王伝編集官 異伝 マーリィ①
夏季休暇、ルシネイラ組の一幕です。
ふんふん、ふんふん。鼻歌まじりでご機嫌な顔でマーリィは絵日記を書いている。学院から出される課題ではない、今ここにいない友人から出されたものだ。彼女の家は「飛翔するカモメ亭」という名の宿屋兼酒場。ここにはルシネイラ国に入港する船に関わる人々が宿泊や利用する。毎日が新しい出来事であふれている素敵な場所だ。
「マリーちゃん、こっちのは新作かい?」
「うん、そう。食べたら感想きかせてね?」
お昼時も過ぎ、マリーとその友人達は各自やりたいことを店内のテーブルでしているのだが、普段より少ない人数の場所は新作料理の試食という名のみんなのおやつで埋まっていた。喧騒を避けたい人くらいしかこの時間に昼食を食べないものだが近頃は目新しい「おやつ」を目当てで来る人もいるとかいないとか。
普段より割り増しの無料スマイルで応対するマリー。メイリア、ログサ、ロビーオの3人はどうにもテンションの高い看板娘の様子にだんだん心配になってきたようだ。それでもログサの食べる手は止まらない。妹がいてもいなくても変わらないのは職人気質と呼べるだろう。人気の蛸の唐揚げとイカリングを交互に食べ、その合間に新作と言われたそれ。
「ミックスドライフルーツのポテトサラダか。船上だと肉・魚に玉葱・芋・人参が主だからどれにでも合わせられそうだな。後で市場に寄って試してみるか」
そう言った船員のおじさんは調理場担当だそうで、食材の仕入れも任されている。目を閉じもぐもぐしながらうれしそうな顔。ついでにあごヒゲをもみもみしてるのは癖かな。あれこれ作りたい料理を考えているみたい。おじさんがお昼に食べているのは干貝柱とドライトマトのオイルパスタ。干茸のクリームスープ。みごとに乾物だらけ。他のもあるんだけどねぇ。おじさんの食事は=仕事なんだね。
「この大根とベビーリーフのサラダに入ってる葉物も船で育てられるようになるとか、マリーちゃんとこの王子様っておもしろい御人だねぇ」
えへへと笑ってしまいなぜだか自分のことのようにうれしいな。ほくほく顔のおじさんを見送ったら、ようやく待っていたひとが現れた。
「おにーさん!いらっしゃい」
「よっ、マリー。元気だったか?」
思わず店の入り口まで走って体当たりしてしまった。でもおにーさんはお父さんより大きくてがっしりしてるから平気なんだよ。つんつんした金茶の髪と目。しっかり日焼けしてたから船乗りさんかと思ったけど、飛竜に乗って世界中飛びまわっているんだって。何してるんだろう。そう考えてたらしがみついた私を軽々と持ち上げ「重くなったかー」としつれいなこと言ったー。
「ははは、ほらお土産だ」
「わー、かわいいピンク色。これなに?」
「コンクって貝殻。ここより南の獣人の住んでる所で取れるやつ」
つやのある乳白色にほんのりピンク色に染まった貝にお花の模様があしらってある。紐をつけて首から下げると頭をわしわしされた。「もー」と口では言ってるけどいやじゃない。ずっと言ってるようにおにーさんは理想のおにーさんなのです。
「今日一泊な。夜に戻る」
「いってらっしゃーい」
そしてまた来たときと同じでふらりと出かけるのを見送った。宿にいるお母さんに「おにーさん、一泊だってー」と声をかけると「おや、イストさんかい。あいよー」と声がかえってきた。席に戻ってさっそく今もらったお土産も描かないとと気合いをいれたら、ログサの口から食べ物の気配が消えてた。
「めずらしいな。マリーがそこまでなつくなんて」
「だって、なんかにてるんだもの」
あぁ、なるほど、と3人とも納得らしい。見た目はぜんぜんちがうけどねぇ。おにーさんのお土産話もだけどみんなのお土産話もたのしみだなー。
マリーはなにかを察した!
次回、メイリア&ロビーオです。
いい雰囲気に仕上げられるといいのですが。




