依頼達成
開いた壁から光が溢れ出す。
どこか温かさを感じさせる、その光は、いつまで経っても止む気配はない。
「取り敢えず、入ってみよっ!」
ココットに、アヴァとカエルは頷いた。
.......
(うん?)
「...取り敢えず入ってみよっ!」
ココットがカエルを見ながら言う。
「そうか。マデリンが居ない場合、私が前衛になるんだな」
「うん...まあ、ただ怖いからなんだけどね」
(なんだそれは) そう思いながらカエルは、光の中へと消えて行く。ココットとアヴァも、それに続いた。
中は天井からの光で溢れていた。
一部の天井が、鏡状になっており、集光装置のような役割を果たしているようだ。
「綺麗ね。それに暖かい」
一層光が集まっている場所には祭壇があり、その上には『植物』が植えられていた。
「ほわっ!?見たことない植物!世紀の大発見かもかもっ!」
ココットが目を輝かせて、植物の周りをクルクル回りながら観察する。
(ん?何か今違和感が...)
一瞬、植物の何かが動いたような気がしたが、それ以降、その違和感を感じる事は無かった。
「これアタシ持って帰る!持って帰って調べるよっ!」
ココットが、リュックから透明の容器を取り出す。
「コレ。各地で珍しい植物を見つけた時の為のプランターなんだ。アタシ植物学者でもあるから」
(多才な事だ)
ココットは、植えられている土ごと、丁寧に取り出し、プランター内に入れ替えた。
「さっ。後はパパッと、まだ行ってない別れ道を探索して帰りましょ」
ところが、その帰り道が苦難の連続だった。ある意味では、オークマスターより凶悪な敵が現れたのだ。
「おるぁあああ!カエル呑めこるぁああ!私の酒が飲めねぇのか!!」
忘れた頃に、マデリンの覚醒が始まるのである。しかも、何故か皆が寝静まった頃になると暴れ出すのでタチが悪い。
残りの2人は狸寝入りを決め込んでいるし、カエルが相手をするしかない。結局マデリンが再び寝るまで、喋ったり、魔法で芸をして楽しませたりして夜を過ごした。
そのせいか結局、街に戻るまで、カエルは一睡も出来ない夜を過ごした。
「永い闘いだった...」
「どんまい」
正気に戻ったマデリンに慰められながら、街を歩く。マデリンは、大きなことを成し遂げた後のように、非常に爽やかな顔をしていた。
「お疲れカエルっち。ベロっちもお疲れ」
「本当にな..。豚と戦っていたと思いきや、目覚めた時には、嬢ちゃんが立ちはだかっていた時にはビックリしたぞぃ」
意識を取り戻したベロは、丁度マデリンが暴れている時に、声を出してしまった。
「おう!舌の!おめぇも呑め呑め!」
と絡まれてしまったのだ。
「えっへん」
「「えっへんじゃない(わい)」」
2人して同時にツッコミを入れるのを見て、アヴァがクスクスと笑う。
「カエルさん。もう息もぴったりだし、このまま私たちのチームに入ったら?楽しいわよ、きっと」
横でマデリンがウンウンと頷いている。言葉少なな彼女であるが、一定の信頼は得られたようだ。
「私は武国を目指しているんだ。皆が良かったら、一緒に行きたいけどね...」
アヴァがギョッとした顔をする。
「武国!?あんな魔王軍との最前線に!?」
「いや、まあそうだよね。カエルっち亜人だもんね。今も...ホラ」
ココットが視線を他所へやる。
見れば街の人々が、コソコソと此方を見て話し込んでいる。
「いい気分じゃない」
マデリンがボソリと言う。
「ごめん私を連れているせいだ」
カエルの言葉にマデリンは、ブンブンと首を振り
「違う。あぁいうコソコソした奴らが嫌い」と言ってくれた。
「ありがとうマデリン」
すかさずココットが
「惚れた?」
と言ってくる。何故君が言う?
「まあ、見られてる理由は、それだけじゃないと思うんだけどな..」
アヴァがチラリと後ろを振り返る。
子供達や野次馬で人集りが出来ている。カエルが【エアロウォーク】に載せて移動してきた、戦利品の数々が山のように積まれているからだ。
「オークの死体が山積みされてるぜ」
「ヒューッ見ろよ!上級までいやがる」
「あんな武具見た事ねぇぞ!」
「どうやって移動してんだ?」
さながら、サムライの大名行列だ。
そんな大名行列が酒場に着く頃には、噂は先に酒場まで走っていたらしい。
酒場の主人を含めて、冒険者の面々が酒場前に訪れていた。
「オイオイ、こいつぁ...」
酒場の主人が、積み上がった戦利品を口を開けて見上げる。
「フッフーンッ!チーム『レディローズ』依頼を達成して、戻ってきましたっ!」
ココットが、胸どころか背骨まで反りながら、エッヘンと威張る。
「これは誇っていいぞ...オークマスターまで居るじゃないか。この規模を壊滅させるとは、オレはとんでもないヤツと闘りあってたんだな」
人混みの中からアッシュが、顔を出してくる。
「ただいまアッシュ。依頼を斡旋してくれてありがとう。愉快なメンバー達とも出会えたし、楽しい冒険だったよ」
黙って腕を差し出してくるアッシュ。こちらも黙って腕を差し出し、互いに握手を交わす。
「しかし、上級中位のオークが居て、この数だ。マスター!この依頼は、中級上位なんてもんじゃないよな!?」
アッシュに声をかけられ、主人は苦い顔をする。
「...あぁ、すまない。俺達の判断ミスだ。上級中位の依頼として認定する。特別報酬も出そう」
3人娘が顔を見合わせ、笑顔でハイタッチを交わしていく。
そして、3人の目線が、カエルの方を向いたと思った瞬間、カエルに向かって3人が猛然と飛びかかってきた。
「サンキューカエルっち!」
「やったよカエルさん!」
「大勝利」
カエルは地面に押し倒される形で、後頭部を打ったが、3人の最高の笑顔を見られたのは、悪い気はしなかった。
その後、戦利品の多くは、解体場へと運び込まれた。しかし、問題はその一部で起きた。
「この鎧は買取ろう。デカすぎて、このままじゃ着れないが、同じ物を2着作る程度の素材が得られるだろう。2000万ゴルドはくだらないな」
オークマスターの戦利品を、マスターが品定めしていく。
「そして、問題のコイツだが...なんなんだコレは?」
主人の目の前では、ドクンドクンと脈打つ巨大な戦斧があった。刀身の部分には、鈍く光る紫の刃がユラユラと揺れるように見える。
「...呪具じゃないか?コレと同じような物を見た事がある」
筆頭冒険者である、アッシュも今回の鑑定に参加している。そのアッシュが『呪具』だと言う。
「呪具とは、呪いを刻まれた武具の事だ。読んで字の如くだな。強力無比な能力を誇るが、何らかの代償が求められる。寿命、血、生贄、殺戮衝動、感情、運。求められるものは様々だ」
そう説明すると、おもむろにアッシュは斧を持ち上げた。
「おいっ!」
「ええっ!」
「うそっ!」
皆が当然驚いた。そんな危険な説明をしておいて、当然のように呪具を手にとってしまったのだから。
「慌てるな。持って命を取られてたら、そのオークマスターは、とっくに死んでる。殺戮衝動を発言していたならば、仲間も斬り殺しているはずだ」
と、なると...なんだ?
「持ってみたが分からん。が、分かる人間なら知ってる」
「誰だ?鑑定士でも呪具の鑑定は厳しいだろう?」
一拍置いたところで、アッシュは応える。
「ここから馬車で北へ10日ほど進んだ森の中に、ある街の筆頭冒険者をやっていた男がいる。そいつなら、この斧の正体も分かるだろう」
北か...
「武国の方角じゃな」
コクリとカエルは頷く。
「私が持って行く。私なら10日も掛からない」
酒場のマスターが、ガタリと立ち上がる。
「決まりだな。カエル。お前を特例として、上級下位の冒険者に任命する。各国共通の手形を渡しておく。それと同時に、お前に酒場から正式に依頼する。この呪具を調べてくれ。調べ終わったら、最寄りの街の酒場で報告するように」
カエルはコクリとうなずき返す。
「分かった。承る。同じように依頼を達成した彼女達は?」
「あぁ、勿論彼女達も同様に上級下位に...」
そこまで酒場の主人が口に出したところで「ちょっと待った」とココットが声を掛けた。
「今回の依頼は、カエルっち有りきで達成した物です。アタシ達は、協力させて貰っただけ。それに、まだ実力が見合ってないから、ちゃんと実力をつけて、正式に上級下位にまで行きます」
ココットは、ハッキリとした目つきと口調で、断った。
「そうか、残念だ。お前達も、十分見合ってると思っての事だったんだがな..」
「...やっぱり貰っとこうか?」
「「おいおい」」
アヴァとマデリンから総ツッコミをもらい、ココットが舌を出して誤魔化す。
「さて」と酒場のマスターが切り出す。
「依頼達成の報酬を渡しておこう。これには、素材の買取額も含めている。皆ご苦労だった」
ジャラッと、袋に入った紙幣と金貨が置かれる。3人娘は「ホワァーッ!?」と揃って奇声を上げているが、価値が分からないカエルには、サッパリだった。
「路銀があれば十分だな」
と言うと、3人から
「「「国を一周出来るわ!」」」
という激しいツッコミが来たので、恐らく十分な金額が支払われたんだと思われる。
それから、一晩を街で過ごし、レディローズの面々とアッシュに見送られる形で、カエルは正門まで来ていた。
「じゃあ私は出発するよ。皆ありがとう。元気でね!」
「また来てよ」
「今度来るときは、うちのチームだかんね」
「バイバイ」
「達者でな」
それぞれの想い想いの言葉を受け、カエルは旅立った。
カエルは北を目指す。
背には脈打つ斧と、様々な荷物を載せて。
「少し、重いな...」
◆
「カエルっち行っちゃったね」
「うん。そうだね。良い人だった」
「惜しい奴を亡くした」
「死んでないだろ」
マデリンが、頭をビシッとアッシュに叩かれる。
「ココット。次の依頼、ちょっと弓の手入れしたいから、3日ほど待ってくれる?」
アヴァが、弓を繁々と見ながら言う。
「オッケー。アタシも、新しく手に入れた『例の植物』について調べておくよ」
ゴソゴソとココットがバックパックを弄る。
「ん...!?...あっれー?」
ココットがバックパックを触りながら首を大きくかしげる。
「どうしたの?」
マデリンが不思議そうに問いかけると、ココットは不思議そうな顔をしたままマデリンの方を向き、こう言った。
「カバンの中に入れておいた植物が、無くなってる。それも...中身だけ」




