王伝編集官 異伝 ジェノス①
王伝編集官 41話後の内容です。
アンナとキセから別れ一人テントに潜りこむと眠気はすぐやってきた。思った以上に疲れていたのか。眠るためだけの場所なので明かりはないが、指先に小さな光球を点し頭上に浮かせた。瞬きの回数も増えながらも考える。自分は兄に並べるのだろうか、追い越すとまではいかなくても。今はこの光球のように頼りない。
記憶にある一番幼い頃にはアンナもキセもいた。両親に兄とその友、生まれたばかりの妹。いくつもの思い出がそばにあり、心が曇らぬよう明るく照らしてくれる。進む道と共に。
5年前、[三大陸会議]がルシネイラ国の告知によって行われた。通常は月に1度映像による通信会議であったが、その時はアラステイを会場として各大陸より10名が集った。これだけでただ事でないとわかるものだった。当時7才だった自分も兄と共に父の後ろに控えて会議を見守っていた。挨拶もそこそこに始まった内容に一同呆然とし言葉がなかった。それもそうだろう、自分にもわかる言葉だった。『厄災』と称されたこの先起こると断定されたもの。この世界の外から送りこまれた害ある存在。基本そのようなものが進入できないよう護りがあるのだが。
「大丈夫かい、ジェノ?」
「はい兄上、ご心配かけました」
「長い時間よくがんばったね。部屋でお茶にしようか」
こくりとうなずく。兄は褒めてくれたがどこか納得できてない。自分のいままでのがんばりなど消し飛んでしまうような恐怖があったから。生まれてはじめての感情は兄に疲れているように見えたのは幸だった。ひざを折って目線を合わせてくれた兄は頭をなでてくれて、目を閉じ気持ちを落ち着けようとしていると
「それ私もご一緒していいかな?」
その声に驚き目を開けると、兄の横から見上げる空色の瞳があった。息を飲むほどのきれいな色が近くにあったため、動揺と混乱の合わせ技で兄より先走る。それはそれは勢いよくお辞儀したのだ。目の前に兄がいるのに。
「はいっ、どうぞよろしくおねがいします」ゴンッ
あまりの痛みに目の前が真っ白になりうずくまる。兄に申し訳なく涙目になった。すると額にぺたりとやわらかい感触。じわじわと暖かさが染にみ込んでくると痛みは消えていた。もう一度目を開けると彼は心配そうに見つめている。お礼を言うんだ。わかっている。だけど3人見合っている数秒、その先
「「「あはははは」」」
なんで怖かったんだろうと疑問になるくらい、それは解れて溶けていった。知ろうともせず見ようともせず怖がることの愚かさは、笑い倒して終らせよう。この後3人は互いに名を呼び捨てあう。思い出すときは眩しい笑顔と共に。
あれから4年過ぎ、その間彼はよくお忍びで来ていた。詳細は、・・・うん濃かったかな。そのまま思い出にふわふわ漂っていたらいつのまにか眠っていた。あの人は夢の中でも励ましてくれるのか。小さなあくびと伸びをしてジェノは目を覚ます。テントの外に出るとキセはすでに起きていて剣の素振りをしていた。しばらく見てるとアンナがやってきて何か話し出した。詰め寄るアンナにたじろぐキセ。するとアンナはキセを絞めあ・・・スキンシップと言っておこうか。周囲の空気がざわつく程度には目の毒らしいが。
「アンナ、キセ、おはよう」
「「おはようございます」」
なにもなかったかのように挨拶してるが、アンナはキセの足を踏んでいる。いつもながら目を見る範囲では深刻な事態でもないのだろう。キセ的にはどうかはわからないが。自分は兄上とこんなやり取りがないから少しうらやましくもある。準備も整い、時は満ちる。まもなく森からあらゆるものがあふれ出る。
「第2部隊の目的は押し返すこと。臨機応変に対応し、怪我のないように。」
信頼を声に乗せて届ける。一人でできないことだから。さぁ勝利をみんなに。
次が誰かはまだ未定ですん。