異聞録 ダミアン
「ダミアン様ぁ、もう1回しませんか?」
僕がベッドを離れようとすると、女が手を掴んできた。
舌打ちしそうになるのを堪えて笑う。保健室の利用は計画性が大切なのだ、延長なんてできない。出禁になんてなったりしたらまずい。
「駄目だよ、もう先生が帰ってきちゃうからね。」
「じゃあ先生も混ぜてあげましょうよ、あの人喪女だし喜びますよ?」
引く気は無い、と女の目が語っている。
王子に我儘だなんていいご身分だ、愛されているとでも思っているのか?
「駄目。それに君の後に誰かを抱く気にはなれないよ。」
「もうっ、ダミアン様ったらぁ!」
満更でもないとにやける顔を、できるなら踏み潰してやりたい。こいつも王子という地位目当てで近づいてきた女だ。すべては手のひらの上だと思い込み、実は踊っているのは自分だと気づかない愚かな女。都合のいい女。
中等部の制服に変わって急に装飾が多くなり、着る手間もかかるようになった。まずい、もうすぐ先生が帰ってくる時間だ。僕は急いで制服を着ても、一向に女はベッドから動く気配がない。
「ほら先輩、着せてあげるから、早く行こうよ」
「んー、キスしてくれたら動いてあげるぅ」
ん、と唇を突き出される。気持ちが悪い。胃の中のものが込み上げるのを抑えて、僕はその口に自分の唇を重ねた。
キスというのは、ミュリーとするものだ。それ以外は違う。食事の時に食べ物が唇に当たるのを気にするやつがいるか?
自分を納得させて唇離すと、女は不満そうに頬を膨らませた。
「……これだけ?」
「これだけ。続きはまた次にね。」
この仕草をミュリーがしたなら可愛いだろうに。この女がしてもまったく何も思わない。たくさんの女と関わりを持てば持つほど虚しさだけが募るのだ。ミュリーといれば満たされるのに。
渋々服を着た女と保健室の前で別れたあと、僕は旧図書室に向かった。次の女が待っている。
どいつもこいつも金目当てだ。全員に言いたいが、分からないとでも思っているのか?目が口ほどにものを言ってくれていると気づいていないのか?
王子の婚約者がみんな受ける嫌がらせがミュリーに起きないのは、他ならぬ僕の長期にわたる努力で、僕が敵を作らないからだと、ミュリーは気づいてくれないのか?
扉を開けると、本のない書架にもたれた女がこちらを見ていた。
「やっと来てくれた」
「ごめんね、遅くなっちゃった」
女が待つ場所へ歩みを進めると、彼女に近くの椅子に座るよう促された。座ると、女は僕の膝に乗り、向かい合わせに座った。
「…ダミアンくん、最近背が伸びたよね」
「そうかな?自分じゃわからないけど」
「伸びたよ。体も男らしくなってきた。…私が男にしてるのかな?」
「そうかも」
煩い口を口で塞ぐ。何で馴れ馴れしく友達言葉で話すんだよ。男になったのは随分前だよ。俺が本気になれるのはミュリーだけだよ。
とろんと蕩けた顔をする女と反対に冷めた心は何かを喚くが、体は心とは裏腹に更に熱を求める。面倒くさいことこの上なし。
この女はこれっぽっちもミュリーに似ていないけれど、ミュリーの顔を思い出しながら僕は女を求めた。




