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ユリが事務所の方へ歩きかけた時、ジュリアに手を掴まれた。
「ユリ、昇格したばかりの日に急なんだけど、あなたに仕事の依頼がきているの。悪いけどお願い出来るかな?」
ジュリアは温和な眼差しをユリに向けていた。
「私に……ですか?」
ユリは一瞬困惑したが、すぐに微笑を含んだ顔に戻る。
「分かりました。それで——場所と時間は?」
「そこは私が同伴するから、心配しなくて大丈夫。それよりも……」
ジュリアはユリの着ている制服に目をやった。
「初仕事なんだし、服を新調しに行こうよ!」
「……服?」
彼女が着ているのはピクチャー協会が生徒達に支給するブレザーの制服だった。
ピクチャー協会に所属する生徒は戦争で、親を失い孤児院などで育った子供も多い為、国が協会員に対して衣食住に掛かる費用への助成金を出しているのだ。
「一応、私服は持っていますし、それに着替えます」
「ダメよ、あんなボロボロのシャツやスカート。私がユリの初仕事に相応しい今風の洋服を選んであげる」
ジュリアは握っていたユリの手を引っ張った。
「ジュリア先輩……私も行きたいです!」
隣で二人の会話を黙って聞いていたアンナが叫んだ。
「アンナにはまだ仕事の依頼きてないでしょ?」
「給付金が出るし、あたしも春服を新調したいんです!!」
アンナの異様な食い下がりざまに、ジュリアは観念したのか「まぁ、いいよ……」と言いながら他の3人も呼んでくるよう、彼女に言いつけた。
彼女が事務所に走って行くと、ジュリアとユリもその後を追いながら歩き出す。
「ユリ、事務所に行ったら携帯用のデッサンセットが入った、手提げケースも受け取ってね」
「はい!」
ユリは嬉しそうに、にっこりと笑った。
——そうだ。今日から私も一人前のピクチャー協会員なんだ。
彼女は興奮して、胸が踊るのを抑え切れなかった。