行けたらってデイジーと話してたんだ。どうかな……?」

 ローランドは声を上ずらせながら、アンナとユリを誘う。

「それは面白そうですね」

 ユリは乗り気だったが、アンナは両手をバツの字にした。

「却下。明日のお昼は、カスミに浴衣の着付け教えてもらう約束してるから。ユリも忘れちゃダメでしょ!」

「あ!そうでした……。二人とも、ごめんなさい」

「そ、そうなのか……」

 ローランドはアンナの拒絶が応えたのか、見ていて気の毒なほどに肩を落とした。

 その落ち込みようを、横目で見ていたデイジーがため息をつく。

「じゃあさ、明後日はどうだ?何か予定入ってる?」

 デイジーなりの援護射撃だった。

「明後日?うーん、どうだったかな。予定観てみないとわかんないけど……」

「いいじゃないですか!アンナ、行きましょうよ。せっかくロンとデイジーが誘ってくれてるんだし。お休みの期間、どこにも行く予定無いって私に言ってたじゃないですか」

「ちょっと、ユリ!余計なこと言わなくて良いのに……。あー、もう!分かったわよ。明後日は空いてるし、しょうがないから付き合ってあげる」

 それを聞いたロンは、さっきまでのへこみ具合が嘘のように飛び上がって喜んだ。

「じゃあ私達もう行くから」

 アンナはきびすを返し娯楽室から出て行く。

「じゃあデイジー、また後で」

 ユリは彼に手を振りながら、アンナに手を引っ張られ部屋から居なくなった。

「デイジー、ナイスフォローありがとな!」

 ロンは彼の肩を叩いた。

「お前の落ち込みっぷりが見るに耐えなかっただけだよ」

 デイジーが、ぽつりと呟く。それに、俺もまんざらでも無いからさ。 ユリの笑顔を見た時に感じた、胸の高鳴りがいつまでも収まらなかった。




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