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それぞれのモテ事情【ユリーシア】


「貴女に魅せられてしまいました。これからもずっと、貴女を見つめていたい!」


 頬を染めながら、わたくしに右手を差し出してくるのは、デリック・クロワ辺境伯令息。シュシュさんの、()()()()だ。

 以前は敵対していたと言っても良いくらいの関係だったけれど、和解出来ると言うのなら願ってもいない。あの日のライブは、それが目的だったのだから。


「光栄ですわ。でも、ええと……、」


 この手を取ってしまって良いものか。考えあぐねてしまう。『アイドル』としてのわたくしを認め、応援してくれているということなのか、あるいは、恋愛感情の吐露なのか。


 前者ならば、喜んで手を取りたい。後者ならば、その気持ちは嬉しくとも、応えるわけにはいかない。


「わかっています。ついこの間まで、シュシュに良いところを見せようとするあまり貴女に無礼な態度を取っていた。シュシュだってそんなことは望んでいなかったのに。今更虫が良すぎると自覚はしていますが……、フォンスと同じように、貴女の輝きを見つめていきたい」


 どうやら、愛の告白ではなくファン宣言だったようだ。これからもルルと共に『アイドル』の道を進むわたくしとしては、これほど有難いことはない……が。解消しておきたい疑念がある。


「応援してくださるようでとても嬉しいわ。わたくしにも、グラシュー侯爵令嬢にももう敵意はないということで宜しいのよね?」


「はいっ。あの日の舞台は、彼女の支援により実現したと聞いています。感謝こそすれ、敵意など。ああっ、彼女にも謝罪をしに行かないと!」


「謝罪よりも、貴方が『アイドル』に興味を持ってくれたという事実の方が喜ぶと思いますわ」


「はいっ、それももちろん感謝と共にお伝えいたします!」


 ルルの人生の目標は、『アイドル』をこの世界に拡めることだから。もちろん、わたくしとしては彼女への謝罪もしてほしいところだけれど。

 それから、もうひとつ。


「シュシュさんとは、どのように、」


 どのように、なんて聞き方も不自然かもしれない。けれど、仲違いのような決定的ななにかがあったわけでもないので、仲直りしたのかなんて尋ねるのもきっと違う。


「シュシュとは……」


 彼の神妙な面持ちに、緊張が伝染してしまう。シュシュさんも、わたくしの大事な友人。彼らが以前のような親しい関係に戻ることは無理だとしても、妙に拗れていないことを願うばかりだ。


「この前、喧嘩になりました」


「!」


 思わず身構えてしまうけれど、目の前のクロワ辺境伯令息は、先程までの真剣な表情を崩し、照れたように笑っている。


「ユリーシア様がこんなに素敵な人だと知っていたなら教えてくれれば、と言ったら、話を聞かなかったのはそっちでしょって怒られてしまったんですよね。俺は……、シュシュのことを嫌いになったわけではないんですけど、前まで彼女に抱いていた執着心みたいなものが無くなってしまったんです。だから、ずっと一途にシュシュを想い続けているフォンスの恋を応援したいし、以前のように四六時中一緒に過ごすことはないけれど、ほどほどの距離感の友人として仲良くしていますよ」


 それを聞いて、ようやく安心出来た。わたくしの大事な二人が、どちらも安寧の日々を送ることが出来るのなら。

 差し出されたままだったその手も漸く取ることが出来る。律儀にも、会話の最中もずっとわたくしを待っていてくれたのだ。


「そう。わたくしの可愛いお友達とも仲良くしてくれるのなら嬉しいわ。これからも応援していただけるように精進致します」


 触れた掌を握って微笑むと、慌てたように一瞬握り返され、けれどそっと解かれた。


「あ、あああありがとうございますっ。女神と名高いユリーシア様に、こんな、……あのっ、ずっとずっとファンですっ。推します、って言うんですよね! 次のライブも、開催してくれるのなら必ずっ! 行きますからっ!」



 照れくさそうに去っていくその背中を見送る。ああ、なんて可愛らしい。顔を合わせれば身に覚えのない小言を言われるばかりで、煩わしいとさえ思っていた相手なのに。

 わたくしを応援してくれるというファンの存在は、等しく愛おしい。この幸せは、ルルが教えて、与えてくれた。


 気分転換と、弟の恋路の応援。それだけで始めた『アイドル』だったけれど、誰かの笑顔を見るのが幸せだと、そう感じるようになってしまった。


 もとから、わたくしには将来の選択肢があった。

 エール公爵家を継ぐか、どこか他の家へ嫁ぐか。


 公爵家という家柄にそぐわず、随分と子どもたちに寛容なお父様は、もし嫁ぐ道を選ぶのならばわたくしが本当に愛した相手であれば家格は問わないと公言していたくらいだ。第三の選択肢で、『アイドル』を選びたいと伝えた際も、快く受け止めてくれた。きちんと成果は出せ、と念を押しながらではあったけれど。


 文化交流会を終えて、改めて『アイドル』を商業展開していきたいと相談しに行った。

 お父様は、心底楽しいという表情を隠しもせず、けれど声音だけは厳しく取り繕って、こう告げた。



 一定期間ごとに予算と条件を出す。そのすべてを達成してみせろ、と。



 クレイスにも、条件は出されたようだった。わたくしが結婚をせず『アイドル』を選ぶ以上は、跡継ぎの問題が出てくる。

 公爵家、それからクレイスの生家である侯爵家の後継ぎが必要だということを考えておけ、と。それを聞いて複雑そうな顔をしていたのは、まだ先のこととはいえ、出産という未知の痛みについてだろう。クレイスはルルと突然交際を始めたかと想えば、当然のように将来を共にするつもりで居る。確実にそういった未来は来るのだろうけれど。



 幼い頃に血縁を亡くしたからか、クレイスは随分と痛みや悲しみに敏感だ。命を迎えるというのは尊いことだけれど、大事なルルに痛い思いはしてほしくないのだろう。

 事情があるとはいえ、あの心配性を煩わしく思われてしまわないかと不安になったこともあるが、ルルは優しさだと言って受け止め喜んでいるようだった。


 いつからだろうか、弟の恋路を応援するはずが、ルルは弟の想い人という以上に、わたくしの大事な女の子になってしまった。恋慕ではないけれど、ルルの一番がクレイスだということに、少しだけ嫉妬している。

 以前、夜会でどこぞの貴公子にお誘いを受けた時だって、ルルと過ごしている時間ほど心が弾むことは無かった。


 わたくしに道を示してくれた彼女と、これからも共に歩んでいきたい。

 我が家に遊びにきていたルルに、お父様から提示された条件を告げると、心底楽しそうに返された。



「ゲームのミッションみたいで、わくわくしますね!」



 少しの不安も感じさせないその笑顔は、やはり誰よりも愛おしかった。



 読んでくださってありがとうございました!


 もし宜しければブクマや評価などいただけましたら喜びます。


 実は小僧はあと一人居るんですが、大分長くなってしまったので二部用の連載ページを用意してそちらに掲載しようと思います。

 まだお話を終わらせる目処が立っていないので、来月くらいになる予定です。


 サブタイトルは『新人アイドルと痴漢小僧』とかそんな感じです。ふざけてはないです。本当です。


 まだ番外編を書きたくなるかもしれないので、こちらは閉じないでおきます。


 番外編四篇、本編以上に癖をたくさん詰め込んでしまいましたが、読みにきてくださった方がいたことが本当に嬉しいです。


 この作品を読んでくださった皆さまが楽しい気持ちになれたなら、それが何よりの幸せです。

 皆さまが素敵な毎日を過ごせますように。

 

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