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番外編 儀式の間の祭壇にて

儀式の間にて、杖に生贄を捧げる直前(本編第三話後半)の話です。


今回は直接的な表現は一切使っていませんが、全編にわたって性的なシーンが描かれます。苦手な方はご注意ください。

「んっ」


 二人は唇を重ねた。

 ジュラールの片手はリズの髪を触り、もう片方は背中を抱いていた。そして、ゆっくりと気遣いながら、ジュラールは彼女を祭壇へと押し倒す。

 二人の影が、一つになった。


 ジュラールは、リズの首の下に腕を回す。空いた手で触れるさらさらとした彼女の髪の毛は、滑らかで手に馴染むように彼の手を滑り、流れていく。その様子を感じ、見るのが楽しかった。


「くすぐったい……」


 リズは少し笑い、口を尖らせて言うが、ジュラールは手を止めなかった。

 彼女が、自分と比べてかなり平然としているに見えたから、意地悪をしたくなったのだ。

 ジュラールはこれからやってくる、初めての——未知の時間に緊張していた。リズを不安にさせたりしないだろうか……何よりも自分の経験不足——いや、経験ゼロのせいで痛みを与えたりしないだろうか。それが心配だった。心配でたまらなかった。

 それなのにリズは何事でもないように、普段通り白い花のように落ち着いているように見えた。


 しかし……実際は、彼の思いと違っていたのだった。


 リズは、戸惑いを必死に隠していた。

 彼に触れられるのは、とても嬉しく、心を満たしていた。体の中心が熱くなり自らの意思とは別に、ジュラールを求めていた。

 彼が肌に触れる度に、少し高い不思議な声が出る。


「あっ」


 こんなことは、全く経験がなかった。だから対処の方法が分からない。

 リズは、必死に漏れる声を小さくしようと試みる。しかし、それでもこみ上げてくる熱風が、鼻の奥から漏れ出ていた。

 ジュラールがより深く彼女に触れる度に、びくんと反応してしまう。


 男に触れられることなど娼館でいくらでもあった。その時は、嫌悪と痛みしか感じなかったが今は全く違う。

 全身が紅潮し、熱くなりざわつく。まるで自分の体が別のものになってしまったような錯覚を覚えるが、それを自らが求めていることに気付く。


 大切な人に触れられるというのは、こんなに心も、身体も喜ぶことなんだ……リズは、深く感動する。と、同時にどうしたら彼にこんな自分を見せないで済むか、考えていた。なんとかしないと……彼が不快に感じないだろうか?


「ああぁっ」


 いつのまにかリズは仰向けになり、ジュラールが服を少しづつ脱がしてくれていた。そして……彼の指が敏感な肌に触れ、ひときわ大きな声が出てしまった。自らの鼓動に耐えらない。彼女は非常に恥ずかしくなり。顔を両手で覆い隠す。


 それは、リズにとって初めての経験であった。


 未知の時間だった。でも、ジュラールなら安心して任せられる、そう感じられる。できる限り、その邪魔をしないように気を張った。

 相変わらず顔を隠していたのだが、指と指の隙間から彼を見ると、さっきの真剣な顔から少し口元が緩んでいた。自分の仕草を見て、余裕が出たのかも知れない。リズはそう思った。


「顔が見たい……」


 彼が少し顔を紅潮させて言った。リズは、その言葉すら恥ずかしくて仕方なかったのだが、思い切って自分の顔から手を放し、前に伸ばした。

 ジュラールの顔が近づき、リズは彼を抱き締める。そして再度唇が触れあった。

 深く絡み合うそれは、とても熱く滑らかで……甘美な刺激をリズにもたらした。


「いい……?」


 彼が何を言っているのか分かる。答えるのも照れ、躊躇った。結果、こくんと頷くだけに留めることとなる。ジュラールの顔を直視できないほど、恥ずかしく感じた。

 どんなことも、何もかも過去の経験と全く異なっている。初めての相手が彼でよかったとリズは改めて思うのだった。


「う…………」


 この時だけは、リズが少しだけリードをする必要があった。一瞬見せたジュラールの困った顔を、とても愛おしく思う。


 そして——。


「ジュラール!」


 今一番、求めているもの。彼が与えてくれたことに感極まった結果、思わず、彼の名がリズの口から放たれた。

 目頭が熱くなり、やがてそれは熱い水滴となって頬を伝った。そして、それを拭うのはいつも、ジュラールだった。

 互いが密着していく。しかし、その刹那……


「あっ…………?」


 不意にジュラールの声が聞こえた。彼の振動が伝わり、体の芯が温かくなる。そして、動きを止めたジュラールが体重をかけてきた。

 彼の息が荒い。精一杯頑張ってくれたのだ。リズは、もう愛しくて愛しくて仕方なくなり、彼の背中を抱く腕に力を込めた。そして、頭を撫でる。自分の胸に顔を預けるジュラールを可愛いと思った。

 互いの息が少し落ち着く。


「リズ…………。大丈夫?」


 彼は他の何かを言いかけたが、それを飲み込んで、心配の言葉をかけてくれた。


「うん……大好き」


 最初、かすかに痛みはあったかもしれない。でも、もうそれが本当にあったことなのかよく分からないし、些細なことだとリズは思う。

 ジュラールが言葉を紡いだ。


「私もだ……リズのことを……会った時からずっと好きだった」

「やっと。言ってくれました」

「ん?」

「好きって、なかなか言ってくれなくて」

「……そうだったか? 十分に言ってないか?」


 リズは、また口を尖らせて言う。


「もっと言ってください」

「……ああ……そうする」

「約束ですよ?」


 リズは、最後の我が儘を言った。それが叶えられなくても、私のことが彼の心の何処かに残って欲しいと願いながら。


「あの……リズ?」

「はい」

「その……」


 珍しく、ジュラールが言い淀んでいた。彼のこんな姿は滅多に見られない。

 いつも堂々と、落ち着いていたのと別の一面を見てリズは嬉しくなった。


 この人は、一体どれだけの喜びを与えてくれるのだろう?


「何ですか?」


 リズはなんとなく、彼と触れている所が熱くなってきているところから察していたが、敢えて聞いてみた。


「もう一回……」


 リズは確信すると、再び恥ずかしくなった。顔から火吹き出しそうになり、消え入りたいと思い始め、体全体が紅潮する。


 それでも彼女はしっかり、こくり、と頷いたのだった。

 二人にとっての、初めての、最後の時が過ぎ去っていった。



 身なりを整えた彼らが残すのは、杖に生贄を捧げる儀式だけである。


 リズは既に、覚悟など不要だった。地獄から救ってくれた彼と再会し、城の人たちと過ごしたこの六年間は幸福に満ちていた。そして先ほどの夢の中のような時間。彼の言葉。これ以上何を望むことがあるのかと感じていた。

 あとは終止符として、生贄として我が身を捧げるだけだ。


 一方、ジュラールは覚悟をしていた。我が身を生贄として捧げるのだ、と。


 最後の時が、近づいていた。



 ******



 戦争が終わってしばらく経ったある日。

 王の自室に、ジュラールの声が響く。人払いをしており、部屋の外に護衛が数人いるだけになっていた。


「リズ、好きだ…………。うーん、イマイチ決まらないな…………リズ、好きだよ…………うーむ……」


 リズの最後の我が儘を叶えるために、懸命に努力をしているジュラールの姿が、そこにあった。



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