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2話 飼い犬、救う

「もう……終わったのですか」

「ああ、案外と楽に済んだよ」

「そうですか……なら、よかった」


 戻って早々、エルフは膝をついて泣き始めた。

 つい先程まで盗賊に襲われていたんだ。この世界の情報に関しては大して与えられてはいないが、普通に考えて日常的に起こるような事でも無いだろう。特に精神的な面での傷は尾を引きやすいものだしな。


「よく、頑張ったな」

「……いいえ、こんな事に巻き込んで」

「君が呼んでくれなければ死んでいた身だ。気にせずに接してくれ。それに君にはまだやる事があるからな。泣いている暇があるのであれば救える命を救う方が先決だろう」


 この世界に呼ばれた事自体は不本意極まりない。

 それでも俺は静を庇って死んだ身だ。むしろ、生を繋げただけまだマシだろう。転生……だとすれば悪くない話だ。ここで大切になってくる事は目の前の女性の召喚士という職業、召喚が出来ても帰還は出来ないなんて結果は想像に容易い。


 ただし、その手が無いという確証も無いだろう。

 別に目の前のエルフに力が無くともいい。問題点は俺を召喚するだけの力があったという事だ。無いのであれば鍛えていくまで、少なくとも静が望んだから俺は今のようになれた。そのために必要なのは……恩と感情だな。とはいえ、そんな事は彼女の心が癒えるまでは必要にもならないが。


「君は……いいや、君と呼ぶのは失礼か」

「……私は、イザベラと言います。貴方様を召喚したのは他でもありません。私が暮らしていた村を盗賊が襲ってきたのです」

「ああ、知っているから引け目を感じなくていい。俺だって大切な人達が襲われていたのならば藁をも掴む気持ちで力を行使していた。それでイザベラに聞きたい事がある」


 得た情報の整理をしたいところだけど……。

 いいや、彼女の心を汲むのであれば俺の都合よりも先に相手の都合を考えるべきだ。少なくとも生きている村人達を一箇所に集めはしたが、六割方が傷を負っていて死にかけだって多くいる。恩を売る相手は多くて困る事も無いが……。




「イザベラは魔法が使えるか」

「……私はエルフです。魔力操作に関しては自信があるのですが……」

「魔力が尽きている、それと必要となる魔法を覚えていないといったところか」


 イザベラは苦々しい顔で首を縦に振った。

 分かっていた事ではあるが本人から口にされてしまうと来るものがあるな。神眼で見た情報からして持っている魔法は召喚魔法だけなのだろう。対してフェンリルとなった今の俺は───




 ____________________

 名前 (セットしてください)

 年齢 0歳

 レベル 5

 固有スキル

【状態異常無効】【神眼:鑑定】【完全隠蔽】【完全偽装】

 スキル

【速度上昇LV1】【加速LV1】【威圧LV10】

 魔法

【神聖魔法LV10】【白魔法LV10】【幻想魔法LV10】

 ____________________




 ステータス、この世界の者に与えられた力だ。

 日本で言うところのマイナンバーカードの最上位互換と言ったところか。この情報を見る限り持っているスキルはかなりのもののようだが……彼女の言う魔力操作の部分で躓いてしまっている。いいや、使えるかどうか分からないからこそ、怖いと言うのが正しいか。


「イザベラ、君が俺に感謝をしているなら力を貸せ。それこそ、魔力接続という固有スキルを持つ君で無ければ出来ない芸当だ」

「……聞きません。ただ、従います」

「今はそれでいい。きっと、君にしか頼めない事だからな」

「そう、ですか」


 少なくとも、今の状況ではそれが最適だと思う。

 神眼の分かる範囲はステータスを除いて、スキルの詳細や相手の大凡の強さだ。盗賊相手に向かっていけたのは相手が自分よりも圧倒的に弱い事が分かっていたからに過ぎない。だからこそ……少しだけ、ムカついてしまったんだ


 イザベラを抱えて一気に走った。

 息を飲む音……分かっている。崩れた家や燃え尽きた後、それに加えて多くの死肉が転がっているんだ。女は弄ばれ、男は爪を剥ぐ等の拷問紛いな行動を受けて殺されている。ハッキリ言って気分が悪い。でも、見て見ぬふり等、出来やしない現実でもある。


「あ、貴方は……!」

「すまない、村長。イザベラを連れてくるのに時間がかかってしまった」

「いえ……ですが……」

「彼女は私の力で魔法を得た。その補助を行うのが私の仕事だ。だから、安心して待っているといい。刮目しろ! ここに新たな神聖魔法の使い手が現れるのだからな!」


 俺には分からない事が一つだけある。

 それはイザベラがどうして人族の村にいるのかという事だ。彼女は異端な存在だと言っていい。だというのに、まるで彼女を守るために家の周りには多くの村人の死体があった。助けたい……そんな風に思わせる彼女は一体、何だというのだろうか。


「私の名前はフェル! 一介の神狼の力を身に宿した存在である! イザベラは私を召喚した契約者であるぞ! その生死の全てを賭けよ!」


 横にいるイザベラの手を取ってやる。

 震えている……そんなのはお互い様だ。ここまで啖呵を切っておいて上手くいかなかったらどうしようかなんて恐れている。人の命を殺す事なんて誰でも出来る事だ。だけど、逆の事は誰で出来る事なんかではない。


「頼むよ、飼い主様。ここにいる皆を助けてあげたいと思ってしまう……そんな俺を救ってくれ」

「……ええ、ここに宣言します。イザベラはフェルを従魔とする事を。そして振るいましょう。救える者達がまた前を向けるように」


 弱さなんて誰もが抱えているものだ。

 だから、俺達は自分の弱さを受け止めてあげなければいけない。俺の弱さは君が、君の弱さは俺が受け止めてあげれば目の前の者達を救うなんて簡単な事だ。それもこれも……皆に会うための事でしかない。






「我は歌う。我が神のために」






「私は歌う。落し子のために」









『残るは君のため……回復ヒール


 光魔法で行える簡単な、最下位の魔法だ。

 それでも神聖魔法に落とし込んだ力は比較する方がおかしなものだろう。神に許しを乞うて行う魔法が神聖魔法だ。その対象が神狼と呼ばれる神本人なのだから劣る訳が無い。


「これ、は……」

「言ったはずだ。我が主に生死を賭けろ、とな」


 全員の傷が癒えた。もう、問題は無いだろう。

 神眼というのは本当に使い勝手がいいな。見ただけでステータスと一緒に問題ないかどうかまで判断出来るんだ。同様に……いいや、そこに関しては後回しでいい話か。さすがに疲れてしまったみたいだ。


「イザベラ、君は良い魔法使いになれるよ」

「召喚士にそんな事を言っても……いいえ、有り難く受け入れさせて頂きます」

「ああ、本当に……助けられて……」


 もう、限界か……ああ、視界がボヤけていく。

 静……俺、少しは……頑張れたかな……。

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