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その3

前回の投稿から、だいぶ時間が経ってしまいました。

待っている人、いるのでしょうか?


 初対面の人に容姿のことで笑われるのは昔からだし、もう慣れた。だからといって全く傷付かないわけではない。幼稚園時代は、どうして笑われるのかわからなくて、いつも泣きながらバスを降りてくる僕に母さんは嫌な顔せず慰めてくれたっけ。


「隆、覚えておいてね。人の第一印象は見た目だけど、最後は中身だから。自分を卑下してはダメよ。外面より内面を研きなさい。背筋を伸ばして顔を上げ、しっかり前を向いて相手と向き合うこと。そうすれば自然と信頼できる人が隆の周りに集まってくるわ」


 この言葉を胸に、めげずに声をかけて僕のことを知ってもらえば小、中学時代と同じように櫻森(ここ)でも友達ができるかもしれない!


 ちなみに、卑下してはダメだと言われた幼稚園児の僕は、卑下という言葉を顎に生える髭のことだと勘違いして髭を生やすと友達ができないのだと脳内にインプットしてしまい、オシャレなメンズの顎髭を見るたびに『可哀想に、あの人には友達がいないんだ』と思っていた。しかも仙人のように髭が長ければ長いほどボッチなんだ、と哀れんでいたんだよね。ああ、恥ずかしい! いやでも仙人って基本ボッチだよね? 強(あなが)ち間違いではないのかも?


 時間になり僕を笑っていた学級委員たちが、それぞれ指定された席に着き、一組から自己紹介を始めた。


「姫」


 昔を懐かしんでいたら突然、声をかけられて顔をそちらに向ける。そういえば髭と姫って音が似てるよね? えっ? 似てない……そうですか。すみませんが今の発言、忘れてください。


 話は戻るけど【若】である櫻森くんは、僕のことを苗字の福田でも名前の隆でもなく何故か役職の【姫】と呼ぶ。自分にそぐわない呼称だから止めてほしい、と何度も言ったのに一向に止めてくれない。もしかして僕、櫻森くんに嫌われてるの?


 はっ! まさか、これって実はイジメだったりして? 柳橋くんは櫻森くんと幼馴染みって言っていたから同じ【姫】でも、庶民で凡庸な僕がセレブで稀有な存在の柳橋くんと親しくするのが許せないとか? そういえば柳橋くんから声をかけられた際に一緒にいた櫻森くん、さりげなく僕を遠ざけようとしていたなぁ。


 えっ、もしそうだとすると実は櫻森くん、柳橋くんのこと好きなのかも? そうじゃないかなぁ、とは思っていたけど、まさかまさかの美味しい展開ではないですかぁ! そうと決まったら大至急、二人の観察日記を作らないと! あ、そうだ。姉さんにも報告しないといけないなぁ。これから忙しくなるぞぉ!


「姫、眼鏡のレンズに指紋が付いてる」


 そう言って櫻森くんは、妄想に耽っていた僕から、あっという間に眼鏡を奪って……ではなく外してしまう。一瞬にして景色が変わったからびっくりしたよ。ピントが合っていないカメラの画像のように、全てのものがボンヤリしております。正直、目の前の人が櫻森くんかどうかも怪しいくらいボンヤリしております。大事なことなので二回言いました。


「ちょ、ちょっと櫻森くん? 自分で拭くから返してよ!」


 櫻森くんが今、何をしているのか分からない。お前、寝てるのか? と言われるくらいに目を細めないと目の前にいる櫻森くんの顔のパーツが判別できないので彼が持っている僕の眼鏡が、どういう扱いをされているのか不安で仕方がない。だって彼は、愛する柳橋くんを守るために僕を排除しようとしているのだから!


「ほら、ジッとして」

 

 櫻森くんがやっと返してくれました。うん、視界バッチリ! よく見えます。


「やっぱり姫には、この眼鏡が必要だな。そうだろう?」


 そう言った櫻森くんは、こちらを見ている【若】たちと【姫】たちを一瞥した後、鼻で笑ったんだけどさ……どうしたの? 皆の表情が、さっきと全然違うんだけど! 真っ青な顔色の人や放心状態の人が多数おりますけど、どうなさったんですか? どうやらあまりにも平凡な僕の顔に言葉も出ないようです。そうですよねぇ、だって綺麗な胡蝶蘭の中に道端に咲いている花が混じっていたら、そういう反応になりますよね。


 ところで眼鏡が必要って、僕にとっては当たり前の事だけど櫻森くんにとっては素顔も大したことないって言いたいの? それをわざわざ伝えるために眼鏡を奪ったわけ? よし、櫻森くんは柳橋くんとラブラブになって僕に萌えの提供してもらうことにする。覚悟しな、櫻森くんっ!


「ふ、ふ、福田くんっ! 君は、そのままでいいからね! 高校デビューなんか考えちゃダメだからっ!」


 と、やっと声をかけてくる人がいれば――


「ヤバイ、これはヤバイッ! とりあえず一学年全体で彼を保護しなければっ! 先輩たちには、しばらく内緒にしておこうぜ?」


 と、放心状態から一変して興奮している人もいて――


「……ま、負けた。眼鏡というアイテムでカモフラージュしていたとはっ!」


「だから御二人は、彼の側にいるのか……納得です」


 と、ガックリと肩を落としている人がいる。


 昔、姉さんや小中学校の友達が、よくわからないことを言っていたんだ。周りの人を黙らせるには眼鏡を外すことだって。そんなことで黙らせることができるかっ! 見ろっ! 現に周りは大騒ぎしだしたよ。


「う~ん……この方法は、最終手段として使うはずだったんだが。柳橋、どうする?」


 苦虫を噛み潰したような顔というのは、おそらくこういう顔のことだろうと、こっそり櫻森くんの顔を見る。そんな顔でもイケメンはイケメンですな。眼福でございます。


「でも君のクラスメイトは知っているんでしょ? なら時間の問題だよ。あっ! 写真を見せても本人、自覚してないから意味ないそうだよ」


 それ、誰のことですか? 写真の自分を認めないなんて、そんな人がいるんですね。


「はぁ? そうなのか?」


「眼鏡(アイテム)無しの写真を見ても信じないって。以前、スマホで撮った写真を、その場で直(す)ぐ見せたんだけど『最近のスマホは加工されたものが出てくるんだ、スゴイねぇ』と言われたんだって」


 桜森くんと柳橋くん。二人でイチャイチャするのは構いませんが、この空気、どうすればいいですかね?

お読みいただき、ありがとうございます!

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