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その2

久しぶりの更新なのに、話が進まなくってスミマセン!


 ――時間(とき)は遡って、只今の時刻、午前六時十分になりました。


 今日は、いつもより四十分ほど遅い起床になってしま……いやいや、それは正しくない。実際、きちんと時間通りに目は覚めてたし、もちろん頭もバッチリ冴えていましたよ。でも正直な話、今日は起きたくなかった! 今も朝なんか来なければいい、と本気で思っている……もう朝だけど。


 もちろん昨日の夜はベッドに入ってから、ずっと神様仏様にお祈りいたしました。おかげで一睡もしていませんっ! どうだ、凄いだろう? だけど悲しいかな、次の日は皆、平等にやって来るのだ。辛い、辛いよっ! だって起きたら僕の了承を全く得ていない、しかも姉さんが勝手に決めた調査期限日が、本来なら休日であるはずの楽しい日曜日が、嫌でも始まってしまうんだよ? 誰か嘘だと言ってくれっ!


 そんな僕の気持ちとは裏腹に、少しひんやりとした清々しい空気と窓から差し込むキラキラと煌めく朝陽が眼に眩しい。そんな新しい一日の始まりみたいなソレがまた非常にムカつく。いっそ学園全て爆ぜてしまえっ! と、セキュリティ万全なココで、ありえないことを願ったところで所詮、無駄だと分かっている。ああ、分かっているさっ! でも誰だって嫌なことから一分、一秒でも逃げだしたい気持ちってあるよね? 無いとは言わせない。小学生や幼稚園児、保育園児といった幼子だって絶対に一度は経験しているんだっ! そう、あれは僕が四歳の時に……って、今は関係ない話だった。


 とにかく僕は、マリアナ海溝よりも深く深く落ち込んでいた。このまま深海魚になって海の底で細々と生きていきたい。でも、そうすると僕のBL観察堪能ライフがぁ~っ!


「あぁぁぁ~っ、逃げたいっ! どこか遠くに行きたいっ! まさか、こんなことになるなんてっ!」


 入学式までは良かったよ? これからの学園生活、姉さんに邪魔されず期待に胸を躍らせて《隆のBL観察計画書》なるものを作成し一人ニヤけておりましたが、それが何か?


 ああ、あの幸せは一体どこに消えてしまったのでしょうか? 思わず両手で頭をガリガリ掻きむしってしまったよ。頭皮が、ちょっと痛い。爪が伸びてるようだから後で切っておこうっと。まさか血は出てないよね?


「姫、起きているか?」


 自分しかいない部屋で憂鬱な気分に浸っていると、インターホンという文明の利器を完全無視、ドアを四回ノック後に聞き覚えのある声が僕の様子を訊ねてきた。ちっ、やはり今日も来やがったか!


「……は、はいっ! あ、申し訳ないんですけど少し待ってもらえますか?」


 僕は、しっかりインターホンで返事させていただきます。寝坊というワケではないけど、出かける準備ができていないので彼には、しばらく廊下で待ってもらおう。だって断っているのに毎朝毎朝、飽きもせずに目覚まし代わりだと言って僕の部屋を訪れるのだ。休日だってお構いなし。だから待たせても文句は言わせないっ!


 ようやく重い腰を上げ、ベッドサイドに置いた命の次に大事な眼鏡(もの)を手に取る。僕は超ド近眼で、おまけに乱視もあるので眼鏡が必須なのだ。もちろんコンタクトも考えたけど、眼の中にレンズを入れるって行為が怖くて、幼い頃からずっと眼鏡と共に生きてきた。もはや眼鏡は顔の一部で、切っても切れない強い絆で結ばれた相棒で、今の眼鏡(こいつ)とは、かれこれ十年と四ヶ月の仲なのである。僕の腐男子歴よりも長い付き合いなのだ。


「やっぱり、これが有るのと無いのとでは、世界が全然違うなぁ……それにしても、どうして僕なのさ?」


 相棒と一緒に洗面所に向かい、鏡を覗いて首を傾げる。髪の毛ボサボサの、どう見ても青っ白いガリ勉小僧が(そこ)にいる。


「どう見ても典型的なオタクそのものなのに。とはいえ自分の素顔って、生まれてこのかた、はっきり見たことないからなぁ。もしかして王道展開の眼鏡を外したら美形ってことは……ないよなぁ! ハハハハハッ……はあぁ~」


 乾いた笑いになってしまった。とりあえず蛇口の水で顔を洗い、そのまま跳ねている髪を濡らして千円カットで貰ったプラスチックのクシで直していると廊下が騒がしい。


「ん? なんか外が騒がし……あぁ、彼も来たのか。ああ~っ、マジ面倒くさいっ!」


 どうやら目覚まし二号が来たようだ。それにしても、どうして彼らは僕に構うのだろう。上流階級の人間は、一般庶民がそんなに珍しいのか? それとも自分たちの引き立て役に野暮ったい僕を傍に置くのか? とはいえ目の保養になるから、まあいいか。あ、歯も磨かないと!


 彼らをドアの前で待たせること十五分。


「……おはようございます。ああ、僕にとって不幸な一日が始まってしまった」


 準備が整い、真新しい制服を身に着け岩戸に隠れた女神様の如く、おずおずと玄関のドアを開ければ、照明器具などないのに目が眩むほどの後光をまき散らして立っている、明らかにタイプの違う美形二人が、こちらに気づいて破壊力バツグンの笑みを浮かべ挨拶してきた。訂正します、神様は僕ではなく、こちらの二人でした。


「姫、相変わらずで何より。今日の朝は、姫のリクエストに応えて白米に長ネギと豆腐の味噌汁、ちょっと甘めの厚焼き玉子に鮭の塩焼き、ほうれん草のお浸し鰹節付きという庶民的なものを用意させた。海苔は、確か韓国海苔を希望だったな?」


 高校生なのに大人っぽい低音ボイス、同じクラス【若】の櫻森くん。


「福田くん、おはよう。今日は、定例会議があるから一緒に行こうね。僕も福田くんと同じ朝食にしてもらったから楽しみだなぁ」


 男だけど女性のような澄んだ声音を持つ同じ学年で【姫】の柳橋くん。


 うわぁ、ありえない。二人とも芸能人よりも整った顔と、男でも腰にくる種類の違う声優さんばりの美声で、何故か庶民の朝ご飯の話をしているよ。もしこれで愛の言葉を囁いていたら、女の子は間違いなく孕んじゃうね! いや、昇天しているかもしれない。くそっ、どうして天は二物も三物も与えたのか……羨ましいっ!


 それはさておき確かに僕は、昨日の夕食時に言いました。


 実家にいた時の朝食が懐かしい、と――。


 でもね、すでに次の日のメニューが決まっているのに何気ない僕の一言で庶民の朝食を用意させるとは、何たることですかっ! 職権濫用も甚だしいですぞ。ここは断固抗議しておかねばっ!


「あのね、櫻森くん。用意してくれたのは非常に、ありがたいんですが厨房の皆さんに迷惑かけるからいいよ、って僕、昨日ちゃんと言ったよね?」


「ここの厨房には、和食担当の板前が常駐しているから問題はない」


「そうだよ。食品アレルギーを持っている生徒も少なからずいるから希望を聞くのは当たり前。それに希望するものを作れないのは、食に携わる職人としてあってはならないこと。気にすることないよ」


 お二人ともセレブな発言、ありがとうございます。


「櫻森くん、柳橋くん……今言ったこと、くれぐれも厨房の方々に言わないでね? 気を悪くされると思うから」


 この学園の理事長のご子息である櫻森くんと日本屈指の大企業、柳橋財閥の次男である柳橋くん。どうして一庶民である僕が食事を、ご一緒しなければならないかを説明しよう!


 僕のクラスの【若】は、当然のことながら満場一致で櫻森くんに決まりました。しかも、うちのクラスだけ今年度の役員が二人とも未経験の新人さんなんだよ? 本来、役員になるはずだった子も納得って……ちょっと納得しないでよっ!

 

「本当は、この僕(俺)がやるはずだったのにっ!」


 と、拳を震わせて悔しがってくださいよっ! 何、ニコニコ笑って拍手しているんですかっ! おかしいでしょう!


 そして翌日、親睦を深めるために定例会議前に急遽、一年生役員の顔合わせをすることになって放課後、談話室に集まったんだよね。そこで同じ【姫】の柳橋くんと会ったんだけど、いきなり個人的に、ご丁寧な挨拶と自己紹介をされて内心ビビってしまったヘタレな僕。だって財閥の御曹司でありながら【姫】に恥じない美貌の麗人に微笑まれ、しかも庶民出の僕が、彼のお友達として公式認定されたんだよ? 柳橋くん、なんて恐ろしい子っ!


 そんな僕のヘタレな様子に、それ以外の【若】と【姫】は、隣とヒソヒソ、時折クスクス笑っていた。どうせ僕は間違って選ばれた【姫】ですよっ! フンッ!

お読みいただき、ありがとうございました!

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