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「支部長、遅いです!」
アンナは不満そうな顔で、支部長と呼ばれた男性に悪態をついた。彼女の両頬は何故か赤く腫れている。
ユリは午前中の、ジュリアとアンナのやり取りを思い返し——あの後どうなったのだろうと考えたが、すぐに頭を切り替え支部長の方に目を戻す。
咳払いをしながら、クラーク教官がアンナをにらんだ。彼女は肩をすくめて、椅子から浮き上がっていた腰を戻した。
「アンナちゃん、申し訳ない!」
支部長は両手を合わせて彼女にも謝罪した。彼の横に立っていたクラークが声を発する。
「ハワード、発表じゃ」
「そうですね、ではこれより描画具現者昇級試験の合格者を発表します」
彼は、手に持っていた紙をビル・クラーク教官に渡した。クラークはその紙を受け取り、もう一度、咳払いした。
「では昇級試験の合格者を発表する。花宮カスミ」
「よっしゃあっ!」
カスミが威勢良く椅子から立ち上がる。
「次、ローランド・ルーカス」
「リア充への階段を、また一歩登ったよーん!!」
クラーク教官は「静粛に」と、低く通る声でローランドを制する。
「次、黒川トオル」
トオルは片目にかかる位に伸びた、前髪の隙間からクラークを見ていたが、名前を呼ばれると小さな声で「……はい」と言いながら起立した。
「次、アンナ・オルティース」
「いえーい!イッツ伊豆!」」
名前を呼ばれたアンナは、両腕を天に挙げて喜悦した。
クラークがやれやれ、といった具合に首を振る。
「最後に、ユリ・フローレス」
ユリは名前を呼ばれた直後、キョトンとした顔をしていたが、即座に席から立ち上がり「はい!」と答えた。
「以上、五名を中級能力者として認定する事とする」
クラークは紙を丸め、両手を後ろに組むと支部長を一瞥した。
「えぇー、では合格者の五名には、中級能力者の証であるブロンドのペンダントを授与します。みんな、私の前に整列して下さい」
ジョン・ハワード支部長は、紫紺の箱を開けながらユリ達を教壇の前に並ばせる。
支部長は五名が、首から下げていたネックレスを受け取ると、初級能力者の証である革製のペンダントを外し、銅製のペンダントに付け替えた。
全員にペンダントを授与し終わると、ハワード支部長は一段差のある教壇に登り、五名を気持ち見下ろす位置に立った。
そしてさっきまでの様子と一変して、役人めいた口調になる。
「あなた達は、チルア国家憲法を忠実に遵守し、ピクチャー協会の職務を全うすることを誓いますか?」」
ハワードが威厳を込めた声でピクチャー協会の創立理念を口にした。
それを聞いたユリ達が、一斉に背筋を伸ばす。
「いかなるものにも囚われず、なにものをも恐れず、私情なるもので憎まず、良心にしたがって国家と国民の自由と権利を守るため、ピクチャー協会員の職務を遂行することをここに誓います」
ハワードは黙って頷くと「今後もピクチャー協会と協会が属する国家と国民の為に全身全霊で職務に望むこと。以上を持って、中級昇格授与式を終了する」と言って場を締めくくった。
ユリが大講義室のドアを開けると、廊下の窓際にジュリアが外を眺めながら佇んでいた。
五人が講義室から出てきたことに、彼女はすぐに気がつき「みんな、昇格おめでとう」と声を弾ませて喜んだ。
「そうそう、言い忘れていたけど、認定協会員のICカードと昇格祝いの給付金が支給されているから、後で事務所に取りに行ってもらえるかな」
部屋から出て来たハワードは、そう言い残すとクラーク教官を伴って、本館の正面入り口から外へ出て行った。
「給付金出るんやっ!めっちゃラッキッキー!」
カスミが物凄い勢いで、事務所の方に駆けていく。
それに続いて、ローランドとトオルも釣られるように、カスミの後を追いかける。




